Jスカウトに「見てもらう」ための進路選択…あえて中国地区へ、現実味帯びる「プロ入り」

J1福岡MF松岡大起の弟・響祈が歩む大学でのキャリア
兄弟はよく比較される。ましてや同じ環境や競技などをともにしたらなおさらだ。2月下旬から3月上旬にかけて静岡県で行われたデンソーカップチャレンジ静岡大会(以下・デンチャレ)においても、常にその比較を受けながらプレーしていた選手がいた。
U-20全日本学生選抜のMF松岡響祈はJ1アビスパ福岡でプレーする松岡大起を兄に持つ。実はこのチームにはもう1人、Jリーガーの兄を持つ選手がいる。松岡とサガン鳥栖U-18でともに共闘し、林幸多郎(FC町田ゼルビア)の弟である林奏太朗(早稲田大)だ。
「お互い兄がJ1でプレーをしていて、かつお互い比べられるのが好きではないし、負けたくないという気持ちがあるので、たまにそのことで話したりします」
比較されるのは慣れているが、やはりプライドもある。松岡は高校時代まで兄と同じ道を歩いてきた。しかし、兄は鳥栖U-18に所属している時からJ1の舞台に立ち、3年の6月にはクラブ史上初の高校3年生でのトップ昇格を果たした。
その一方で響祈は兄と同じポストプレーを主戦場にしていたこともあり、常に周りから比較されながらも、持ち前の足もとの技術をベースに力を磨いた。高校3年生の時は高円宮杯プレミアリーグWESTで初優勝し、さらに川崎フロンターレU-18とのファイナルも勝利して初優勝を手にした。
松岡はリーグ15試合に出場。ファイナルでもスタメンで後半アディショナルタイムまでプレーした。兄が成し得なかった偉業を達成したが、リーグ戦では不動の主軸の座を掴めなかったことも影響してトップ昇格を果たせなかった。
大学進学の際には関西1部リーグの大学から声がかかったが、「1年の最初から主軸になって早いうちにデンチャレに出て、プロのスカウトに見てもらう」という明確な目標を持って、あえて関東、関西と比べると全体レベルの下がる中国1部リーグに所属するIPU環太平洋大学に進学した。
IPUは中国地区の強豪大学であるが、リーグ戦の日常を考えると、かなり高い意識と自覚を持って毎日を過ごさないといけない。その中で彼は明確な目標を持ち続け、常にそこから逆算し続けた。
1年生で中国大学サッカーリーグのベストイレブンに入り、デンチャレの中国選抜に入ると、チームはプレーオフで敗れたが、プレーオフ選抜に選ばれて本戦に出場した。
そこで広い視野と巧みなボールキープ力、タイミングを見て攻撃のスイッチを入れるパスを披露して存在感を放つと、昨年6月にU-20全日本学生選抜に選出され、マレーシアでアジア大学サッカートーナメントに出場。ボランチではなくサイドハーフとしてのプレーだったが、そこでも高いパフォーマンスを見せて2連覇に貢献。個人賞にも輝いた。
リーグ戦を通じても6ゴール6アシストの活躍を見せ、今回のデンチャレはU-20全日本学生選抜に中国地域からは唯一の選出として本戦からの出場になった。
今大会では5位に終わったが、グループリーグ第2節の関東選抜Aの試合ではGKの位置をよく見た鮮やかなループシュートを沈めるなど、4試合で2ゴールをマーク。技術の高さを随所に見せた。
「今回のメンバーを見て、『この中に入れたんだ』と思いましたし、奏太朗とこうして一緒にできるのも嬉しかった。正直、高校の時はこのような選抜に入ることなんて考えられないような選手でした。当然、今もまだまだですが、自信はついてきましたし、こうして関西、関東以外の地域に行った意義をより大きなものにするために、コツコツと積み重ねてきた結果だと思うので、これからの自分の成長の大きなきっかけにしていきたいです」
兄との比較で「俺も絶対に負けない」湧き起こる反骨心
4月から大学3年生になるが、目標は「在学中のプロ入り」とはっきりと口にする。実際に練習参加を打診するJクラブもあり、その目標は現実味を帯びてきている。
今でも兄と比較されるのは嫌だと言う。だが、裏を返せば常に比べられるということは、自分自身と比較対象者が常に同じ秤(はかり)の上に乗っていないと成り立たない。つまり、どちらか一方の重さが圧倒的だったら、秤にすらかけられない。自分がそれに近いステージにいないと比較すらされないということを指す。
彼は努力に努力を重ねた結果、常にその秤の上に乗り続けている。それはつまり、いつしか自分のほうが重くなり、兄が比較対象に変わる可能性も十分あるということだ。
「おっしゃるとおり、比べられ続けたからこそ、ここまで成長することができたとも言えます。兄が活躍すればするほど、比べられれば比べられるほど、『俺も絶対に負けない』という反骨心が心の底から湧き起こりました。本当に兄に追いつけ追い越せ精神で毎日やっているので、常に背中は捉えているし、兄がいたからこそ、今の自分がいることは間違いありません。そこは兄と周りの人たちに感謝の気持ちが強いです」
大起との関係は良好で、非常に仲が良い。U-20全日本学生選抜に入った時も「おめでとう、頑張れよ」と激励のメールをくれた。
「今後は少しでも早くプロの世界に行って、強度に慣れて、持ち味を出せる環境を早く作りたい。それに僕は早生まれ(2月生まれ)なので、今活動をしているU-20日本代表にも入りたいし、オリンピックも視野に入れたいので、高い意識を持って取り組んでいきたいと思います」
有言実行の男はこれからも明確なビジョンを持ち、そこから逆算をして不断の努力を重ねていく。尊敬する兄と同じ秤の上で切磋琢磨し続けられるように。