8戦で26人がピッチへ J1川崎の改革プラン…「長所」総ざらいで模索する質の高い競争【コラム】

ACLEで8強進出…川崎・長谷部監督が「ターンオーバーではない」と語る訳
川崎フロンターレが「今シーズンで最も重要な試合」(長谷部茂利監督)と位置づけたAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)のラウンド16で逆転勝利を収めた。上海申花(中国)とのアウェー初戦を0-1で落とした川崎だが、ホームでは実力の違いを見せつけ4-0で快勝した。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
アウェー戦からは1週間空き十分なリカバリーは可能だったはずだが、長谷部監督は3人のスタメンを変更。ホームで今シーズン初出場を果たした大島僚太が「ボールを握りながらボールを動かしていくチーム随一の能力を発揮」(同監督)し、鬼木達前監督時代はセンターバックか左サイドバック(SB)で起用されてきた佐々木旭は右SBでの適性を見せつけ、1ゴール1アシストの活躍でMOMに選ばれた。
この人選に象徴されるように新任の長谷部監督からは、改めて戦力を総ざらいし「個々が長所を活かしグループへ」と高めていこうとする姿勢が顕著だ。今年に入って川崎はACLE、J1ともに4試合ずつを消化してきたが、故障のジェジエウや小林悠らを除き計26人の選手がプレーをしてきた。
しかも8戦すべてにスタメン出場した選手はなく、全試合に出場したのも脇坂泰斗、河原創、エリソン、マルシーニョ、山田新の5人で、フル出場が多い脇坂でも半分の4試合にとどまっている。ただしそれでも長谷部監督は、こうしたメンバー変更について「ターンオーバーではない」と言い切る。
「スタメンもベンチ入りも、毎日のトレーニングでトライし続けた結果、それぞれの選手たちが自分で掴み取ったもの。戦術、戦略、対戦相手、コンディションなど、怪我のリスクも含めてさまざまな要素を考えて、試合当日のキックオフにベストな人選をしている」
その結果、各ポジションの競争の構図や個々の役割分担も浮き上がりつつある。そもそもターンオーバーは、過密日程での消耗を避けるための交代制を示しているが、それは個々のコンディションを見極めることが大前提となる。指揮官たちは、最も信頼できる選手たちが疲弊しているなら、フレッシュな二番手が出たほうが大局的にも良い結果につながると考えるから、ターンオーバーを用いる。
長谷部監督が模索する多彩なスタイル「いくら長所でも同じ方法を続けたら…」
例えばACLEと同じスケジュールで、欧州でもUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16が行われ、こちらは週末に自国のリーグ戦が挟まれていた。実際CLのホーム&アウェーの2試合に挟まれた各国リーグでは、番狂わせが相次いだ。
ドイツではCLを戦った全3チームが揃って敗戦。バイエルン・ミュンヘンはCL初戦後の国内リーグでは、レオン・ゴレツカ以外10人のスタメンを変更。ブンデスリーガで2位につけるレバークーゼンも7人を入れ替えたが、交代出場したエースのフローリアン・ヴィルツが故障をしてしまいCLの致命傷となった。また注目のパリ・サンジェルマン(PSG)対リバプールでは、前者が国内リーグで9人のスタメンを入れ替えたのに対し、後者は3人のみ。最終的にはPK決着とはいえ、フレッシュなPSGが制す結末を迎えた。
Jリーグ勢は欧州のトップレベルに比べれば日程は緩やかだが、それでも酷暑も含めて厳しい条件が待っている。奇しくも昨年は、大型補強をしたチームが軒並み成績を落とすことになり、川崎も例外ではなかった。しかし本来川崎の長所が選手層の厚さなのは明らかなので、新指揮官の試みは理に適っている。
一方で長谷部監督は、多彩な人選とともに、多様な崩しも模索中だ。
「いくら長所でも同じ方法を続けたら、相手は抑えやすくなる。だからなるべく多くの方法を取り入れ、質も高めていきたい」
そのとおり上海申花戦の4ゴールも、右サイドでの自陣からの崩し、中央からのカウンター、アタッキングサード左サイドの連係による崩し、右サイド高い位置でのカウンタープレスなど多岐にわたり、指揮官も「非常に良かった」と手放しで讃えた。
MOMの佐々木が言った。
「出た選手、出ない選手も含めて、全員がACLEを獲るんだ、という気持ちでまとまった」
新生川崎には、新しい視点と質の高い競争が導入され、明らかに活性化されつつある。

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。