久保建英のアトレティコ移籍「理想的とは思えない」 上手くいくビッグクラブは…「彼に合う」【現地発コラム】

ラージョ戦に出場した久保建英【写真:Getty Images】
ラージョ戦に出場した久保建英【写真:Getty Images】

ラージョ戦で先発出場の久保「きつかったが、後半は楽しくやれたので良かった」

 レアル・ソシエダはミッドウィーク開催のマンチェスター・ユナイテッド戦(1-4)で判定に苦しみ、ラウンド16でUEFAヨーロッパリーグ(EL)敗退が決定したあと、中2日でラ・リーガ第28節ラージョ・バジェカーノ戦に臨んだ。

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 ラージョのスタジアムは住宅街の中に無理やり建設された形になっていて、片側のゴール裏には客席がなく、真裏のマンションからピッチ全体を見渡せる特殊な作りだ。ここを訪れた選手たちはよくピッチサイズの狭さに苦しめられると口にしているが、実際100メートル×67メートルとラ・リーガの中で最も狭い。レアレ・アレーナはラ・リーガの中でも広く105メートル×70メートルのため、ソシエダの選手たちにとっては特にやりづらいピッチと言えるだろう。

 ELから中2日、久保建英は肉体的かつ精神的にも疲弊したコンディションのなか、2試合連続で先発。ソシエダは前半、マルティン・スビメンディの鮮やかなボレーシュートで先制するも、久保はマッチアップしたジョゼップ・チャバリアの厳しいマークや、ピッチの狭さによる相手からの速い寄せなどが影響し、楽にプレーはさせてもらえなかった。

 後半に入りラージョに逆転を許したが、久保は徐々にスペースを得てようやく本領発揮。前半24分、それまで苦しめられていたチャバリアを巧みなトラップでかわし、そのままドリブルで持ち込み惜しいシュートを放つ。続く35分、アルカイス・マリエスクレナの同点弾の起点となるクロスを上げ、終了間際にはあと一歩で決勝点という絶妙なパスをマリエスクレナに送った。久保の活躍で終盤追い上げたものの、試合はそのまま2-2で終了。ソシエダは公式戦6試合連続、ラ・リーガ3試合連続で勝ち星に見放され、12位に後退と悪い流れから抜け出せないでいる。

 久保は試合後、マドリードから日本代表に直接合流するため、スーツケースを抱えて急ぎ足のなか取材に応じた。中2日によるフィジカルコンディションについて、「最後のほうはきつかったが、後半は楽しくやれたので良かった」と話し、ラージョ戦については「負けなくて良かったというのがすべて。自分たちが先制したあとに2点取られ、今日もまた負けるかと思ったし、最後にもう1点取れれば良かったけど、引き分けられて良かった」と率直な感想を述べた。

 得点シーンについては、「シュートは決め切れなかったが、最後に得点に関われて良かった」と安堵した表情を浮かべ、最後に「代表戦を挟んでみんな、フレッシュな状態で戻ってくると思う。ここからまたみんなで頑張りたい」と意気込みを語った。

スペインラジオ局「カデナ・コペ」でラージョ・バジェカーノの番記者を務めるカルロス・ガンガ氏【写真:高橋智行】
スペインラジオ局「カデナ・コペ」でラージョ・バジェカーノの番記者を務めるカルロス・ガンガ氏【写真:高橋智行】

番記者が指摘「久保は、攻撃以外のタスクをあまり求めてはいけない特別な選手」

 後半途中から調子を上げた久保に対し、スペイン各紙の評価はバラバラだった。全国紙では「マルカ」が1点(最高3点)とした一方で、「AS」は2点(最高3点)と高評価した。

 クラブの地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」は、「前半はほとんど攻撃に関与できなかったが、ハーフタイム後にスイッチが入った。美しい動きで2-1のゴールに迫り、同点のプレーを作り、マリエスクレナに素晴らしいボールを出した」と評し、6点(最高10点)と及第点をつけた。

 一方、「エル・ディアリオ・バスコ」は「前半は姿が見えなかったが、後半は試合に入り込んだ。トゥリエンテスからのパスから素晴らしい個人技を見せたが、右足のシュートは高く上がった」と評し、2点(最高5点)と低く採点した。

 スペインのラジオ局「カデナ・コペ」でこの試合の実況を担当した、ラージョ・バジェカーノの番記者を務めるカルロス・ガンガ氏に久保について言及してもらった。

「EL敗退による肉体的消耗と心理的ショックのあるなか、とてもいい試合をしたと思う。ボールを持つたびに右サイドで羽ばたくチャンスがあった。ラージョの選手を何人も引きつける危険な存在だったよ。縦に仕掛けてゴールラインに達し、何度もパスを出していたし、その1つが得点につながった。素晴らしい選手だということを今日、ここバジェカスで改めて証明した」

 久保は前半、存在感がなかったとの指摘をスペインメディアから受けていたが、マーカーを務めた左サイドバックのチャバリアとのマッチアップを楽しんでいたようだ。

「久保はあのポジションにおいて、ラ・リーガで特に危険かつ大きな違いを生み出す選手の1人なので、今日はチャバリアにとって非常に難しいタスクだったと思う。でも彼も優れたディフェンダーだ。2人のデュエルは今日の見どころの1つだったし、どちらも持ち味を発揮して面白い対決だったと思う」

 ラージョ戦ではまた、相手にボールをキープされる時間が長く、久保が前線でGKに向かってハイプレスをかけ、時に最終ラインまで戻って守備をする場面も見られたが、もっと攻撃に専念させるべきだとの見解を示していた。

「その点で久保に多くを求めるべきではない。彼は守備をするためにいるのではなく、攻撃で輝き、プレーを創造してパスを出し、何もないところからゴールを奪うためにいる。攻撃以外のタスクをあまり求めてはいけない特別な選手だ」

久保建英の移籍「ベストとは言い難い」 焦点は欧州カップ戦参加の行方

 毎年のことだが、シーズンが終わりに近づくにつれ、久保の移籍に関する話題が増えていくだろう。ガンガ記者は来季の去就について、レアル・ソシエダの出来が大きく左右すると考えている。

「久保は強豪クラブに飛躍する準備はできている。なぜならレアル・ソシエダはスペインでも大きなクラブだからだね。欧州のトップクラブでレギュラーを張れるかどうかは別の話だけど、彼との契約を望み、大金を支払うクラブはいくつもあると思う」

「しかし、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)でレギュラーの座を確保し、中心選手として活躍しているので、移籍がベストだとは言い難い。実際にどうすべきかはラ・レアルが今季をどのように終えるか、欧州カップ戦に来季再び参加できるかどうかを見なければならない。仮に出場権を逃した場合、欧州カップ戦、特にUEFAチャンピオンズリーグでプレーできるチームを探すべきかもしれない。私は久保がCLでプレーすべき選手だと思っているからね」

 久保の移籍先候補に関しては今季も、さまざまなクラブの名前が取り沙汰されているが、その出所の多くは信憑性の疑わしいスペインのウェブメディアだ。ガンガ記者はその件に関して、「何も知らない」と答えたうえで、候補に挙がるアトレティコ・マドリードやプレミアリーグのクラブに移籍した場合を想定し、熟考しながら意見を述べてくれた。しかし、90分間ハードワークが求められるアトレティコに関しては、久保に合うクラブとは考えていないようだ。

「久保のプレースタイルを考えると正直、(ディエゴ・パブロ)シメオネ指揮下で上手くいかないと思う。もちろん彼はボール扱いに優れているので出場時間を多く得られるとは思うが……。それでも彼にとってアトレティコ移籍は理想的なシナリオとは思えない」

 一方、プレミアリーグのクラブへの移籍についてはポジティブな意見が返ってきた。

「アーセナルは彼に合うんじゃないかな。マルティン・ウーデゴールのようにかつてラ・レアルでプレーした選手が成功を収めているし、アトレティコよりもプレミアのクラブのほうが彼には合っているよ。リバプールも同じように上手くいくと思う」

 ラージョ戦後、すぐさま日本に向かった久保がソシエダで戦いを再開するのは今月下旬となる。シーズンを良い形で締めくくれるかどうかは最後の2か月の出来に懸かっている。ガンガ記者が言うように、その結果次第で久保の周囲は再び騒がしくなるだろう。

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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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