“人生を変える”電撃移籍「すごく違和感」 元日本代表25歳、片道切符にも映った覚悟【コラム】

G大阪の満田誠「紫のユニホームを着たサポーター以外に応援されるのも初めて」
今シーズンの開幕後にサンフレッチェ広島からガンバ大阪へ期限付き移籍し、サッカー界を驚かせた元日本代表の満田誠は、2日間の練習だけで3月2日の東京ヴェルディ戦でデビューを果たした。ほぼぶっつけ本番の状態でトップ下として途中出場し、ガンバの勝利に貢献した25歳は新天地に何をもたらしたのか。(取材・文=藤江直人)
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人生は何が起こるかわからない。サンフレッチェ広島の一員として、満田がピッチに立った最後の一戦。昨年12月8日のJ1リーグ最終節でガンバ大阪に1-3で敗れ、リーグ優勝の可能性を断ち切られた直後に敵地・パナソニックスタジアム吹田に鳴り響いた手拍子は、悔しさとともに記憶に刻まれていた。
9シーズンぶりの優勝を逃してから85日目。所属クラブが因縁のガンバに、舞台が敵地・味の素スタジアムに変わって迎えた東京VとのJ1リーグ第4節後。1-0でもぎ取った勝利の喜びをファン・サポーターと共有する儀式、ガンバクラップを先導してほしいと満田はチームメイトから告げられた。
「どうすればいいかがよくわからなかったけど、隣の選手であるとか、スタンドの前のほうのサポーターの方を見ながら何とかやりました。これには徐々に慣れていくしかないのかなと思っています」
こう振り返った満田は、ゲームキャプテンのGK一森純に手ほどきを受け、右隣に立ったFWイッサム・ジェバリやゴール裏スタンドの最前列のサポーターの動きを何度もチェック。照れ笑いを浮かべながら頭上で手拍子を打ち鳴らす役割を終えた直後に、新天地ガンバの初陣で抱いた思いを正直に打ち明けた。
「移籍するのも初めてですし、紫のユニホームを着たサポーター以外に応援されるのも初めてだったので。アップのときから声援を受けてすごく違和感を覚えたのと同時に、アウェイにもかかわらずあれだけ多くのファン・サポーターの方々が来てくれたなかで、どうしても結果で応えなきゃいけないと思っていました」
生まれ育った熊本市のソレッソ熊本から広島ユース、流通経済大学をへて古巣・広島でプロになって4シーズン目。ルーキーイヤーから主軸を担い、森保ジャパンにも招集された身長170センチ体重63キロの小さなダイナモは、今シーズンのリーグ戦で一度もピッチに立てないまま、2月27日にガンバへの加入が発表された。
出場機会を求めた期限付き移籍には買い取りオプションがつけられ、大半の期限付き移籍とは異なり、保有元の広島との公式戦にも出場できる。まるでガンバとの契約が満了する来年1月以降も広島へは戻らない、と映るような電撃移籍。人生を変えるチャレンジになるのでは、と問われた満田は静かに語った。
「日々のトレーニングだけでなく、目の前の1試合1試合というか、実際にピッチに立つなかで1分1秒を大切にしながら、ひとつひとつのプレーに、そして結果にこだわっていきたい」
加入発表から中2日。新たなチームメイトの特徴をほとんど把握していない状況で迎えたヴェルディ戦で、満田は後半開始とともに今シーズン初出場を果たした。キャプテンのFW宇佐美貴史が欠場した影響もあり、前半はシュート数がわずか1本に終わった攻撃を立て直すミッションが託されていた。
「前半は相手がセカンドボールをよく拾い、コンパクトにしてくるところで、外から見ていて難しそうだなと感じていた。後半は相手が困るような中間のポジションに立って相手の守備を広げるとか、セカンドボールへの反応を意識してプレーできたので、自分たちがボールをもつ時間が増えて攻めやすくなったと思う」
ベンチから試合展開をチェックし、ガンバの攻撃に足りなかった部分を自分なりに分析した満田は、トップ下として味方との距離感を特に意識しながらプレー。果たして、後半のシュート数は13本へと激増。そのうちの一本をジェバリが頭で押し込んだ、後半40分の先制弾が結果として決勝点になった。満田が続ける。
「ガンバがやりたいサッカーはあのくらいの距離感で、選手がどんどん入れ替わりながら、というのが理想だと思うので。そのなかで味方と近い距離でプレーできたのが、リズムよく攻められた要因だと思う」
千金の決勝弾を振り返ってみる。右サイドで縦パスをFW山下諒也がフリック。ボールを受けた満田は前へ進みながら、意表を突くヒールパスで山下へリターン。山下はジェバリとのワンツーで左サイドへ進み、パスを受けたMFファン・アラーノが余裕をもってクロスを供給する状況を演出。これがアシストになった。
「練習もまだちょっとしか一緒にやっていないけど、マコ(満田)は近くにいてくれるイメージがあるので本当にやりやすい。あの場面でもだいたいの位置を把握してフリックしたら、イメージしていた通りに自分のところにまたボールを返してくれた。マコとだからこそできたパスワークだし、ボールを落ち着かせられる力を含めて、まだまだ計り知れない力をもっているマコの加入はチームにとって本当にプラスになる」
ゴールへの序章となったワンツーに山下が以心伝心だと胸を張れば、満田も笑顔でうなずいた。
「諒也くん(山下)がフリックしてくれて、そのまま中へ入っていった動きも見えていた。自分が前へ進んでいくよりも後ろに落としたほうが状況もよかったので、そこはとっさの判断で、という感じですね」
現時点でできる、味方とのコンビネーションを懸命に駆使。山下を含めたチームメイトを連動させる状況を作り出し、さらに武器と自負するハードワークやデュエルでの激しい攻防も厭わない。明らかに試合の流れを変え、今シーズン2勝目へと導いた立役者だからこそ、ガンバクラップの先導役を託された。
後半に獲得した9本のコーナーキックを含めて、セットプレーのキッカーも担った満田が言う。
「(広島で)試合に絡めていなかった状況で声をかけてもらったなかで、この試合にかける思いというものはすごく大きかった。得点やアシストは決められなかったけど、それでもチームの勝利に少しは貢献できたかなと。本当に認めてもらうためにはまだまだ結果が必要だけど、チームの一員になるうえではよかったと思う」
12ゴールをあげて昨シーズンのチーム得点王になった宇佐美が欠場したヴェルディ戦は、宇佐美に次ぐ10ゴールをあげてオフにベルギーへ旅立ったFW坂本一彩と、開幕直後にSNSの不適切な使用と他者への迷惑行為が発覚し、チームから離脱処分を科されていたMF山田康太(現・横浜FC)も不在だった。
「今シーズンに入って、ガンバもあまりいい展開ではない、というのは自分も把握していました」
外から見ていたガンバをこう語った満田も、愛着深い広島を離れるまでにはもちろん逡巡した。しかし、シーズン中の7月には26歳になり、中堅と呼ばれて久しいキャリアで立ち止まっている時間はない。勇気を振り絞り、開幕直後にプレー環境を変えた初陣を「自分を含めて、まだまだゴールを決められる場面があった」と反省を込めて総括しながら、コミュニケーションをどんどん密にして新天地における存在感を高めていく。

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。