J2で苦しむ“老舗クラブ” 14年ぶり古巣復帰のキーマン…再建へ認識した「重要命題」【インタビュー】

片野坂監督との縁から再び大分へ…吉岡SDの見たクラブの目指す先
2021年以来の最高峰リーグを目指す大分トリニータは、1勝2分1敗の勝ち点5で11位という厳しいスタートを強いられている。2022年以降、5位、9位、16位と順位を下げてきただけに、今季はチーム底上げを図りつつ、結果を追い求めていく必要がある。それは、かつてこのクラブをJ3からJ1へと引き上げた片野坂知宏監督にとっても難題以外の何物でもないだろう。
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そんな大分に今季、力強い人材が加わった。2006~2011年頭まで大分の強化担当として働き、2011~14年途中まで鹿島アントラーズで強化担当・フットボールダイレクター(FD)を務めた吉岡宗重・スポーツダイレクター(SD)である。(取材・文=元川悦子/全5回の1回目)
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2025年Jリーグが開幕して約1か月。J2はJ1から降格してきたコンサドーレ札幌、サガン鳥栖が下位に低迷するなか、2009年以来のJ1復帰を目指すジェフユナイテッド千葉、今季J3から上がってきたばかりのRB大宮アルディージャが開幕4連勝。さらに昇格組のカターレ富山やFC今治も好発進を見せるなど、予想外の展開になっている。「魔境」とも言われるこのリーグを抜け出すのは至難の業。J1昇格への道は傍目から見るよりも険しいのだ。
「昨年10月に鹿島を離れた後、大分から話をいただき、西山哲平GM(ジェネラルマネージャー=現長野SD兼トップチーム強化部長)の後のSDに就任することが決まりました。もともと僕が強化の道に入ったのは、日本文理大学のコーチを務めていた時、大分のスカウトだった片野坂監督から声をかけていただいたのがきっかけなんです。
当時、大分は強化担当と通訳を探していて、高校時代にブラジル留学の経験があった僕に『やってみないか』と誘いがあり、思い切って飛び込んだのが始まりでした。その後もカタさんとはメッセージのやり取りをしていて、何でも言い合える関係性があったので、今回のSD就任もスムーズでした」と吉岡SDは言う。
実際に大分で仕事を始めるに当たり、吉岡SDは大分の試合を見返して徹底的に分析。その後、片野坂監督や選手にもヒアリングをして、明確な課題を抽出した。
「ボールを大事にしすぎているという課題が昨季の戦いから浮き彫りになりました。奪った後の意識をより前へと変えたいというカタさんにもして、方向性が定まった。そのうえで、今季に向けて始動しました。
プレシーズンから選手たちもそこに関しては意識を高く持ってやってくれました。守備も前から行くところもしっかり取り組んだところ、2月16日の開幕・コンサドーレ札幌戦を2-0で勝利。白星発進することができました」と彼は最初のアプローチに手応えを感じたという。
開幕2戦目以降で失速も「一歩一歩前進」を掲げる
初戦を勝利で飾った大分だったが、2月23日のいわきFC戦は0-0。3月1日のベガルタ仙台戦は0-2で敗戦、直近9日の水戸ホーリーホック戦も0-0と3戦連続無得点という苦境に直面する。特に昨季J1昇格プレーオフ決勝まで進んだ仙台と完成度の差を痛感させられたようだ。
「仙台は組織として完成度の高いチームだと改めて感じました。前線からアグレッシブでインテンシティの高いプレーをしてきましたし、そこは我々を上回っていた。今はJ1もそうですけど、フィジカル的な要素がかなり大きくなっている。それをベースに技術やパフォーマンスを出せるようにならないといけない。強度を引き上げ、球際や局面のバトルの部分で勝てるようになることが上を目指すうえでの重要命題だと再認識させられました」と吉岡SDはしみじみ言う。
今は模索段階の大分だが、J2が発足した1999年から参戦している老舗クラブということで、地元の期待値は高い。今季も平均観客数は1万人を超えており、「早くJ1に戻ってほしい」という声も少なくない。古参のサポーターの中には、高松大樹(大分市議会議員)、(西川周作(浦和レッズ)、森重真人(FC東京)、金崎夢生(ヴェルスパ大分)、清武弘嗣(大分)らを擁して初タイトルを獲得した2008年ヤマザキナビスコカップの頃の栄光が色濃く残っているに違いない。
「当時のことは(強化担当を務めていた)僕自身も常に頭にあります。(ペリクレス・)シャムスカ監督が率いたあのチームは本当にいいメンバーが揃っていた。タレントたちがうまくまとまって獲れた初タイトルだったと思います。
あの当時は長崎から梅崎司(京都サンガF.C.コーチ)が来たり、北九州から東慶悟(FC東京)が来たりと、九州全体から大分のアカデミーに選手が集まるような状況でした。でも、あれから15年以上が経過し、関東のチームが九州のタレント発掘に躍起になっています。
僕が昨年までいた鹿島も、アカデミースカウトの本山雅志が九州を回って優秀な子供に声をかけていますし、ほかのチームもそう。それに加えて、九州各地にJクラブが誕生し、育成に力を入れているというのもあると思います。大分の後、サガン鳥栖がアカデミーを強化していいサイクルに入りましたし、ほかのチームからもいい選手が出るようになった。大分が九州で一番とは言えない状況になったのも事実だと思います。
だからこそ、我々は立ち位置を上げていく必要がある。そのためにも今季J2で1戦1戦を大事に戦い、まず半分をしっかり戦ってみて、その時点でJ1を見据えられるようにしていくことが重要です。昨季16位だった事実を踏まえながら、一歩一歩前進していくこと。今はそこに集中すべきなんです」
吉岡SDが語るように、大分を取り巻く環境は彼自身がかつて仕事をしていた2010年前後とは大きく変わっている。その難しさを頭に入れつつ、再浮上の術を見出していくことが、百戦錬磨の強化トップに課せられた大命題と言えるだろう。(第2回へ続く)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。