宿舎で真っ向から伝えた“選手兼コーチ”…長友佑都招集の舞台裏 森保監督が固めた覚悟【連載】

昨年のアジアカップでは準々決勝でイランに1-2で敗れる
日本代表はバーレーンに勝利し、8大会連続8度目のワールドカップ(W杯)出場を決めた。3試合を残して史上最速で本大会出場を決めた今回の最終予選。強さの秘訣に迫る連載「森保ジャパンの深層」の第1回は森保一監督が覚悟を持って下した“決断”に焦点を当てる。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎)
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快進撃は指揮官の覚悟から生まれた。ちょうど1年前、2024年3月、北朝鮮とのW杯アジア2次予選。森保監督は37歳の長友佑都(FC東京)を招集した。「これからより厳しい戦いになっていくなか、彼がもたらしてくれるエネルギーに期待したいと思っている」。カタールW杯以来、1年3か月ぶりの電撃復帰だった。
W杯優勝を目標に掲げた第2次森保ジャパン。2023年9月に敵地で4-1で下したドイツ戦を含む10連勝を飾るなど順風満帆に見えたが、課題は見えにくくなった。カタールW杯後にDF吉田麻也やGK川島永嗣らベテランが抜けて東京五輪世代が中心となったチームは、強烈な個を持つ反面、リーダーシップを取れる選手が少なかった。それが顕在化したのが、24年1〜2月にかけてカタールで行われたアジアカップ。準々決勝では先制しながらもイランのパワープレーの前に逆転負け。相手の徹底した戦いの前にベンチも、選手も打開策を示せず、なす術なく敗れた。
失意に終わったアジア杯後、初の代表活動となった北朝鮮とのホーム&アウェー2連戦(結果、アウェー戦は中止)で、ラージグループの中にいたベテランの招集を決めた。「アジア杯のあとでしたし、チームは一丸ではありましたけど、さらにというところで。試合に出る実力があるのはもちろん、ベンチ外になることが多くても、チームの力になってくれると思いました」。グラウンド内外を通じて、長友のコミュニケーション力でチームに“熱”を取り戻すことが狙いだった。
宿舎で再会した際、長友と2人で話す機会を設けた。受け取り方次第では失礼に当たるのも承知のうえで、真っ向勝負で“選手兼コーチ”という役割を伝えた。「変に言うよりも、ちゃんと話したほうががいいと思いました。もちろん、佑都じゃなければ言わない。これで『それなら帰る』と言われても仕方がないと思っていましたけど、佑都はこっちの意図も汲んでくれると思っていましたから。本人は受け入れてくれましたし、『最後はW杯のピッチに立って試合に出ていますからね』と言ってましたけどね」。
長友自身も招集された時点で“理解”していた。「自分でもそうだろうなとは思っていました。正面から言ってくれる森保さんの覚悟も感じましたし、僕たちはそういう関係ですから。信頼し合っているから。それはこれまで積み上げてきたものですからね」。ロシアW杯ではコーチと選手、カタールW杯では監督と選手として、2大会連続で戦った2人の絆があったからこそ、引き受けた。

長友の“熱”が後輩たちに伝播
チームは確実に変わっていった。長友が食事の席をはじめ積極的にコミュニケーションを取ることでチーム内に会話が増え、自発的に意見交換を行うようになった。MF鎌田大地(クリスタル・パレス)は「佑都くんを見ていたら今は試合に出てないですけど、みんな代表にいる価値を感じられるし、やっぱり代表でやれるのは特別なことだと感じられる」と日の丸を背負って戦う価値を再認識。アジア杯後にはチームに“提言”したMF守田英正(スポルティング)も「選手間だったり、スタッフを交えてのディスカッションは本当に以前より増えたなって思います」と明かす。
長友自身も後輩たちの変化を感じ取っている。「最初の頃は熱すぎてひかれるというか、自分が取り残されている感覚になっていたんですけど、今なんかお互いテーブルの食事の席でも、そういう熱い話をして、何か自分のエネルギーとか熱いものを後輩たちが受け入れてくれ始めたなっていう感覚があって。みんな俺のこのエネルギーを受け止めてくれるようになったなと思います」と目を細める。
欧州のトップリーグで研鑽を続ける選手たちの高い能力に加え、強固なチーム力。指揮官の狙い通り、ポジティブなエネルギーを取り戻したチームが、快進撃を見せたのは必然だった。
(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)