J2オファー断り選んだ“地域リーグ” 32歳で一大決心を下した訳「こだわる必要はない」【インタビュー】

下平匠氏は南葛SCで現役生活のラストを終えた
プロデビューを飾ったガンバ大阪をはじめ、Jリーグ4クラブを渡り歩いた下平匠氏は、関東1部リーグの南葛SCで現役生活のラストを迎えた。「J2のクラブからもオファーがあった」というなかで、将来のJリーグ入りを目指すクラブを選んだ理由とは一体何だったのだろうか。(取材・文=石川遼/全4回の3回目)
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下平氏は2007年にガンバ大阪のユースからトップチームへ昇格。その後は大宮アルディージャ、横浜F・マリノスとJ1の舞台で戦い続けた。2018年からJ2のジェフ千葉で2シーズン半プレーし、2021年に当時関東2部リーグにいた南葛SCに加入した。
「ジェフと契約満了になった後、なかなかチームが決まらない状況でした。その時にコンディションを維持するために、もともと知り合いだった岩本さん(代表取締役専務兼GMの岩本義弘氏)を通じて南葛SCの練習に参加させてもらいました。練習の雰囲気だったり、一緒に練習してる選手の表情とかを見ていると、すごく楽しそうにサッカーをしていて。本当にサッカーを楽しんでやってるっていうのがすごい伝わってきたんです」
千葉を退団し、当時はJリーグクラブからのオファーを待っていたという。しかし、南葛SCの練習に参加し、そこでサッカーに真摯に取り組む選手たちの姿に刺激を受けた。
「一緒にサッカーをしているうちに、次第に自分も『ここでサッカーがやりたい』と気持ちが変わっていきました。実は最後の最後でJ2のチームからオファーをいただいていたので、どうするかはすごく迷ったんですけど、長い目で考えた時にはJリーグにこだわる必要はないんじゃないか思えたんです。なのであらためて、岩本さんに『入りたいです』と伝えて、南葛SCでお世話になることが決まりました」
大きな転機だった南葛SCへの加入
J1とJ2のクラブで活躍してきたサイドバックがカテゴリーを一気に下げて、関東2部リーグへ。32歳で迎えた一大決心だったが、下平氏は「プレーするレベルについてはどうでもいいと言ったらよくないですけど、自分がそのサッカーを楽しんで、なおかつ前向きな目標のあるチームでできるというところが大きかったです。岩本さんからも『Jリーグのカテゴリーまで上げてほしい』と言っていただいて、目標に向かうなかで自分の力が出せたらいいなと思いました」と前向きな選択だと話した。
南葛SCでは計4シーズンにわたってプレーし、加入1年目に関東1部リーグへの昇格を決めた。JFL昇格こそ叶わなかったが、ラストイヤーとなった2024年シーズンにはチームキャプテンを任され、風間八宏監督の下でボランチとして起用されるなど最後までチャレンジずくめの選手生活となった。
千葉を退団後にチームが決まらなかった時には引退も頭をかすめたが、選手のセカンドキャリア支援なども積極的に行っている南葛SCに加入したことは自身にとって大きな転機だったと下平氏は回想している。
「(南葛SCへの加入は)本当に大きな影響がありました。もし、(千葉を退団した後に)J2のチームに行っていたとしても、長くて3、4年で結局また同じような状況になっていたと思います。そう考えると、サッカーも真剣にやりながら働いて、セカンドキャリアの準備にも時間を充てられたというのは本当にありがたかった。サッカーに対してもすごいプラスになる部分は多くて、サポーターやスポンサーといったチームを応援してくれる人たちをより身近に感じることができました。規模の大きなJリーグのクラブだと距離感が遠くて、そのありがたみを感じきれない部分もあるんですけど、南葛には選手個々がスポンサーを募る『個別パートナー制度』というものがあったり、下町の葛飾にあるというところもあって地域に根ざしているのをすごく感じる。やっていてすごく楽しかったです」
全く想像していなかった名手たちの加入
近年は元日本代表のMF稲本潤一やMF今野泰幸、FW大前元紀などJリーグで実績ある選手が次々に加入したことも大きな話題に。チームに起きた大きなの変化の様子を中から見ていた下平氏は、将来のJリーグ加盟を目指す野心あるクラブの可能性に大きな期待を寄せていた。
「風間さんが監督になるとか。(大前)元紀や今ちゃん(今野泰幸)、イナさん(稲本潤一)が入ってくるなんて全く想像していなかったです。僕が入った時はまだ練習が夜にあって、チームのグループチャットに『電車が遅れているので今日の練習行けません』なんて連絡が入ることが普通にあるチームでしたから。そのころからこの変化の速度っていうのは、やっぱりJリーグチームのような大きな組織ではなかなかできないスピード感だったのかなと思いますし、まだまだこれからどんどん大きくなっていくと思います。
それに地域リーグのレベルが上がっているのをすごく感じました。今年、浦和レッズに移籍した長倉(幹樹)選手は僕らと同じカテゴリーの東京ユナイテッドFCでプレーしていた選手ですけど、この数年でJ1まで駆け上がっていきました。そう考えると、本当に年々レベルは上がっている。僕が加入した当時と比べても、Jリーグ経験者が多いですし、この地域リーグから上(Jリーグ)を目指すこと自体がかなり現実的になっているんだなと感じています」

下平匠氏が最近始めた大人のサッカースクール「After Party Football Club」
(石川 遼 / Ryo Ishikawa)