川島永嗣から先発奪い「ピンチは少なかった」 元日本代表GKを下げてまで…27歳抜擢の訳【コラム】

新潟から磐田へ新加入のGK阿部航斗、甲府戦で初スタメン&連敗ストップに貢献
ジュビロ磐田は、エコパスタジアムで行われたJ2第5節のヴァンフォーレ甲府戦で2-1と勝利し、5試合を終えて勝ち点を9に伸ばした。この試合でジョン・ハッチンソン監督は1-3で敗れたアウェーのカターレ富山戦から3人のスタメンを変更。その1人がアルビレックス新潟から加入した27歳のGK阿部航斗だった。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
磐田はチームキャプテンでもある川島永嗣が開幕から4試合ゴールマウスを守り、第2節のサガン鳥栖戦ではMOM級の活躍で1-0の勝利に導くなど、抜群の存在感で磐田を支えてきた。しかし、2連敗で迎えた甲府戦に向けて、ハッチンソン監督は阿部を抜擢した。その理由が、磐田が目指す“アタッキングフットボール”をより高めるために、ハイラインを実現することだった。
ハッチンソン監督は試合後に「先週はコレクティブに守備ができませんでしたが、今日はコレクティブに、全員が狙いを持って守備をするところは大きく改善できたと思います」と振り返ったが、前からボールを奪いにいく守備はもちろん、ビルドアップでも全体を高くすることで、ボランチやサイドバックの攻撃参加も多くなった。
今季リーグ戦初出場の阿部は「ハイラインで、前線もプレス行けてましたし、うしろもそれに付いて行って、割とコンパクトな状態の時間が多かったと思います。背後を抜けられるシーンはあったんですけど、ハイラインで戦ってる以上はしょうがないのもあると思うので。まあ、そんなにピンチはここまでの4試合に比べたら少なかったと思う。チーム全体でつながってプレスに行けてたかな」と振り返る。
象徴的だったのは相手がディフェンスの背後を狙ってきたボールをペナルティーエリアの外に出てクリアしたシーンだが、それに関しても阿部は「監督、チームからそこを求められていると思うので。今日はそこに関しては良いプレーができた」と語った。ビルドアップにおいてもセンターバックのうしろでボールを捌くだけでなく、同じく左センターバックで初スタメンだった上夷克典の左脇まで出て、パスの受け手になるシーンも。まるでフィールドプレーヤーのように、ビルドアップを助けた。
マテウス・ペイショットによる2つの得点とも、うしろからのビルドアップが起点になった。1点目は前半43分、ボランチから左サイドのポケットに侵入した上原力也のクロスにペイショットがニアで合わせる形だったが、その流れを作ったのは上夷から左ウイングの倍井謙へのロングパスだった。左サイドバックの松原后が甲府のディフェンス間に抜けるような動きをしたことで、ラインが下がって左サイドの倍井が空くことを上夷は逃さなかったが、ハイラインが実現できていなければ、こうしたチャンスは生まれない。
江﨑巧朗のファウルによるPKで同点に追い付かれたところからのペイショットの2点目となる勝ち越し弾は、右センターバックの江﨑を起点に、右サイドバックの植村洋斗がワイドに縦パスを送り、そこに交代出場の佐藤凌我が走り込む形で、ジョルディ・クルークスの右足クロスにつなげた。ゴールを決めたのはペイショットだが、ボックス内には左ウイングの倍井、ボランチの中村駿に加えて、左サイドバックの松原までもが飛び込んできていた。
駆け引きとして自陣の深い位置でボールを回すこともあるが、基本的に攻撃も守備もできるだけ相手コートで完結するというのが、ハッチンソン監督の理想とする“スーパーアグレッシブ”なアタッキングフットボールだ。特に富山戦ではそうした前向きなメンタリティーが欠けていたことを指揮官は指摘しており、キャプテンであり、頼れる守護神としてチームを支えてきた川島を下げてまで、阿部を抜擢した理由と言える。
もちろん、この結果をもって磐田の守護神が交代したと結論づけるべきではない。90分の中で見れば、うしろの連係ミスから阿部がゴールエリアに追い込まれ、何とかクリアに逃れるシーンもあった。この試合ではPKの失点以外に阿部がギリギリのセーブを強いられるシーンはなかったが、これまで何度も磐田の危機を救ってきた川島の存在感というのは揺るぎないものがある。
その川島もハッチンソン監督が掲げるアタッキングフットボールを実現するべく、ビルドアップなどにも精力的に取り組んでおり、阿部や川口能活コーチが率いるGKグループと、体感的な情報を共有して現在に至っている。「連敗ストップのきっかけになれればいいなと思っていた。そこを今日は勝てたので、とりあえずホッとしてます」と阿部。怪我から回復してきた三浦龍輝、大卒ルーキーの西澤翼を含めて切磋琢磨していきたいという阿部だが、磐田が目指す新たなスタイルを体現するキーパー像を示したことは間違いない。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。