チェルシーは三笘を獲るべきか? 英ファンに直球質問…「いらないな」反対派の言い分とは?【現地発コラム】

オーナー陣営に対する抗議でプレッシャー高まるチェルシー
チェルシーにとっては、2週連続で必勝のホームゲームとなった。2月25日のプレミアリーグ第27節サウサンプトン戦と、3月9日の翌節レスター戦だ。相手は、いずれも降格圏内の下位。結果も、それぞれ4-0と1-0のスコアで勝利を収めている。
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しかし、現在のチェルシーは、いつポイントを落としても不思議ではない。24歳に満たないスカッドの平均年齢は、今季プレミア最年少。経験値のみならず、後方には安定性、前線では決定力も不足している。今季から指揮を執るエンツォ・マレスカは、ポゼッションサッカーに確固たる信念を持つ反面、代替策を持たない。
レスター戦では、意表をついた5バックで守る敵のポイント奪取も現実的だった。両軍無得点でハーフタイムが近づくと、記者席の側方には、立ち上がって「どうにかしろ!」と、ベンチ前のマレスカに向かって怒鳴る男性ファン。「このまま引分けか?」「かもな」と言いながら、売店に向かう2人組もいた。
GKロベルト・サンチェスの飛び出しが招いた、あわやのオウンゴールがバーに跳ね返される幸運がなかったとしたら? 前半終了の笛は、ブーイングにかき消されていただろう。後半、左SBマルク・ククレジャのミドルという、意外な得点シーンが訪れていなかったら? サウサンプトン戦の前に、トッド・ベーリーを代表格とするオーナー陣営に対し、「チェルシー破壊を止めて退散しろ」と訴えていた一部の地元サポーターたちは、次なる抗議運動を計画し始めたに違いない。
チェルシーを強豪に変えた、元監督のジョゼ・モウリーニョは、5年半ほど前に言っていた。「内容を理由に敗戦を受け入れることに慣れ始めたら、ビッグクラブはビッグクラブではなくなる」と。
それが、過渡期の最中にある今のチェルシーなのではないか。そんな危機感を改めて抱かせた対戦相手が、2月前半の2連戦で2勝を奪ったブライトン。厳密には、計2ゴールでチェルシーをプレッシャー下に沈めた、三笘薫だ。
獲得賛成派が三笘に期待すること
日本代表ウインガーは、まず2月8日のFAカップ4回戦で、ボックス内から右足アウトサイドで逆転ゴールを決めた(2-1)。続く14日のリーグ対決では、“あのファーストタッチ”から、右足ミドルで快勝(3-0)への口火を切っている。
敗軍の将は、FAカップ敗退後に「これでリーグと(UEFA)カンファレンスリーグに集中できる」と述べた。前向きな発言のつもりだったのだろうが、早期敗退に納得するような発言は、強豪を自負するファンの心情を理解できていない。挙げ句の果てには、中4日でのプレミア第25節に敗れたチームは、マレスカ新体制下で最低とも言えるパフォーマンスだった。
結果として、ブライトン連勝立役者の獲得説が浮上した。噂の移籍金は、7500万ポンド(約143億円)前後。そこで、レスター戦前のスタンフォード・ブリッジでファンに訊いてみた。「チェルシーは今夏に三笘を獲るべきか?」と。
応じてくれたのは、コール・パルマーのレプリカシャツを着た若者から、ビジネスマン風の中年まで計8人。「4.5」対「3」で賛成票が上回った。足りない「0.5」は、1人の回答が「いっそのことブライトンごと買えばいい!」という、賛成票とは受け取れるジョークだったためだ。
頷けるジョークでもあった。移籍が実現すれば、三笘は、ククレジャに始まり、ベーリー政権下でブライトンから獲得された4人目の即戦力ということになる。グレアム・ポッター(現ウェストハム監督)、ポール・スタンリー共同SDといったスタッフを含めれば、10人目のヘッドハント対象だ。
もっとも、「獲るにはCL出場権が必須だろうけど、ミトマとパルマーの共演が待ち切れない」という意見には、より以上に頷けた。回答者の連れも、「タッチが良くて、シュートも上手いし、判断も良さそう。パルマーが1人増えるみたいじゃん」と言っていた。
確かにレスター戦を観ながら、チェルシーの2列目に三笘がいたらと思えたりもした。誰もがインサイド寄りで、敵にとっては守りやすい状況が続いていたピッチ上で、三笘ならワイドエリアを意識する動きでレスターの5バックを間延びさせ、トップ下のパルマーに腕を振るいやすくできていたのではないかと。
残る獲得賛成派2名は、三笘の定位置でもある左ウイングでの起用が多い、ジェイドン・サンチョと比べていた。
「サンチョはプレーにムラがある。ミトマの方が全然安定している。日本人選手は真面目だから、チェイシングでもしっかり走るだろうし」
マンチェスター・ユナイテッドから期限付き移籍中のサンチョは、第28節までのリーグ戦22試合に出場して、4ゴール2アシスト。三笘は、22試合で7ゴール3アシスト。一昨季に記録した7ゴール5アシストの自己ベスト更新は時間の問題だ。
回答者の彼にとって、三笘は「買えるのなら買いたい」と思わせるが、状況次第で完全移籍への切り替えが契約で義務付けられるサンチョは、「買わなきゃいけないっていう感じ」なのだそうだ。
もう1人は、言っていた。「わがまま小僧みたいなサンチョとは違って、ミトマは大人。同じドリブラーでも、チームワークの精神で周りをもっと活かせるような気がする。うちらはタレントが揃ってはいるんだ」
チェルシーが、今年5月には28歳になり、プレミア挑戦2年目の昨季は怪我もあって比較的静かだった三笘に関し、再来年まで契約が残る売り手の言い値を飲むのであれば、商談成立の可能性はある。ブライトンは、経営モデル的にも「売り手クラブ」であり、ポール・バーバーCEOが、BBCテレビの番組で「将来的には」と、移籍金との交換を否定はしていない。
今年1月、サウジアラビアからの商談には応じなかった。だがそれは、三笘自身が、曰く「サッカーの理由」から取り合わなかったため。「経済的な理由」も考慮されていたら、クラブが巨額の移籍金収入へと傾いていたとも考えられる。
三笘よりも「GKとCBの補強を優先してもらいたい」
一方、買えるとしても買わないほうが良いと考えるファンもいる。サポーター親子に訪ねてみたところ、大学生風の息子は、「いい選手だけど、いらないなぁ」とあっさり。続いて、「サポーター歴40数年」という父親が理路整然と話してくれた。
「ミトマの問題というよりはクラブの問題。チェルシーは、20代前半までの選手にターゲットを絞るようになった。彼は、いくつだっけ? (27歳と伝えると)なら、30歳のほうに近い。ブライトンは相当(な額を)欲しがるだろうし、今のオーナーが例外的に飛びつくとは思えなくてね。個人的にも、ウインガーよりはGKとCBの補強を優先してもらいたい気がする」
彼の視点からものを言えば、チェルシーは、経営陣が描くチーム作りのプランに沿った新ウインガーを、すでに手に入れているのかもしれない。昨夏の時点で来季からの加入が決まった、エステバン・ウィリアン(現パルメイラス)だ。
クラブ首脳陣は、4月で18歳になるブラジルのホープを、レンタル修行対象ではなく、1軍新戦力として捉えているとされる。パルマーと三笘もさることながら、「ネイマールの再来」との共演にも興味をそそられずにはいられない。
最後に話を聞いたファンは、三笘の「超絶ゴール」を、やられたチェルシーのサポーターらしい観点から、「騒ぎすぎ」だと言っていた。
「ボディチェックを受けながらのファーストタッチだったわけじゃない。(CBナサニエル・)チャロバーは、ヘディングではね返しにも、当たりにもいけてない。
シュートも、本当にトップクラスのキーパーなら弾き出せた。あそこ(ゴール右下隅)しか狙いようがなかったはずなのに。ゴールキックをコントロールして、シュートに持ち込んだミトマも上手かったけど、せめて(GKフィリップ・ヨルゲンセンに)セーブはしてほしかった」
チェルシーが、レスターに年明け後のリーグ戦9試合で8つ目の黒星をつけるのに苦戦する様子を見届けた日の夜、BBCテレビ「マッチ・オブ・ザ・デー」では、三笘が第25節でチェルシーを相手に披露した、今季ベストゴール有力候補作が2月のベストゴールに選ばれていた。
頭越しに上空から落ちてきたボールが右足に吸い付いてから、カーブをかけて放たれるまでの約3秒間に見られたタッチ、ボディバランス、しなやかな足捌きは、やはり最高に魅力的だ。レスター戦を見守る渋い表情をテレビカメラに捉えられていたベーリーも、プレミアのハイライト番組を観ていただろうか? 所有クラブが、曲がりなりにもトップ4に再浮上した試合当日に。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。