28歳日本人が欧州→Jで再起 リバプール行きの逸材と熾烈競争…評価急上昇と不運の紆余曲折【コラム】

今季京都に復帰をした奥川雅也【写真:Getty Images】
今季京都に復帰をした奥川雅也【写真:Getty Images】

約10年ぶりに古巣・京都復帰のMF奥川雅也…欧州で着実に積み重ねたキャリア

 今季、京都サンガF.C.の新加入選手の中にMF奥川雅也の名前があった。欧州で複数のクラブを渡り歩き、古巣に復帰するのは約10年ぶり。J1リーグ第4節の川崎フロンターレ戦ではJ1初先発初ゴールが決勝点となる活躍を見せている。

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 現在28歳の奥川が過ごした長い欧州でのキャリアを振り返ると、経験を積んだ時期、主力として活躍した時期、怪我と不運に泣いた時期に大きく分けられる。

 オーストリア・ブンデスリーガのレッドブル・ザルツブルクへ移籍したのが2015年夏。セカンドチームにあたるFCリーファリング(オーストリア2部)で経験を積み、17年にはSVマッテルスブルク(オーストリア1部)にレンタル移籍し27試合5得点をマーク。18年、今度はブンデスリーガ2部のキールにレンタル移籍。ここでは19試合で5点という数字を残している。欧州でのサッカーに馴染みながら、少しずつ試合経験を積み重ねていた時期だ。

 ザルツブルクへ復帰した2019-20シーズン、開幕から2試合連続ゴールを決めるなどの活躍でレギュラーポジションを確保すると、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)第3節バイエルン・ミュンヘン戦ではCL初ゴールを決め、世間からの評価を一気に高めた。

 ザルツブルクのスポーツディレクターを長年務めていたシュテファン・フロイント(現バイエルンSD)は「マサヤはレンタル移籍でいい経験を積んできた。戦術理解やフィジカルの面で非常に良い成長を見せている。チーム内でも重要な役割を果たしているんだ。ここからさらに多くの喜びをもたらしてくれると信じている」と、その成長を喜んでいたのが印象的だ。

 そして実際にアーリング・ブラウト・ハーランド(現マンチェスター・シティ)や南野拓実(現ASモナコ)といった主力が他クラブへステップアップ移籍を果たしたあとのザルツブルクで注目されていたのが奥川だった。

「(主力の離脱は)ザルツブルクでは新しいことではない。(ブレイクへの)次の一歩を準備している選手がいるのだ。例えば奥川だ」

 こう語ったのは当時ザルツブルク監督だったジェシー・マーシュ。アシストやゴールに直結する動きを高く評価し、それまで南野が務めていたトップ下のポジションで起用した。俊足で何本もの矢が放たれるかのごとく鋭いプレスの連続で相手の攻撃を無力化し、縦方向へのダイレクトプレーの連続でゴールを強襲するザルツブルクで、奥川は重要な役割を担う選手へ成長できると首脳陣は大きな期待を寄せていたのだ。

ビーレフェルトでは2度の降格を経験した【写真:Getty Images】
ビーレフェルトでは2度の降格を経験した【写真:Getty Images】

リバプールやドルトムントで将来活躍するライバルたちと熾烈なポジション争い

「自分が試合に出たら点を決めてアシストするっていう役割を与えられているので、そういうところで結果を出して成長につなげたいかなって思います」

 奥川自身もそう口にしていた。自信がみなぎる。だがザルツブルクの攻撃陣には強力なライバルがたくさんいた。

 その代表格がドミニク・ソボスライ。いまやリバプールで欠かせない存在になっている彼は当時19歳ながらすでにその片鱗を見せていた。ほかにもドイツ代表にも選出されるカリム・アデイェミ(現ボルシア・ドルトムント)やメルギム・ベリシャ(現アウクスブルク)、ノア・オカフォー(現ナポリ)、パトソン・ダカ(現レスター・シティ)らとの激しいポジション争い。2021-22シーズン、残念ながら出場機会が減ってきた奥川は新天地に渡る決意をする。

 ドイツ1部ビーレフェルトへレンタル移籍。ウーベ・ノイハウス監督は「多くのクリエイティブなアイデアをもたらしてくれるし、シュートだけではなくアシストもできるのが彼の強みだ。彼の加入でゴールへの危険性を高めていけるだろう」と高く評価し、サミア・アラビ強化部長からも「ザルツブルクで非常に優れた育成を受けてきた。プレー面だけではなく、そのメンタル面も優れている」と、1部残留への貴重な戦力として迎え入れられた。

 当時同じくレンタル移籍していた堂安律とビーレフェルトの攻撃にアクセントを加えると、すぐファンから愛される存在に。主力として活躍した奥川とともにビーレフェルトは2020-21シーズンに無事1部残留に成功。その後、完全移籍で獲得されると中心選手としての地位を確固たるものにしていく。

 だが、2021-22シーズンは17位で2部へ降格。チームに残った奥川は1年での再昇格を願ったものの、チームは大不振に陥り序盤から下位を低迷した。

「準備期間でやっていたサッカーを上手く表現できなかった部分と、相手のシンプルなサッカーに対応できなかった。フレッシュな若手が加入して、僕たちのやりたいサッカーというのが、まだ上手く表現できていない。去年とはまた違うサッカーをしているので、そこに貢献したいなと」(奥川)

 2部開幕戦に敗れたあと、奥川はそう試合を振り返っている。自分の力でチームを良い流れに導きたい思いであふれていた。だがチームは一向に上昇気流に乗ることができず、降格圏に沈み続ける。奥川は苦しいチーム事情のなか30試合に出場し、5ゴール10アシストと奮闘したものの、シーズン終盤に鎖骨の骨折で痛恨の離脱。奥川を失ったビーレフェルトは16位で3部3位のビースバーデンとの入れ替え戦に挑んだが、2戦合計1-6で完敗。1年で3部まで降格してしまった。

「クリエイティブな解決策を見つけ出せる選手」の高評価で心機一転の移籍も…

 23年7月に1部アウグスブルクへの移籍。心機一転といきたいところだったが、怪我に長く苦しめられてしまう。

 24年1月からは2部ハンブルガーSVへレンタル移籍。ただここでも怪我の影響もありコンスタントな活躍ができず。1990年ワールドカップで優勝した西ドイツ代表メンバーで、アウグスブルク代表取締役を務めるシュテファン・ロイターが「アタッキングサードでゴールにつながる動きができて、クリエイティブな解決策を見つけ出せる選手。我々の攻撃は相手に読まれにくくなる」と高評価していただけに、欧州の舞台でもっと輝かしいキャリアを歩むことも十分可能だった。怪我さえなければと思わずにはいられない。

 Jリーグへの復帰は新たな物語の始まり。苦難を乗り越えた奥川はきっと、さらに強くなってピッチで躍動してくれるはずだ。ビーレフェルト時代に自身のプレーについて尋ねた時に、こんなふうに答えてくれたことを思い出す。

「チーム全員で走って、守備と攻撃の目標を完結させる意識が大事。個人としては得点でチームを助けたいし、チームのために走ることが重要になってくると思います」

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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