日本サッカー界に刻まれた「久保建英の日」 世界的名手と類似の“時間操作能力”【コラム】

バーレーン戦で1得点1アシストの活躍を見せた久保建英【写真:徳原隆元】
バーレーン戦で1得点1アシストの活躍を見せた久保建英【写真:徳原隆元】

1ゴール1アシストの活躍を見せた久保建英、日本代表でも真価を発揮

 北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選、バーレーン代表を2-0で破った日本代表が世界最速で突破を決めた。久保建英が覚醒した試合として記憶されるかもしれない。
 
 1ゴール1アシストの活躍。バーレーンのコンパクトな守備ブロックを崩せないなか、久保は狭いスペースで受けて揺さぶりをかけ、軽々とプレスを外して運び出すなど、違いを見せつけていた。三笘薫が止められ、堂安律、南野拓実も見せ場を作れない状態だったが、久保のキープ力、打開力は光っていた。

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 後半21分の先制点はアシスト。上田綺世からのきれいな縦パスを受け、自分の左側から背後を回って右側へ出た鎌田大地へ正確なラストパス。メスト・エジルのような上から叩いて浮かすシュートを決めた鎌田も見事だったが、上田のパスを引き出す縦への鋭いランと、左にいた鎌田の動きをしっかり視野に収めての計ったようなパスは見事だった。
 
 後半42分にはGKのニアサイドを抜くシュートで2-0としている。クロスボールを予測して動いたGKの逆を突いた。この2分ほど前にも、ワンフェイクでDFを外して右足で狙った惜しいシュートもあった。
 
 これまでも随所に光るプレーは見せていたものの、試合の主役として決定的な仕事をしたのはおそらく初めてではないかと思う。すでに所属しているレアル・ソシエダでは特別な選手になっていたが、日本代表でも真価を発揮し始めたわけだ。
 
 レアル・ソシエダでの久保は、右サイドに開いてプレーすることが多い。左利きの右ウイングとしての突破、打開で活躍してきた。対面のDFを手玉に取る能力は、注目された10代の頃からの特徴である。軸をずらす巧妙な仕掛け、素早いボールタッチでの幻惑、ドリブルから繰り出すシュートやパス。年々進化はしているが、もともと持っていた能力をバージョンアップしているので、プレーの種類としてはずっと同じとも言える。

久保建英の最大の強みは「タイミングを操作できる能力」

 日本代表では1つ中のポジションを任されている。右の外には堂安律、伊東純也がいるからだ。ウイングとしては2人に引けを取らないが、ウイングバックとなると守備力も問われる。超攻撃型3バックのウイングバックとはいえ、守備で使うパワーの出力では堂安、伊東という選択になっている。

 ただ、シャドーのポジションは久保の可能性をより広げてくれるだろう。おそらく久保の最大の強みは、タイミングを操作できる能力だからだ。ボールを左足に吸いつけたまま、顔を上げっぱなしでプレーできる。タッチの細かさは、相手のいつパスするのかの予想を困難にする。速くも遅くもできる。
 
 レアル・ソシエダで一緒にプレーしたダビド・シルバとよく似た能力だ。シルバも右サイドハーフとして地位を確立したあと、インサイドハーフ、あるいは偽9番としてスペイン代表でも活躍した。ベテランになってスピードが落ちてきても時間を操作できる能力は健在だった。久保も、中盤より前であれば場所を選ばない選手になるはずだ。

 これからW杯に向けての準備が始まる。超攻撃的3バックは、おそらくW杯での主力システムにはならないだろう。久保のポジションは右サイドハーフかトップ下になると思うが、どこでプレーしようがバーレーン戦のような存在感を示してほしいし、十分それは可能だろう。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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