J1の新潮流…なぜ3バック席巻? 上位勢が軒並み導入、メリット&デメリットを考察【コラム】

今季のJ1リーグは3バックを採用するチームが増加した【写真:柳瀬心祐 & 徳原隆元】
今季のJ1リーグは3バックを採用するチームが増加した【写真:柳瀬心祐 & 徳原隆元】

3バックシステム採用クラブが増加、トレンドに乗る背景とは?

 今シーズンのJリーグで3バックが増加している。これは世界的なトレンドでもあり、この数シーズンで徐々に強まってきた傾向でもある。もちろんチームや監督によって戦術的なディテールに違いはあるが、守備面では5レーン(横幅68メートルを5つのレーンに分けるポジショナルプレーの基本概念)をベースにしたスタイルが流行するなかで、最終ラインを5バックにすることで、横ズレの距離を短くすると同時に、5つのレーンを埋めるという効果が期待できる。

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 つまり3バックとは言いながら、ブロックを敷く形での守備は5バックにしているチームが多い。その分、中盤から前の人数は少なくなるが、例えば高い位置でボールを奪いにいく時は3バックか4バック、引く時は5バックと守備の高さで臨機応変に可変するチームも少なくはなく、3バックと言っても守備を固めるだけでなく、高い位置で相手のビルドアップにプレッシャーをかける守備もセットで考えられていることが多い。

 5バックのままだと、前に守備の人数をかけられない分、ハイラインを維持するのは簡単ではないが、2シャドーの選手をサイドに開かせた5-4-1など、コンパクトなミドルブロックを組むことでラインを下げすぎずに対応することは可能なため、相手の出どころを抑えながら、ブロック内でボールを奪い、比較的広いスペースを生かしたミドルレンジのカウンターを繰り出すような選択を取るチームもある。

 もう1つ言うなら相手側も3-4-3あるいは3-4-2-1というシステムを使うチームが多く、5バックにしておけば、相手のアタッカー3枚に中央で数的優位を造られない関係を作りやすいということもある。もちろんサッカーというのは攻守両面で大なり小なり変化するものなので、すべてがホワイトボードの図面のように行くわけではないが、5バックをベースにリスクコントロールすることで、多様な相手に守備的な戦略を立てて行きやすい。

 3バックの攻撃面でのメリットはビルドアップで、プレスを外して前に運ぶための枚数を確保しやすいということがある。もちろん相手の守備に応じて数的優位になりやすいことを利用して、センターバックがボールを前に運ぶことも可能になる。相手が3枚でプレスをかけてくる場合、4枚回しにしながらビルドアップの“出口”を見つける形もよく取られるが、片方のウイングバックをサイドバック化させることで、ボランチの選手を最終ラインに落とす必要があまりない。

 昨シーズンは4-4-2でロングボールを強みに3位に躍進したFC町田ゼルビアが3バックに変更した理由もポゼッションの導入が念頭にあるのだろう。ビルドアップにおいても万能なシステムというものは存在しないので、相手がかけてくるプレッシャーに応じて取るべき手段は変わってくるが、可変システムがスタンダードになってきている現代サッカーにあって、3バックをベースにしたほうが、うしろを安定させながら臨機応変にゲームを進めやすいというのはメリットだろう。ただし、5バックが固定されると攻撃でも守備でも前に圧力をかけにくくなる。

今季J1に復帰をした清水エスパルス【写真:徳原隆元】
今季J1に復帰をした清水エスパルス【写真:徳原隆元】

清水エスパルスは試合によって3バック&4バックを使い分け

 攻守ともに3バックと言っても取られる戦術はチームによって多様性がある。例えば“昇格組”の横浜FCは手堅い守備をベースに相手のウィークポイントを突くのが基本スタイルで、5バックで構える時間帯も多くなる。攻撃においても守備に回った時のバランスを崩したくないので可変領域は限定的になりやすい。同じく“昇格組”のファジアーノ岡山や松橋力蔵監督が就任したFC東京も、攻守両面でバランス重視の傾向が強い。

 一方で柏レイソルはリカルド・ロドリゲス監督がポゼッションをベースにした攻撃的なスタイルを植え付けており、ボールを動かして相手のプレスを外しながら3バックの選手がウイングバック、シャドーとポジションチェンジを織り交ぜるなど、多彩な攻撃を繰り出す分、守備に転じてもボールサイドにプレッシャーをかけて奪い返しに行くことが基本になる。それだけリスクもあるが、センターバックの1人が前に出ても、2枚は残って構えられるという下支えもシステム的なベースになっている。

 マンツーマンのハイプレスをベースにするサンフレッチェ広島は、3バックが形的なバランスというよりはスタートポジションとして立ち戻る場所になっている。そのためトランジションから縦に攻め切る時はあまり可変させず、ボールを握る中ではスライドやポジショチェンジも起こり得る。ただ、柏ほどそこのディテールにこだわりを持っているわけではなく、シンプルに迫力ある攻撃を仕掛けることが第1で、それが難しい時のポゼッションという大枠の考え方は柏と異なる。

 3バックと4バックを試合によって使い分けているのが、秋葉忠宏監督が率いる清水エスパルスだ。ただし、スタートポジションがどちらになるにしても、流れに応じて同じメンバーのまま3-4-2-1から4-2-3-1、その逆というふうにシフトできるのは“森保ジャパン”にも通じるところがある。守備でも前からハメてボールを奪いに行く時は4バック、構えて守る時は5バックになりやすいが、相手のFWの枚数や特長に応じて、4バックのまま守り切るケースもある。

 清水がシーズン開幕から3バックと4バックを使い分けることをプランに入れていたのに対して、樹森大介監督が1年目のアルビレックス新潟は最初の5試合で4バックを使っていたが、未勝利のまま迎えた第6節の町田戦で3バックに変更した。主力センターバックに怪我人が出たことに加えて、町田の強力な1トップ2シャドーを封じるために、中央の守備をはっきりさせたい狙いがあったようだ。1点リードされて迎えた後半は前からのプレスを強めるためか4バックに戻したこともあり、中断明けのガンバ大阪戦ではその形に戻す可能性が高いが、相手の攻撃のストロングを封じるためのオプションとして、5バックの構えも想定した3バックをオプションにしていけるか注目ポイントだ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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