サッカー選手がエンジニアと“兼業”も「知識なかった」 未知の世界を選んだ訳「サッカーと似てる」【インタビュー】

南葛SC加入加入後、システム開発会社に就職した下平匠氏【写真:本人提供】
南葛SC加入加入後、システム開発会社に就職した下平匠氏【写真:本人提供】

下平匠氏は南葛時代からエンジニアとして働いている

 ガンバ大阪でプロデビューを飾り、J14クラブを渡り歩いて活躍した下平匠氏。2021年に関東2部(当時)の南葛SCに加入して以降はシステム開発の会社に就職し、エンジニアとサッカー選手の二足の草鞋を履いてきた。全くの未経験だったエンジニアの道をなぜ選んだのか。その決断の理由を聞いた。(取材・文=石川遼/全4回の4回目)

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 G大阪のユースからトップチームへ昇格。18歳でプロデビューを飾り、昨年18年間の選手生活にピリオドを打った。大宮アルディージャ、横浜F・マリノス、ジェフユナイテッド市原・千葉とJ1、J2のクラブを渡り歩いてきた男に大きな転機が訪れたのが2021年だった。千葉との契約満了を迎えたなかで、新天地に選んだのが当時関東2部リーグで、将来のJリーグ加盟を目指す南葛SCだった。

 サッカー漫画の金字塔『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一氏がクラブのオーナー兼代表を務めることでも知られる南葛SCでは、在籍する選手の多くがチームを運営する「株式会社南葛SC」の正社員として働いており、サッカー選手のセカンドキャリアをサポートする体制も整っている。そのなかで下平氏は別のシステム開発の会社に就職し、システムエンジニアとして働きながらサッカーをする道を選んだ。

「南葛への加入が決まって、そこから仕事はどうしようか考えていた時に、岩本さん(代表取締役専務兼GMの岩本義弘氏 )に相談したら『南葛で働いてもいいし、他の企業も紹介できる』ということだったので、僕は『外でいっぱい働いてみたいです』と伝えました。そこでシステムエンジニアの募集をしていた会社を紹介してもらって。知識は何もなかったんですけど、年齢もその時まだ32歳で、まだまだチャレンジできると思ったんです」

「最初は本当にパソコンの使い方も分からなかった」

 引退してからの進路について、選手時代から全く考えていなかったわけではなかった。「ジェフの最後の2年くらいで、普通二種(運転)免許、いわゆるタクシー運転手に必要な免許ですね。それからトラックの大型免許は取りに行ってて。僕、車の運転がすごい好きなんです」。

 漠然と運送業の仕事に就く未来図は描いていたが、「一応準備はしていましたけど、それ(運転)は今の年齢からじゃなくて、もうちょっと先でもできるかもしれない」という考えに至った。これまでもサッカーという自分の好きなことをして生きてきた。知識がなく、未経験の、ゼロから挑戦に踏み出したかったのだという。

「最初は本当にパソコンの使い方も分からなかった。NetflixとかYouTubeを見るくらいしかパソコンを使ってなかったですから。そんな状態からのスタートでしたけど、ちょっとずつできることが増えていくのは、サッカーの練習と似ていると感じたんです。サッカーでは『今日はリフティングが何回』できたとかそういう積み重ねでしたけど、エンジニアの仕事も同じで、全く抵抗がなかった。そのコツコツと積み上げていくことは嫌いじゃなかったので、自分の性格に合っていたんだと思います」

 エンジニアとして、システム開発やWeb開発などを主な業務として行っている。「今は個人で案件を受けたりしていて、直近だとマリノスの先輩だった天野貴史くんが立ち上げた自動車の会社(CIRCULO)のホームページを作らせてもらいました。サッカーで知り合った人と、サッカー以外の関わりを持てるという経験はすごく嬉しいかったですね」。今年で5年目を迎えるエンジニアとしてのキャリアにも充実感を覚えている。

仕事には現役時代と変わらないスタイルで向き合っている

 2023年12月にはIT国家試験の「基本情報技術者試験」に合格。「エンジニアとしても誇れるものを手にしたい」という思いから勉強を始め、それが実を結んだ。

「当時は1日大体2時間半くらい、仕事と練習が終わってから勉強をしました。移動中もずっと過去問を解いてっていう生活を半年ぐらい。今考えるとかなりやってましたね」。一度スイッチが入ると、一つのことに向かって集中できるタイプ。努力はまったく苦にならなかったという。

 選手時代にはプロデビュー時から“まずは3年”という短期的な目標を立て、そこからコツコツとキャリアを積み上げていった下平氏。「いきなり右足でクロスを上げろと言われてもできないですから」。エンジニアへと転身を遂げても変わらないスタイルで仕事に向かっている。

 そして、“新天地”でもサッカーとの関わりは続けていきたいと語る。将来的には、エンジニアとしてJリーグに貢献したいという思いも明かした。

「将来のビジョンですか。何だろうな。やっぱり、一番は世の中にバンと出るサービスを作ってみたいというのはあります。もちろん難しいことですけど、チャンスがあれば何でもやってみたいですね。それこそ、例えばJリーグのシステムに関われる機会なんてあったら面白いですけどね。これすごく大きい目標を言いましたけど、結局はやっぱりコツコツやんなきゃいけないなっていうのは選手の時と変わらないと思いますけどね(笑)」

大人のサッカースクールを「After Party Football Club」主催している下平匠氏【写真:本人提供】
大人のサッカースクールを「After Party Football Club」主催している下平匠氏【写真:本人提供】

下平匠氏が最近始めた大人のサッカースクール「After Party Football Club」

(石川 遼 / Ryo Ishikawa)



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