フットサルへと転身した元Jリーガー菊池大介の苦悩とは

　2023年にJリーガーとして活躍していたFC岐阜のMF菊池大介が、湘南ベルマーレのフットサルクラブに加入することは大きな話題になった。かつてはJリーガーがフットサル選手に転向する例は少なくなかったが、J1でも100試合以上の出場を誇る選手が引退する前に転向したのは、かなり珍しい。（取材・文＝河合 拓／全4回の3回目）

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　Fリーグでプレーするようになった菊池は、今もサッカー選手と食事に行くことはあり、「フットサルどうなの？」と聞かれるという。彼らには「本当に別競技だよ」と伝えるというが、「やっぱりサッカー選手は、フットサルに興味ないですよね」と、正直な感想を口にした。

「僕がフットサルに行ったので、聞いてくれたりはしますが、多分（試合は）見ていないですし、見る機会もない。サッカー選手にまでなっていて、そのキャリアが終わってからフットサルに行こうと思ったり、Fリーグで何かをしたいと思ったりしている選手は、正直いないなっていう感覚ですね」

　小学校時代にバーモントカップに出場していた菊池は、Jリーグの湘南に在籍していた時もフットサルに関心を持って、試合を観戦したりしていたというが、その時も一緒に来る選手はほとんどいなかったという。

　JリーグからFリーグへと活躍の場を移す選手は、ほとんど出てこないかもしれない。それでも、サッカーからフットサルに転向する選手というのは、今後も多く出てくるだろう。サッカーから転向する選手たちへ、先人としてのアドバイスを求めたところ、菊池は「そういう選手たちにまず言いたいのは、やっぱり『簡単じゃないよ』ということですね」と繰り返した。

「フットサルは本当にサッカーと別の競技なので、フットサルを知らなきゃいけない。フットサル独特の動きだったり、ボールタッチだったり、守備の仕方も距離の詰め方や切り替えの仕方とかが全然違います。サッカーに比べて、よりここの選手がこう動いたら、こうしなきゃいけないとか、そういう細かい要素がすごくたくさんあるので『本当に最初はついていくだけでも大変だよ』っていうのは、伝えたいですね」

試合中に迷子…解決策は「そこに戻ってくればいい」

　フットサルに転向した直後から、Fリーグ湘南の伊久間洋輔監督は「大介はフットサルもできる」と太鼓判を押していた。だが、菊池自身はどこに動けばいいのか分からなくなり、そこから悪循環に陥っていたと振り返る。

「『迷子になる』って、僕は表現しているんですけど、最初は本当に迷子になりました。1回そうなってしまうと、落ち着けなくなっちゃうんです。ボールが来ても、結局、自分の良さを生かせない。能力やスキル、フィジカルが備わっていても、それを発揮するための工夫や動きを覚えないと、この世界で成功するのは難しい。だから、最初はすごくストレスだったし、どうやって自分のスキルを生かせばいいのか、すごく葛藤がありました」

　サッカーであれば、守備でズレが生じてもピッチは広く、9人いるほかのフィールドプレーヤー（FP）の誰かがカバーしてくれる可能性が高い。しかし、フットサルのピッチは狭く、仲間のFPも3人しかいないため、即失点につながってしまう。

「今もエラーはたくさんしていますけど」と苦笑する菊池だが、「昔に比べるとそこは成長してきた部分かなと思いますし、試合に出てもそんなに慌てないですし、迷子になる感覚も減っています。たとえ迷子になっても、『次、こうすれば問題ない』みたいな気持ちが出来上がったので、それはすごく大きいですね」

　では、サッカーからフットサルに転向した選手が、ピッチ上で迷子になったと感じた際にどうすればいいのか。「まずは自分の得意なエリア、得意なプレーがあると思うので、そのプレーに行くために動けばいい、迷子になっても『そこに戻ってくればいい』という感覚があれば、多少やりやすくなると思います」と、今後、フットサルの門を叩く後輩たちにアドバイスを残した。

アスリートの待遇も激変、同僚からJリーグの話も「聞かれました」

　サッカー選手から、フットサル選手になるにあたって、アスリートとしての待遇も大きく変わった。だが、「それは覚悟していた」という菊池は、「例えば移動手段が近場だったらバスになるとか、関東圏内で試合をするときは前泊もしません。ホテルの質も違いますし、（Jリーグだと）用具を自分で準備しなくても、スタッフがスパイクまで磨いてくれました。J3時代を含めてJリーグの選手の時とは全然違います。でも、Jリーグも今のFリーグのような時代があったから今があると思いますし、『それが当たり前ではない』『環境が変われば、そういうものも変わる』と思ってフットサルに転向したので」と、この環境を受け入れられていたという。

　その一方で、アスリートにとってより良い環境がどういうものかを伝えるために、湘南の選手たちにはJリーグ時代の経験も聞かれた際には話していたという。

「もちろんJの時の話は聞かれましたし、そういう話もしました。でも、それは自慢とか、上から目線で言ったつもりはなくて、『そうなっていかないといけないよ』ということを植え付けたかったんです。『それが普通だよ』ではありませんが、それができるだけの価値があるし、そうならなきゃいけないというのを伝えたかった。今はセミプロでも、プロになれる可能性もあるし、そういうところに行き着くために、やらなきゃいけないという話は、なるべくするようにしていました」

　湘南のフットサルチームでキャプテンを務めるFP高橋広大は、サッカーの湘南ベルマーレの下部組織育ち。当時、菊池はJリーグの湘南に在籍しており、その時からの憧れの存在だったという。そんな高橋ら湘南の選手にとって、菊池とともにプレーできた2年間はかけがえのない財産になったはずだ。