森保J攻撃陣の懸念事項 クラブで8発も最終予選は0…堂安律を生かすための最適解【コラム】

日本代表の堂安律【写真:徳原隆元】
日本代表の堂安律【写真:徳原隆元】

堂安律は最終予選、攻撃陣で唯一のノーゴール

 3月20日のバーレーン戦(埼玉)を2-0で勝利し、世界最速・日本サッカー史上最速で2026年北中米ワールドカップ(W杯)出場権獲得を決めた日本代表。21日に記者会見に臨んだ森保一監督とキャプテン・遠藤航(リバプール)も安堵感をのぞかせた。

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 しかしながら、指揮官が「レベルの高い選手たちで2チーム、3チーム分、作れるくらい選手層を厚くできるようにしていきたい」と強調した通り、このままでは広大なアメリカ・カナダ・メキシコで最大8試合を勝ち抜いて頂点に立つのは難しい。

「W杯で8試合戦っていくためには、選手層、レベルの高い選手がいて、全員がスタメンで出場でき、途中から出ても試合を決める、締める、コントロールするといったことができるようにしていかないといけない」とも森保監督は語っていた。だからこそ、ここからの1年3か月で新戦力発掘を含めた大胆なチャレンジを進めていくことが重要だ。

 そこで1つ気になるのが、最終予選全7試合中6試合に右ウイングバック(WB)で先発した背番号10・堂安律(フライブルク)だ。2024年6月シリーズでの3バック導入以降、堂安の主戦場がこのポジションとなり、本人もやりがいを感じながら取り組んできた。彼はエースナンバー10を背負う責任も強く感じていたから、守備負担が高かったとしても、文句1つ言うことなく、チームのために献身性を強く押し出した。その姿勢は称賛に値する。

 けれども、堂安が攻撃面で異彩を放ったシーンは全体を通して少なかった。最終予選の代表選手たちを見渡すと、4ゴールの小川航基(NECナイメンヘン)を筆頭に、南野拓実(モナコ)と守田英正(スポルティング・リスボン)の3ゴール、鎌田大地(クリスタルパレス)と上田綺世(フェイエノールト)、久保建英(レアル・ソシエダ)の2ゴールと複数得点を挙げた選手が何人かいて、三笘薫(ブライトン)、伊東純也(スタッド・ランス)、前田大然(セルティック)らゴールを奪っているが、堂安だけはノーゴール。これには本人も不完全燃焼感が拭えないはずだ。

堂安と三笘の両サイドが消されるケースは今後も続く?

 直近のバーレーン戦を見ても、対面にいる左MFアルフマイダン(20番)と左サイドバック(SB)のアルハラシ(23番)の守備に忙殺され、低い位置を取っている時間帯が圧倒的に長かった。前半は事実上の5バックになっていたから、日本の両サイドが効果的な攻め上がりを見せることがほとんどできなかったのだ。後半頭になって久保と堂安が入れ替わり、堂安が中への侵入を狙っている意識が窺えたが、それも単発で終わってしまう。そして後半18分には伊東と交代。攻撃の切り札を託す形になったのだ。

「もっと薫君と僕のところで背後で起点を作れれば、そこから直接ゴールにつながらなくてもやり直したりできる。でも、押し込む形がなかったですし、今日も薫君と俺のところでサイドで起点になって仕掛けるシーンもなかった。そこはチームの課題だと思います」

 堂安自身もこうコメントしているが、対戦相手が日本対策を徹底してくることから、堂安と三笘の両サイドが消されるケースが数多く見受けられたのは確かだ。

「相手のラインが高かったので、1回、ロングボールで下げてからバックパスして、センターバックの選手、滉(板倉=ボルシアMG)の位置がハーフウェーラインくらいまで来れれば、僕たちが高い位置を取れる。後半は自然と相手がバテて、そういう時間になりましたけど、自分たちからそういう時間を生み出さないといけないなと思いました」と堂安はやり方次第で変えられるという認識を示している。まずはその修正が必須だ。

 一方で、森保監督は「途中からジョーカーの伊東と中村敬斗(スタッド・ランス)を出せば崩せる」という確信があって、堂安のハードワークに期待しているところもある様子。その采配によって、結果的に「堂安は伊東が出るまでの間、献身的守備を求められている状態」に陥ってしまいがちだ。それは彼のポテンシャルを考えると本当にもったいないこと。もっと堂安を高い位置で使い、左足の仕掛けやフィニッシュを引き出していかないと、この先は厳しくなるだろう。

堂安の現状は中村俊輔と重なって映る

 今の彼は、2002年日韓W杯前に左WBで使われた中村俊輔(横浜FC)と重なって映るところもある。当時のトルシエジャパンは中田英寿、小野伸二(Jリーグ特任理事)、中村と優れた司令塔が揃っていたから、指揮官としては「彼らを共存させたい」という思いから、中村俊輔の左WB起用に落ち着いたのだろう。

 実際、レフティの中村は左サイドから鋭いクロスを頻繁に上げていたが、やはり堂安のように守備に忙殺される時間が長く、「俺はクロスマシーンじゃない」と当時よくぼやいていたものだ。

 結果的に中村俊輔は日韓W杯には選出されず、本大会ではその役割を小野伸二が担ったわけだが、小野にしても自分のベストポジションだと考えていたわけではない。特定のポジションにタレントが集まった時の監督のマネージメントというのは、やはり難しいものなのである。

 今の堂安にしても、右WBではなくシャドウで使う手はある。しかしながら、そこは日本最大の激戦区。南野、鎌田、久保の3人に加え、マルチ型の旗手怜央(セルティック)も控えているし、場合によっては中村敬斗や前田もそこで使われる可能性がある。右サイドでの守備力や球際の強さ、走力を考えると、どうしても森保監督の中では「堂安を先発させるのがベストチョイス」となってしまう。それが堂安にとっては辛いところなのだ。

ベンチに下げる可能性も?

 もちろん今後は4バック回帰もあるだろうし、右MFで使われれば、堂安はもっと高い位置でプレーでき、持ち前のフィニッシュの迫力や精度を発揮できる。25日の次戦・サウジアラビア戦(埼玉)からぜひ積極的にトライしてところだ。

 ただ、W杯抽選会のポッド分けを有利に運ぶために、日本は勝利にこだわり続けなければいけない。となると、そこまでリスクは冒せないし、3バックを継続して安定感を保ちながら、スタメンの3人程度を変えながら戦っていく形が有力。シンプルに菅原由勢(サウサンプトン)や関根大輝(スタッド・ランス)を右WBに先発させ、堂安をベンチに下げる可能性が高そうだ。

 こうやって分析していくと、堂安がゴールを量産できる理想的な陣容はなかなか見えてこない。が、残り3戦の中で彼が爆発するような形を作ってほしいというのが、多くの人々の願いではないか。

 ご存知のとおり、彼は2022年カタールW杯でドイツとスペインから2ゴールを奪ったフィニッシャーだ。シュートのパンチ力や精度は今季リーグ8得点を挙げているフライブルクでも実証されている。その能力を日本代表で最大限活用しないというのは、やはり大きな課題と言っていい。

 背番号10を生かす最適解は一体、どういう形なのか……。それを模索することも、北中米W杯成功への大きなポイントになる。ここから森保監督がどのようなアクションを起こしていくのかをしっかりと見極める必要がありそうだ。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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