J引退→一流企業職員 「プロは自分がすべて」…現役では気付かなかった“裏方”の仕事【インタビュー】

現役時代にFC東京と福岡を渡り歩いた田邉草民【写真:Getty Images】
現役時代にFC東京と福岡を渡り歩いた田邉草民【写真:Getty Images】

【元プロサッカー選手の転身録】田邉草民(福岡、FC東京、サバデル):引退後に九州博報堂で働く

「今は慣れましたけれど、最初のうちは朝から夕方まで働くというのに慣れるのが大変でしたね。サッカー選手の時は大体午前中だけで終わっていましたから。昼食を済ませたらすごく眠くなったりしていました(笑)」。笑顔を浮かべながら話すのは2023シーズン限りで現役を引退した田邉草民氏である。

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 国学院久我山高等学校卒業後の2009年にFC東京へ加入。2013年からの2シーズンをスペインのCEサバデルで過ごし、2019年からはアビスパ福岡で5シーズンにわたってプレーした。

 センスあふれるプレーと、球際の強さ、泥臭さを併せ持った選手で、FC東京、福岡の両サポーターから愛された。引退後のイベントが2024年3月16日の福岡 vs FC東京戦で行われたのは、その縁から。両チームのファン、サポーターから大きな拍手が送られた。

 現在は業務委託契約を結んで株式会社九州博報堂の職員として勤務している。引退後は漠然と自分で事業をしたいと考えていたが、同社がスポーツビジネス部門への業務拡大を図ることになり、それに伴い声をかけられたことでまずはチャレンジしたいと考えてのことだった。

 もちろん、自身が愛したスポーツ(サッカー)の環境を整えるという業務内容に興味があったことも理由の一つでもある。スポーツ関連のイベントの企画・運営の他、スポーツチームの活動に関して補助金を使って何かできないだろうかなど、九州博報堂の知見を活かしてさまざまな提案を行い、0から何かを作っていくことで日々を過ごしている。

0からものを作り上げるには大きな熱が必要

 そんな毎日を楽しそうに話してくれる姿は現役時代と変わらない。どんな環境、どんな状況に置かれても、ピッチに立てば誰よりも楽しそうにボールを追い、その姿はただの1日も変わることはなかった。目の前のことを思い切り楽しむというのは田邉氏の人生観なのだろう。もちろん、選手時代とはまったく違う発見がある。

「裏でみんながこんなに頑張っていろいろと動かしてくれていることや、いろんな人の力と努力が重なって物事が動いているんだということを実感しています。自分たちがやっていたサッカーの世界もそうですけれど、世の中に出ているものは本当にいろんな人の努力の上で成り立っているんだというのは本当に勉強になっています」

 しかも0からものを作り上げるには大きな熱が必要で、多くの人たちの熱がぶつかり合う中で、それを一つの方向にまとめていく作業の難しさも感じている。

「何かを作り出す時には思いがぶつかるじゃないですか。それを擦り合わせて一つにするにはとても労力が必要だし、気持ち的にタフじゃないとできないなということはすごく感じます。この仕事をする前はクリエイターが作りたいように作っていると思っていましたが、クリエイターにはクライアントの要望をどのように生かすのかという葛藤があり、そこに挟まれる営業の人もいます。現役時代は自分のプレーがすべてで、それが良ければ使ってもらえるし、自分が良ければチームのためにもなりましたけれど、社内、社外を含めて周りの人たちと調整し、協力しながら作り上げていく難しさがありますね。そんな中で自分にできることは何かなと探しながらやっています」

 将来的には独立して何か事業を起こしたいという田邉氏にとって、今は新しい人生をどう生きるかということに関しての勉強中と言えるのかもしれない。

「サッカーを辞めてから、これから自分はどうやって生きていこうとか、何がしたいんだろうとか、そういうことすごく考えるようになりました。その時、その時で自分がやりたいことを選択しながら進んでいくんだろうと思っていますけれど、『これだ』というのはまだ見つけられていません。だからこそ、いろんなことに触れておくのは良いことだと思いますね。今は大変だし、いろいろありますけれど楽しいし、チャレンジしていくつもりです」

 プロ選手として培ってきた強みは負けん気。「どんな状況でも人のせいにすることはないし自分次第でどうにかできるという考えを持てる」と話す田邉氏。セカンドキャリアでも自分の道を自分の力で切り開いていくことだろう。

(中倉一志/Hitoshi Nakakura)



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