大学サークルが目指すJリーグの新たなムーブメント コロナ禍で大打撃も…「今年実現したい」【インタビュー】

地元クラブの魅力を伝え県の発展へ活動を続けている新潟大学アルビレックスプロジェクト【写真提供:新潟大学アルビレックスプロジェクト】
地元クラブの魅力を伝え県の発展へ活動を続けている新潟大学アルビレックスプロジェクト【写真提供:新潟大学アルビレックスプロジェクト】

新潟大学アルビレックスプロジェクトとコロナ禍

 4万人のサポーターが熱狂したビッグスワンをもう一度――。高い志の下、アルビレックス新潟の本拠地にかつての盛り上がりを取り戻そうと奮闘する地元大学サークルがある。「新潟大学アルビレックスプロジェクト」。しかし、そんな彼らの活動にコロナ禍が大きな影を落とした。“再生”の道を歩む今、そしてここから思い描く理想の未来に迫った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の1回目)

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「本当に一から始めたサークルといった認識が正しいのではないかなと思っています。それでも、今は試合観戦以外にできる活動がほかにないか模索している状況です」

 新潟大学アルビレックスプロジェクトの新代表に就任した同大3年の佐藤惇矢さんは、新年度の活動を思案する様子でこう話す。2013年から活動を続ける通称「アルプロ」。現在所属するメンバーは88人を数えるも、その数に見合う充実した活動を展開できているかは言い難いのが現状だ。

 始りは2012シーズン、最終節までJ2降格危機に直面していたクラブを何とかしたいと創設メンバーの1人がSNSでつぶやいた投稿からだった。

「ビッグスワンに4万人入れば残留決められるんじゃね」

 突拍子もない思いつき。それでも、投稿に反応したある人物から「これを配れ」と招待券約200枚がプレゼントされた。実際、最終節での観客動員は4万人に遠く及ばなかったそうだが、それでも招待に応じた150人からはスタジアム観戦を受けての感動の声が続々と寄せられた。この成功体験に感化され、「もっと多くの若い世代をビッグスワンに呼ぶことはできないだろうか?」との思いで新潟大学アルビレックスプロジェクトはスタートした。

 サークルが始まってからの主な活動は、新入生・留学生のホーム試合招待、学割チケットの販売サポート、バスツアー開催やホームタウン活動への参加など。2014年に医療機関で行うパブリックビューイング「病院ビューイング」が県内で誕生してからは、そのボランティアスタッフとしても活動した。

 年を追うごとに試行錯誤で行ってきた活動にもノウハウが蓄積され、クラブや地域との人間関係も広がっていった。目指す理想は高くとも、サークルとしていつか大きなことを成し遂げられるんじゃないか。そんな期待を根底から覆したのが2020年から3年余りにわたって続いたコロナ禍だった。

 佐藤さん曰く、現在サークルとしての中心的な活動は「ホームとアウェーの試合観戦やその様子のSNS発信」とのこと。とはいえ、パンデミックが招いた未曾有の事態がなければ、新たな試みが展開され、既存の活動を含めノウハウは継承されるはずだった。わずか数年の空白期間による深刻な影響を受け止めている。

「僕自身、過去の活動報告を読んで『こんなこともできたんだ』と思ったくらいです。在学中の先輩方も、かつて例年行っていた活動のことを正確に把握されていません。今回取材の機会をいただいたことで、初めて知ったことも多かったくらいです」

 コロナ禍が起こる前、「アルビレックスプロジェクト」と名前がつくサークル活動は新潟大学以外に、新潟県立大学、新潟経営大学、新潟国際情報大学、新潟医療福祉大学も含む計5大学で展開されるほどの大きな盛り上がりを見せていた。しかし、コロナ禍以降はうち2大学が活動を完全に休止。県内全体を見渡してもかつての勢いを取り戻せないでいる。

アルプロが起点となり全国の大学生との交流を活発化へ

 Jリーグクラブと大学。これらはどちらも、地域にとっての重要な社会資本である。国内プロサッカーの発展とともに2つは日本各地で関係性を深め、現在では広告・スポンサーをはじめ、指導者や研究者の派遣協力、スポーツ普及活動を目的にしたイベント開催など多方面で連携を図っている。

 そんななか、学生主体の自由闊達な大学サークルにはどのような可能性があるのか。佐藤さんは新潟大学アルビレックスプロジェクトが出発点となり「今年実現したい」プランの一例を次のとおり説明してくれた。

「例えば、山形県の学生と交流することで『モンテディオプロジェクト』が立ち上がれば面白いんじゃないかと考えています。そうやって全国各地で活動が活発化し、僕たちアウェーに行けばその土地の大学生がもてなしてくれて、逆にこちらに来れば僕たちがもてなす、そんな状況が生まれれば理想です。難しいとは思いますが、実現できればJリーグの盛り上げに一役買えるかもしれません」

 そのためにも、欠かせないのが「僕たちの活動がまずは代表例となる」こと。「大学生とJリーグクラブが積極的に協同する関係性が生まれれば、この国のプロサッカーはもっと盛り上がるんじゃないかとサークル内で話しているところです」と佐藤さんは期待を口にする。

クラブにとって「頼れる存在」が理想

 新潟大学アルビレックスプロジェクトはサークル創設以来、さまざまな活動を通じて地域だけでなくアルビレックス新潟とも関係性を築き上げてきた。活動するうえでなくてはならないクラブにとって、自分たちがどのような存在でありたいと考えているのか。

「理想として考えているのは、僕たちが『頼れる存在』になることです。僕たちはこれまで、クラブから運営において多大なサポートを受けてきました。ですが、今後は逆にクラブが僕たちを頼りたいと思う状況に変えていければ。僕たちと協力すればアルビをさらに盛り上げるためのイベントが開催できる、そう思わせたいと考えています。それがやがてクラブだけでなく、新潟県全体の発展につながればいい。そういう関係性をクラブと持つことができれば一番いいと思っています」

 冒頭で触れたとおり新潟大学アルビレックスプロジェクトは「4万人のサポーターが熱狂したビッグスワンをもう一度」と高い志を掲げたサークル。活動の大きな目的の1つはチームの魅力を感じてもらいファン拡大につなげることであるが、観客動員だけが目指すゴールではない。先輩たちの話から強くした思いがある。

「アルビレックスプロジェクトOB・OGの間では、大学卒業後もまた新潟で集まってアルビレックスの試合を観に行こうとなるそうなんです。これもファン拡大の成功の形なのではないかと思います。大学時代は卒業することで必ず終わりを迎えます。それでも、僕たちはサークル活動を通じて関わった人たちに新潟における戻って来られる場所を作ることができる。それこそが僕たちの存在が特別な理由だと自負していますし、アルビレックス新潟を心の故郷にしていきたいと考えています」

 新年度が始まれば、新潟大学アルビレックスプロジェクトの新たな1年もスタートする。新潟の大学生が発信源となったJリーグの新たなムーブメントは果たして生まれるか。もちろん、一朝一夕とはいかないだろう。それでも、彼らの今後に期待せずにはいられない。

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



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