「2、3年でドイツに戻る」予定が…気づけば30年 外国人指導者が愛する“日本の文化”【インタビュー】

徳島コーチのエンゲルス氏「日本人も喧嘩するけどドイツはもっとアグレッシブ」
Jリーグ創設前から日本で指導者として活動し、監督としては横浜フリューゲルスや京都パープルサンガ(当時名称)などを率いたゲルト・エンゲルス氏は、今季J2の徳島ヴォルティスでコーチを務める。すでに30年を超えた日本での生活に「富士山が大好き」と笑うドイツ人指導者は、よく国際基準などと言われるものと日本のメンタリティーの違いを認めつつも、「そのまま続けて結果を出しましょうって思います」と口にした。(取材・文=轡田哲朗/全6回の6回目)
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1990年に来日したエンゲルス氏は当初のプランを「2、3年でドイツに戻ること」だったと話していたが、気づけばその時間は30年を超えた。98年に天皇杯を制した横浜フリューゲルスの監督時代から日本語で話す姿がサッカーファンの印象に残ってきたが、普段の振る舞いについても「僕は自分で思ってないけど、『変わったな』って友だちに言われますよ。日本に行ってから遠慮しすぎとか(笑)、それは結構あるね」と話す。
そして「最初から日本を気に入った」と話すエンゲルス氏は、伝統的な日本社会の良さを笑顔で話した。
「20年前、30年前もそうだけど、並ぶ時とか電車に乗る時も落ち着いて、喧嘩がなくて平和的な雰囲気だね。もちろん日本人も喧嘩するけど、ドイツはもっとアグレッシブだから。日本にも悪い奴いるけど、挨拶もそうだし、口喧嘩と言っても『僕は違うと思います』とかそんなので。
生活はしやすいしリスペクトも、そういうマナーとか習慣も感じるよね。レストランに入って3分も誰も来なくて声を掛けても『ちょっと待ってろ』みたいなのはヨーロッパとかドイツは結構あるよ。信じられないくらいね。でも、日本はどこにいってもサービスとかホスピタリティーがあるし、それがすごく好きだし魅力的な社会だと思う」
一方で、国際的なスポーツであるサッカーは海外とのかかわりも深く、多くの選手や指導者が来日してきた。その中ではメンタリティーの違いがたびたび指摘される。エンゲルス氏も「サッカーの世界ではもうちょっとハッキリ言ってほしいこともある」と話すが、無理にそちらへ近づく必要もないという考えを話す。
「ちょっとだけアグレッシブさとか、たまにブラジル人が言うずる賢さ。そういうサッカーのことまで優しさが入っちゃうかな。ピッチの上で、ヨーロッパのチームは選手同士がぶつかり合って熱くなるのが1週間とか1か月に1回か2回あるけど、日本ではプレーを激しくやってもほとんどないね。たまに勝ち負けに対してとか意見交換にもう少しアグレッシブさも欲しいけど、それでも日本はそういう文化で結果を出しているし、喧嘩よりもそのほうが良いと思うから、そのまま続けて結果を出しましょうって思います」
この30年強、サッカーの指導者という肩書を一度横に置けば、海外で暮らす生活をしている1人の人間ということになる。「自分の人生でいろいろとやったし間違えたこともいっぱいあったけど、後悔もあまりない」と話すエンゲルス氏だが、「ただ、もう1回(人生を)やったらもう少し早く海外に行きたい」と、その経験で得られるものを力説した。
「実は32歳か33歳で初めて外国に行ったのが日本だったけど、仕事をしながら違う国で生活したのはそれが初めて。それは絶対にもっと早くしたほうが良かった。外国に出る経験は大きい。ドイツにも差別とかいろいろな問題があるけど、外国に行けば考え方は変わるね。例えば、典型的なブラジル人はどんな人っていうのは頭にあるよ、遅刻するとか揉めるとか(笑)。でも、そうじゃないよねっていう経験も大事だし、コミュニケーションも大事。
人間、外から見るだけじゃ分からない。ちょっとでもコミュニケーションがあると変わってくる。知るまでに時間は掛かるけど、時間があったらそんな風に使ってほしいとも思いますね」
これまで日本の中でも多くの地域で指導者として生活してきた。横浜や千葉、埼玉といった関東圏、京都や神戸といった関西圏に、淡路島での指導も経験した。そして今度は四国に渡って徳島を指導している。
「日本のいろいろな場所で最初に出てくるのは、富士山が大好き。箱根とか近くの湖の雰囲気も大好き。新幹線で通ったら必ず見たいよね。埼玉からも天気が良いと見えたから、ちょっと特別だね」と、笑ったエンゲルス氏は、徳島でクラブ史上3回目のJ1昇格とその後の定着に向け全力を尽くす。豊富な経験を生かして増田功作監督の傍らでチームを支えつつ、選手たちのプレーを向上させていく姿が見られるだろう。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)