ベンチで突如「お前が声を出してみろ」 新人が殻破りついに主将へ…元日本代表が響かせた檄【コラム】

脇坂泰斗が阿部浩之とのエピソードを話してくれた【写真:Getty Images】
脇坂泰斗が阿部浩之とのエピソードを話してくれた【写真:Getty Images】

川崎キャプテン脇坂を叩き上げた元日本代表・阿部浩之の振る舞い

 2025年2月。元日本代表の阿部浩之が、2024年シーズン限りでの現役引退を発表した。

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 2012年に関西学院大からガンバ大阪に加入すると国内3冠を達成。17年にやってきた川崎フロンターレでは、リーグ初優勝と翌年の連覇、そして19年はルヴァンカップの初制覇にも貢献した。

 試合の流れを読む戦術眼と正確無比なシュート技術は群を抜いており、初優勝を決めたリーグ最終節の先制点やルヴァンカップ決勝の同点弾など、重要な場面で得点を決めた勝負強さもあり、「優勝請負人」として存在感を放った選手だった。その後、名古屋グランパス、湘南ベルマーレと渡り歩き、J1通算で303試合出場50得点を記録している。

 現在、川崎でキャプテンを務めている脇坂泰斗は、阿部から多くの影響を受けた選手の1人だ。「寂しいですよね」と現役引退を惜しみつつ、彼との印象的なエピソードをいくつか明かしてくれた。

 例えば2018年に新人だった脇坂は、ミドルシュートの名手である阿部とともにシュート練習を行うことで、自分なりのシュートの型を身につけてきたのだと話す。

「自分はシュートのバリエーションがあまりなかったので、阿部ちゃんのシュートを見て一緒にシュート練習をしていました。蹴り方は違うのですが、その真似をして自分なりに噛み砕きながらイメージを作ってやっていました。すごく参考にしていて、今の形ができています。シュートの部分では一番影響を受けている選手ですね」

 阿部はフィジカル的に優れたタイプではなかったが、ミドルレンジから放つ強烈なシュートに定評があり、コースギリギリを狙ったコントロールショットも絶品だった。脇坂はシュートフォームそのものをコピーするのではなく、どういう軌道をイメージして蹴っているのか、そのエッセンスを本人に尋ねて吸収したのだという。

「例えば、ここを狙うと回転で流れて(ゴールの)角に行く。コースを狙いすぎると、ずれたりするけど、GKの頭の上のあたりを狙えば、インコース巻きだったら角に入るからと言われました。そのイメージは今でも使ってますね」

2019年のルヴァンカップ初制覇に大きく貢献をした【写真:産経新聞社】
2019年のルヴァンカップ初制覇に大きく貢献をした【写真:産経新聞社】

ルーキー時代の脇坂に“甘さ”指摘「お前は厳しさが足りない」

 シュート技術だけではない。

 出場機会のほとんどなかったルーキー時代は、レギュラーだった阿部からよく声をかけてもらったとも話す。ただ言われたのは優しい励ましなどではない。むしろプロとしての甘さを指摘するような言葉だった。

「お前は厳しさが足りない」

 ある時、阿部からそう言われたこともあったという。

「綺麗なプレーだけでは絶対に無理だからと。そもそもお前は必死に見えるタイプでもない、と言われて。初めてベンチに入った時、阿部ちゃんが『お前が声を出してみろ』と真剣な表情で言ってくれました。それだけ気合い入っているというアピールになる。チームのみんなが『おっ?』ってなるぞって。そういうのを前面に出せと言われました」

 こうした言葉やそこでの経験は、現在キャプテンマークを巻いている脇坂の振る舞いにも小さくない影響を与えているようにも思える。

 阿部は公私ともにお世話になった存在だった。最後はその人柄を話してくれた。

「ツンデレなんですけど、めっちゃ優しいんですよ(笑)。ご飯にもよく連れて行ってもらいました。奥さん同士も仲良くさせてもらっています。引退の報告は直接ではなく、リリースで知りましたけど、寂しいなと。ただ、彼がそういう判断をしたので、そこは尊重しないといけない」

 そして「賢くて、チームのために働けて、勝ちに直結したプレーができる。彼のような選手もサッカー界は減ってきていますよね」と、最後まで引退を惜しんでいたのは言うまでもない。

 なお、「先輩後輩の関係は変わってないので、これからもお願いします」と本人にメッセージを送ったところ、「お世話も引退するわ」と、最後までツンデレな阿部節の返信が返ってきたと笑った。

 2017年のリーグ初優勝と翌年のリーグ連覇、そして19年のルヴァンカップ初制覇。クラブ黄金期を築く礎となった時期に輝いた阿部の貢献は、今後も色褪せることはないだろう。

(いしかわごう / Go Ishikawa)



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いしかわごう

いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。

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