豪快弾に世界衝撃…日本の19歳新星 U-16時代に“中学レベル超え”独自スタイル確立の道【コラム】

新生なでしこジャパンで注目を集める谷川萌々子、代名詞のミドル弾で存在感
日本女子サッカー史上初の外国人指揮官として招聘されたニルス・ニールセン監督率いる新生なでしこジャパンが、2025 SheBelieves Cup優勝という最高の船出を飾った。FIFAランク1位で、昨夏のパリ五輪覇者でもあるアメリカ代表から大金星というオマケ付きの好結果だった。
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攻守で主導権を掌握するサッカーを目指す指揮官が、今大会に向けて最初に施したのが選手たちの意識改革だった。1人1人と対話の時間を持ち、自らの長所を自覚させ、不安感を吹き飛ばす。結果、選手たちはポテンシャルをいかんなく発揮し始めた。
その1人が19歳のMF谷川萌々子だ。おっとりとした口調に反して「このチームを自分が勝たせるという気持ちで臨む」という強気な一面も持つ。そんな彼女がスタジアム中の視線を釘づけにした。圧巻ミドルが炸裂したのは第2戦のコロンビア戦開始18秒のこと。今大会からトライしているプレッシングによってこぼれ出たボールを拾った谷川が豪快に左足でミドルシュートを突き刺した。この形はもはや谷川の代名詞である。
そしてもう1つ、谷川の強みとしてポジショニング感覚を挙げたい。攻守において絶妙な位置取りをするのだ。まさにニールセン監督が求めるトランジション(切り替え)のポイントとなる動きを見せた。今大会では「ライン間でボールを受けて前進させる位置取りを意識」していたという。そこに持ち前のキック能力が加わり、誰も真似の出来ない谷川のスタイルを確立させた。
爆発的なスピードを有しているわけではないものの、複数人に囲まれても独特の間合いで局面をかいくぐるしたたかさを持ち合わせている。相手ゴールに近い位置でボールを持てば大きな脅威を与える存在にまで成長していることを、今大会を通じて改めて証明してみせた。
谷川の強烈なキック音を初めて聞いたのは、U-16日本女子代表として強化合宿に臨んでいた頃。あまりの音にその持ち主を探すと、そこにはまだあどけなさを残しつつもすでに身長が168センチに達していた中学生の谷川がいた。
蹴り出されるボールには重みを感じるだけでなく、その飛距離が中学生の域を超えている。特に左足の破壊力には目を見張ったが、「でも利き足は右なんです(笑)」(谷川)と言ってのけた。幼い頃から両足で遜色なく蹴れるように取り組んできた努力の賜物だ。事実、2022年のU-17女子ワールドカップ(W杯)では直接FK(右足)と40メートルのゴール(左足)を叩き込み、谷川の存在が多くの人の目に留まった。
谷川が注視する先輩プレーヤーは…「高いサッカーIQでゲームコントロール」
谷川への期待の大きさは、U-17女子W杯翌年から変わった周辺環境を見れば一目瞭然だ。JFAアカデミー福島に所属していたこともあり、2023年女子W杯には同期の古賀塔子とともにトレーニングパートナーとして同行。わずか1、2年しか年齢差のない藤野あおば、浜野まいからが日本代表メンバーとして世界と戦っていた。
「だからこそ悔しいです。(彼女たちは)本気でこのワールドカップで戦うために努力を重ねてきたから、今ここに立っていると思うんです。自分自身は“この大会”への努力が足りてなかった」(谷川)。突如、トレーニングパートナーに抜擢された高校生の谷川に直近のW杯を本気で視野に入れておけというのは酷な話だが、その差がもたらした自分の立ち位置に歯がゆさが拭えなかったのだろう。
その鬱憤を晴らすかのように、W杯直後に行われたアジア競技大会では5得点を挙げ、金メダルを手にした。その後パリ五輪グループリーグ第2戦で、のちに銀メダルを獲得するブラジル代表から後半アディショナルタイムの逆転ゴールを叩き込む活躍を見せるほどの成長を遂げていく。谷川の成長を加速させたのは、紛れもなく女子W杯で各国代表たちの“本気”に触れた経験だ。
当時のチームがベースとなり、ニールセン監督の始動初招集メンバーが組まれた結果、高校生ながら“なでしこジャパン”で揉まれ、日本代表という環境に触れ続けた谷川は新体制下でも惑うことなく本領発揮できたと言える。藤野たちの代からではなく、さらに1カテゴリー下の世代である谷川、古賀らを引き上げたのは当時の首脳陣の英断と言える。
そんな成長期真っただ中にいる谷川が高校時代から注視しているのが長谷川唯のプレーだという。同じ中盤の選手ながら、広い視野と溢れ出るアイデアで仲間を生かす長谷川と谷川は全くタイプが異なる。長谷川のコピーをしようとしているのではない。谷川が見ているのは「高いサッカーIQでゲームコントロールしているところ」だ。常に良いポジションを取り続けようとする長谷川から受けた刺激によるところも大きいのだろう。そして今も磨き続けている嗅覚は海を渡っても、谷川を支え続けている。
名門バイエルン復帰、3人抜きドリブルと強烈ミドルが与えた特大インパクト
JFAアカデミー卒業後の2024年、谷川はドイツの名門バイエルン・ミュンヘンへ加入。2024シーズンはスウェーデンのローゼンゴードへ期限付き移籍し10番を背負った。そこで得点センスをいかんなく発揮し、16ゴールの活躍で得点王とリーグ優勝のタイトルを手にすると、今年1月からバイエルンへ復帰。時には与えられ、時には自ら掴みにいったチャンスを谷川自身の力でモノにしてきた。
シーズン途中からの復帰ということもあり、いきなりスタメン入りとはならないのが現実だが、カップ戦で大きな衝撃を与えた。2月12日の女子DFBポカール準々決勝フランクフルト戦(4-1)、0-1と1点ビハインドで迎えた後半40分から谷川は途中出場。そこから明らかに流れが変わった。意表を突くパスに加え、あと一歩でゴールというスルーパスも通すと、延長前半3分には相手の逆を取り続ける3人抜きドリブルから逆転ゴールをアシスト。さらに同14分には自らミドルシュートも叩き込み、1ゴール1アシストと大車輪の活躍で劇的勝利を呼び込んだ。
それでも「まずは試合に出ること」と谷川はバイエルンでの目標を手堅く語るが、チームの中心を担う日もそれほど遠くないはずだ。女子サッカーの強豪国ドイツでもキック力を磨き、気の利いたポジショニングで攻守に絡む感覚がさらに洗練されれば、なでしこジャパンでの起用にも幅が生まれるはず。これだけの経験値がありながらまだ19歳。谷川の未来には無限の可能性が広がっている。
(早草紀子 / Noriko Hayakusa)
早草紀子
はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。