日本代表、本命不在のFW考察 昨年得点王か絶好調男か…サプライズ候補は21歳と19歳?【コラム】

上田綺世が怪我から復帰したばかり、小川航基か前田大然かサプライズなのか
日本代表の2026年北中米ワールドカップ(W杯)出場決定のかかる3月シリーズが目前に迫ってきた。ご存知のとおり、今回は20日のバーレーン戦と25日のサウジアラビア戦のホーム・埼玉スタジアムでの2連戦。すでにここまでの6試合で勝ち点16を稼いでいる日本は次戦白星なら、3試合残して本大会切符を獲得できる。実際にそうなる確率はかなり高そうだ。(取材・文=元川悦子)
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
◇ ◇ ◇
気になるのはFW陣の動向。第2次森保ジャパンのエースと位置づけられている上田綺世(フェイエノールト)が2月12日のUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)・ノックアウトフェーズプレーオフ第1戦・ACミラン戦以降、怪我で1か月以上にわたって試合に出ていなかった。
「綺世が3月シリーズに間に合うかどうか? まだ分かりません。試合に出るかどうかですね」と3月1日の鹿島アントラーズ対FC東京戦を視察した森保一監督も見通しが立たないと明かしていた。3月5日に行われた欧州CLラウンド16のインテル戦で復帰し、11日の同戦では先発出場したが万全かどうかは未知数だ。
2024年のW杯予選で4ゴールと気を吐いた小川航基(NECナイメヘン)も2月に入って負傷。23日のトゥウェンテ戦で復帰したものの、直近2戦はスタメンから外れている。1月11日のズヴォレ戦以降、2か月近くゴールからも遠ざかっており、少し状態が気掛かりではある。
もちろんピッチに立てる状態ということで、上田を呼べなければ、昨年11月のインドネシア(ジャカルタ)・中国(厦門)2連戦同様、彼がファーストチョイスになると目されるが、昨年同様のゴールラッシュが見られるとは限らない。
ここまでのW杯予選では、大橋祐紀(ブラックバーン)や古橋亨梧(レンヌ)が呼ばれ、チャンスを与えられたが、大橋も今年に入って長期離脱。3月1日のノリッジ戦で戻ってきたばかりで、本調子とは言えない状況だ。古橋に至っては新天地に赴いてから出番を失っていて、かなり厳しい状態だ。だからこそ、違ったオプションを用意しておくことが重要と言っていい。
そこで目下、有力なプランとして考えられるのが、前田大然(セルティック)の1トップ再抜擢である。第1次森保ジャパンの時には大迫勇也(神戸)が怪我で呼ばれなくなったあと、彼が最前線に陣取ることになり、“鬼プレス”と呼ばれ猛烈なチェイシングで守備のスイッチを入れていたのは周知の事実。2022年カタールW杯でドイツやスペインを撃破できたのも、その貢献があってこそだった。
2023年からスタートした現体制では、所属のセルティックでの左サイド起用に伴い、代表でもそのポジションが主戦場となったが、左には三笘薫(ブライトン)と中村敬斗(スタッド・ランス)がいて、前田の出番はそう多くない。本人も宙ぶらりんな扱いに苦慮していたのではないか。
しかしながら、2025年以降、彼のゴールラッシュは目覚ましいものがある。直近のスコティッシュカップ準々決勝ハイバーニアン戦で記録した得点で公式戦27得点をマーク。スコットランドリーグは上位下位の格差があるため、比較的容易にゴールを重ねられるリーグと言われるが、前田の場合は欧州CLでバイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムント相手に貴重な一撃をお見舞いしている。それだけ世界基準の点取屋へと飛躍した証拠。そういう旬の選手を使わないのはあまりにももったいない。
森保監督も前田を2ポジションで併用していく考えは持ち続けいるはず。相手が引いた状況になりやすいアジア相手のゲームだと、クロスで勝負できる小川のようなタイプのほうがハマりやすいのは確かだが、カタールW杯時点よりもはるかに成長した前田をスタメンで見てみたいのも確か。そこはぜひ考えてほしいものである。
森保監督の秘蔵っ子である浅野拓磨(マジョルカ)が復活しつつあるのも好材料だ。昨夏、新天地・スペインに赴いた後、9月シリーズには参戦。シャドーの一角に入った浅野だが、そこからは長い怪我に見舞われ、12月までの間はリハビリに専念する格好となった。そこから徐々に使われ始めたが、本格的に先発起用されるようになったのは、2月16日のラス・パルマス戦から。そして3月2日のアラベス戦で豪快なボレーシュートをネットに突き刺し、「浅野ここにあり」を強烈にアピールしたのである。
「大舞台に強い男」がこのタイミングで本格復帰したのは、森保監督も心強いはず。大橋と古橋を呼ばないのであれば、浅野を呼び戻す可能性はかなり高そうだ。今回の最終予選はそう苦しんではいないものの、2017年8月のサウジアラビア戦で豪快な先制点を挙げ、2018年ロシアW杯切符をもぎ取った経験値はやはり重要だ。30代になった浅野を置いておくことで、前線アタッカー陣に安心感も生まれるかもしれない。そういう意味でも彼の動向には注目すべきだ。
それ以外に目を向けると、ドイツでコンスタントに試合に出ている町野修斗(キール)も候補の1人。ただ、森保監督の中では何かが足りないのか、最終予選突入後は一度も招集がない。今季ブンデスリーガ1部初昇格のキールが下位に低迷しているのも一因だろうが、町野自身はカタールW杯出場なしの屈辱を糧に次の大舞台を虎視眈々と狙っている。彼ならば前線で起点になる仕事やゴールを狙う仕事のみならず、ロングスローやFKなど多彩な役割をこなせる。そういう選手の必要性を指揮官はどう考えているのだろうか。そこは一度聞いてみたいところだ。
もしかすると、森保監督は「もっと若い世代のFWを呼びたい」と考えているのかもしれない。25歳の町野よりも若くてポテンシャルがありそうなのは、ベルギー移籍後、いきなり3ゴールと気を吐いている21歳の坂本一彩(ウェステルロー)、19歳の長身FW後藤啓介(アンデルレヒト)あたりだ。特に後藤に関しては、2月19日に欧州視察から戻った際の囲み取材で名前を出して期待を口にしたほど。U-20日本代表のスペイン遠征メンバー(3月16日~26日)に招集されたため3月シリーズでのA代表抜擢は消滅したが、2028年ロサンゼルス五輪世代の人材をいずれ招集したいという思いが好けて見えた。
けれども、まだ予選突破が決まっていない3月シリーズではリスクは犯さないだろう。今回は手堅いメンバーを呼んで切符を確実に取り、6月シリーズで次世代の若手をチャレンジするという無難な流れにしていくはずだ。7月には国内組だけで参戦するE-1選手権(韓国)も控えており、そのあたりが新戦力発掘の数少ない機会。坂本や後藤、国内組のジャーメイン良(広島)や鈴木章斗(湘南)らにはしっかりと力を蓄えてもらいたい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。