清武弘嗣が大分に帰ってきた意味 「J1とJ2では少し差がある」強化部のもう1つの狙い【インタビュー】

大分の清武弘嗣【(C) OITA F.C.】
大分の清武弘嗣【(C) OITA F.C.】

大分の吉岡宗重SD「大分の若い選手はまだ『こなしている』という印象が強い」

 2021年以来のJ1復帰を目指す大分トリニータだが、今季最大のニュースと言えば、アカデミー出身の元日本代表MF清武弘嗣が2009年以来の復帰を果たしたことだ。(取材・文=元川悦子/全5回の2回目)

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「自分が育ったクラブに帰ってくることができてとても嬉しく思います。と同時に、すごく責任も感じています」と本人も復帰発表の際、コメントを出していたが、2014年ブラジルW杯を経験し、ドイツ・スペインで実績を積み上げた35歳の大ベテランに託されるものは少なくない。

 吉岡宗重SD(スポーツダイレクター)も“清武がいる意味”の大きさを認識する1人だ。

「大分出身の清武はアカデミーから成長した選手。本人も本当はもっと長くトリニータでプレーしたいという気持ちもあったかもしれませんが、2010年のJ2降格と経営危機もあって、セレッソ大阪へ行くことになりました。

 ただ、その後の目覚ましい活躍を大分の人たちも見ていたし、『清武は自分たちの子供だ』と県民の多くが感じていたと言っても過言ではないでしょう。その彼が帰ってきたことを本当に喜んでいると思います。

 清武本人とも昨年末にじっくり話をしましたが、『クラブを強くしたい』という強い意志が感じられましたし、プレーモデルとしても存在価値がある。長くJ2でプレーしている選手にとって、世界で戦ってきた彼の一挙手一投足は1つの指標にもなる。今の大分は若い選手も多いですから、いいお手本になっていますし、心強い存在だと思います」

 高度な技術や戦術眼、落ち着きなど清武効果というのはさまざまだが、吉岡SDが考える一番のポイントはトラップだという。

「僕も鹿島で小笠原満男(現アカデミー・テクニカル・ディレクター)や本山雅志(同スカウト)、野沢拓也みたいなうまい選手をたくさん見てきましたけど、清武は『1個のトラップでこの選手は違うな』と分かる数少ない選手です。もちろん生まれ持った才能もあるとは思いますけど、1つのトラップ、1つのパス、1つのダッシュをどれだけ集中してやれているかもすごく大きいですね。

 これも鹿島から大分に来て改めて感じたことなんですけど、ウォーミングアップの集中力というのはJ1とJ2では少し差があるなと。技術レベルの差があるのは当然ですけど、やっぱりトレーニングに向かってアップで集中力をどう高めていくかという部分をトップ選手たちはよく分かっています。『今日の練習に自分の全てを賭けるんだ』という姿勢で臨んでいますからね。

 大分の若い選手はまだ『こなしている』という印象が強いと思います。清武がそういう部分を身を持って示し、意識を引き上げてくれれば有難いですし、彼にはそれができると思っています」

 今季の清武は3試合出場だが、3月9日の水戸ホーリーホック戦で先発しただけで、長い時間をコンスタントにこなすまでには至っていない。2017年にスペインから日本に戻って以来、度重なる怪我に悩まされてはいるものの、コンディションさえ整えばまだまだ十分にやれるはず。実際、今は強度的にも問題ない状態になっている。

 同じ30代の10番MF野村直輝も3月16日のレノファ山口FC戦で今季初先発と、彼らのような経験値のある選手たちがどれだけ確実なゲームコントロールを見せ、課題である得点力不足解消へと導いていくのか。そこも今の大分にとっては重要視すべきテーマではないか。

「清武や野村は練習中から『そのプレーは今のままでいいんだよ』とか『味方をうまく使えばいいんだよ』というように、自ら発信してくれているんです。ハイレベルの経験が少なかったり、年齢的に分かったりする選手たちが『本当にこれでいいのかな』と迷いながらやっているときに『それでいい』と言ってもらえたら、彼らは思い切ってプレーできますよね。もちろん監督のカタさんもその基準を示してくれてはいますけど、ピッチ内でその仕事をしてくれる存在というのはやはり大切だと思います」

 清武や野村から刺激を受け、彼らに食らいついていく選手が出てきてくれれば理想的。大分には2023年U-20ワールドカップ(アルゼンチン)に参戦したFW屋敷優成を筆頭にポテンシャルのある若手がいるし、今季横浜F・マリノスから赴いたMF榊原彗悟のような伸び盛りの人材もいる。彼らが大化けしてくれれば、大分躍進の起爆剤になるはずだ。

 だからこそ、もっともっとギラギラ感を前面に押し出してほしいと吉岡SDは望んでいる。鹿島での14年間に小笠原や岩政大樹(札幌監督)、金崎夢生(ヴェルスパ大分)、昌子源(町田)、鈴木優磨といった自分の意思を明確に押し出してくる個性的な面々と共闘してきた分、今の大分の選手たちが大人しいと映るのも頷ける。

「よくも悪くも大分の選手たちはすごく真面目。枠の中から飛び出すような機会がこれまで少なかったんだと思います。自分が清武の到達した領域に上り詰めたいと思うなら、今、出ている選手よりも一歩でも早く走らないといけないし、1本でも多くパスを出し、シュートを打たないといけない。その意気込みや意欲を強く示してほしいんです。

 自分も昭和の人間ですから、なかなかアプローチ方法は難しいですけど、彼らにどんな声かけや言葉がけをすれば響くかを考えながら、時代に合ったやり方で意識向上を図っていくつもりです」

 14年ぶりの新天地で選手たちの心に火をつけるべく、吉岡SDは清武らベテランの力も借りながら、勝てる集団作りに邁進していく覚悟だという。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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