日本代表を応援したら「FIFAから苦情が」 蘇った記憶…ザッケローニがこぼした本音【インタビュー】

かつて日本代表を率いたアルベルト・ザッケローニ氏【写真:Getty Images】
かつて日本代表を率いたアルベルト・ザッケローニ氏【写真:Getty Images】

“ザック”ことアルベルト・ザッケローニ氏が語った日本サッカーへの思い

 2010年から4年間にわたって日本代表の指揮を執った“ザック”ことアルベルト・ザッケローニ氏が、FOOTBALL ZONEのインタビューに応じた。在任中、MF香川真司やMF本田圭佑らを擁し11年にアジアカップを制し、14年のブラジル・ワールドカップ(W杯)出場へ導いたイタリア人の目に、2026年の北中米W杯出場へあと一歩に迫っている現日本代表はどう映っているのだろうか。日本を離れて10年以上が経つなかで、日本サッカーに抱く思いを訊いた。(取材・文=倉石千種)

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——日本代表監督時代の功績が称えられ、殿堂入りを果たしました。昨年、その式典に出席されましたが、日本にはどのくらい滞在されたのですか?

「(日本への滞在は)10日間ぐらいだね。今でも日本との縁はつながっている。この前、長谷部(誠)とヨーロッパで会ったよ。チェゼナティコ(イタリア)まで会いに来てくれて、心がこもった訪問だった。とても嬉しかった。内緒で来てくれたから驚いたよ。私は絆をとても大切にしている。日本へ行った時には、(李)忠成に会った」

——森保一監督が率いる今の代表チームを、どう見ていますか?

「今の日本はレベルが高い。(カタール・)W杯も観たよ。FIFA(国際サッカー連盟)から試合分析の仕事を任されていたんだけど、スペイン戦で日本が得点した時、思わず喜んでしまったんだ。そうしたら、FIFAから苦情が入ってね。スペインの記者たちは、嘆いていた。彼らは、失望し嫌厭(けんえん)した。僕はFIFAのためにW杯へ行っていたのに、日本を応援しちゃったからね」

——そんなことがあったんですね。

「本能的に反応してしまったんだ。試合を観ていた席の下には、新聞記者たちがいて、その上にはテレビのジャーナリストたちがたくさんいた。だから僕が歓喜していたのを、彼らは映像に撮っていたんだ。確かに僕は仕事で行っていたが、ゴールは僕が決めたわけではなく、日本が決めた。彼らは嘆いてはならないよね」

——来年の北中米W杯では、さらなる躍進に期待が懸かります。ただ、アメリカ、カナダ、メキシコの3か国共催、さらには出場国数が48チームに増え、これまでとは異なる大会だという点は考慮しなければなりませんね。

「確かに色々な状況が絡む。でも日本の選手たちは、プレーが優秀なだけではなく、ちょっとしたことで動じないよう訓練されている。それに賢い。色々な状況に対応できるように、準備が行き届いているんだよ」

——日本の選手たちは自身の管理に長けていて、規律正しいことでも評判は良いですね。

「そうだよ。持って生まれた才能もある。スピードもあるし、耐久力もある。ほかの国には、そうない。だから常に、日本人選手は信頼が置ける。僕はすべてのチームを監督していないけど、他国と比べてもこれほど日本のように、団結していて、規律がしっかりされているチームはそんなにない。個の力で勝とうとすることが常であるサッカーの世界で、日本はチーム力で勝つことが得意だ。

 今やアジアには優秀な選手が山ほどいる。UAE(アラブ首長国連邦)の代表監督を務めた時にそれは感じた。でも、日本人選手たちのようにプロフェッショナルではない。技術的に優秀な選手はいるが、90分集中力をキープするのは難しい。なぜなら慣れていないから。リーグがそれを要求していないんだよ。日本のリーグは真剣に、集中してプレーしなければならない」

——逆に、昨年に逝去されたサルバトーレ・スキラッチさんのように、情熱的なプレーで実力を発揮するような、個性の強さは欠けているように映るのでは?

「日本は、多くの選手がヨーロッパでプレーしていて、それが代表チームを強く成長させている。その中で個性的な強さも伸びていると思う。

 私が日本を率いた時にも個性が強い選手たちがたくさんいた。決して恐れない。ヨーロッパに来てプレーしても、みんなとてもいいプレーをしたのは偶然ではない。長友(佑都)はピッチ内外でその価値を際立たせた1人だった。

 ピッチ上での技術は高く、どの監督も外せない選手だった。常に彼の存在感は大きかった。インテルから移籍していなくなった時、みんなが残念がっていた。サポーターたちは佑都をとても愛していた」

——長友はインテルで愛された1人でしたね。

「なぜなら常に懸命に闘志を持って闘っていたから。彼の本当の価値を、最後にみんながやっと理解できた」

ザッケローニ氏が「もう一回やってみたい」と当時を回想した【写真:Getty Images】
ザッケローニ氏が「もう一回やってみたい」と当時を回想した【写真:Getty Images】

「日本は強くなったんだ。今、日本と対戦して勝つのは難しい」

——かつて欧州クラブに所属する日本人選手の代表格は、そのほとんどが攻撃的な選手ばかりでしたよね。今やそれも変わりつつあります。守備的なポジションにも優秀な人材が多数、名門クラブに所属しています。

「私が率いていた頃も、ディフェンダーには素晴らしい選手たちがいた。吉田(麻也)、酒井(宏樹)、長友……みんな実力的に秀でていたよ。ヨーロッパでのプレー経験を経て、より力強さを蓄えていた。学ぶことは多いからね」

——世界の強豪国に比べると、日本のウィークポイントとしてメンタル面の弱さが指摘されることもあります。その点はどのように思いますか?

「日本は強くなったんだ。今、日本と対戦して勝つのは難しい。メンタルも強くなったと思う。技術的に優秀で、規律正しく、スピードがあり、耐久力もあるチームだ。すべてのクオリティーを持つチームをほかに探すのは難しい。僕は日本に大きな期待を寄せている。彼らを愛しているから言うのではないよ。優秀だからだ。本当に優秀だから試合を観るのが楽しい。新しい選手たちも……」

——三笘、久保、冨安、遠藤……

「冨安はボローニャ時代のプレーを観たけれど、とても優秀な選手だ。ボローニャでプレーしてくれて嬉しかった。彼の試合を何度か観に行ったね。センターバックもサイドバックもできる選手だ。とても好きな選手だ」

——日本は3月に行われるW杯最終予選のバーレーン戦で勝利すれば、史上最速での本大会出場が決まります。出場権を勝ち取れば、初のW杯ベスト8入りを果たせるかが焦点になるでしょうね。

「カタールW杯でも日本は上位を狙えるポテンシャルが十分にあったんだ。次は行けると確信している。早く観たいとワクワクしている。確実にやってくれると信じているよ。私が監督をしていた時のように、チームのみんなが一丸となれば問題ない。

 私は彼らと一緒にいることが好きだった。日本のために仕事をすることに誇りを持っていたんだ。私自身、日本はもっとできると思っていた。もっともっとできたと思う。あの当時のチームは強かったから。できることならあの時に戻りたい。もう年を取ってしまったけれど、あの時に戻りたい。できるなら、もう一回やってみたいね」

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倉石千種

くらいし・ちぐさ/1990年よりイタリア在住。1998年に中田英寿がペルージャに移籍した時からセリエAやイタリア代表、W杯、CLをはじめ、中村俊輔、本田圭佑、長友佑都、吉田麻也、冨安健洋など日本人選手も取材。バッジョ、デル・ピエロ、トッティ、インザーギ、カカ、シェフチェンコなどビッグプレーヤーのインタビューも数多く手掛ける。サッカーのほか、水泳、スケート、テニスなど幅広く取材し、俳優ジョルジョ・アルベルタッツィ、女優イザベル・ユペール、監督ジュゼッペ・トルナトーレのインタビューも行った。

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