久保建英も怒り露わ…タチが悪い“挑発行為”の問題点「侮蔑の意図が入っていること」【コラム】

久保建英への挑発行為が問題視されている【写真:Getty Images】
久保建英への挑発行為が問題視されている【写真:Getty Images】

レガネス戦で物議を醸したシーン…久保建英に相手選手が挑発行為

 ラ・リーガ第25節のレアル・ソシエダ対レガネスで物議を醸したシーンがあった。後半15分、久保建英がドリブルでペナルティーエリア内へ突入し、レガネスのDFレナト・タピアがタックルして倒れたが笛は吹かれず。その際、倒れている久保に向かってタピアが何か言った。すると久保は血相を変え、その場を離れようとしたタピアのユニフォームを掴んで引き戻そうとする。レガネスのGKマルコ・ドミトロビッチが背後から久保を抱きかかえるように止めた。その後、主審はタピアと久保にイエローカードを出している。

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 スペインメディアの報道では、タピアは久保に向かって「クソ、中国人」と言ったとされている。

 久保が怒ったのは無理もない。報道のとおりであれば侮蔑であり差別発言だからだが、問題は侮蔑のほうにある。ただ「中国人」だけなら差別ではないし、中国人と間違えられて久保が怒ったとしたら久保も中国人を差別しているような具合になってしまう。問題なのはそこに侮蔑の意図が入っていることだ。つまり〇〇人はあまり関係がなく、クソ日本人でも同じである。

 タピアが実際になんと言ったのか正確なところは分からないが、映像を見る限りでは侮蔑的ないし威嚇的な感じがあり、相手チームのGKが久保を止めていたのも、タピアがそれなりに酷いことを言ったのを聞いていたからではないかと思われる。
 
 自分の経験から言うと、外国へ行って現地の人から「中国人」と呼ばれるのは珍しくなかった。ガーナでは子供たちが集まってきて、口々に「チャイナ!」と言われた。「ジャパン」と言っても、「ジャパ?」と固まったあと、またチャイナの合唱(笑)。たぶん日本という国を知らないのだ。うるさくつきまとわれ、なぜかサインをくれとせがまれたので、「毛沢東」と書いておいた。

 30年も前の話なので現在がどうかは分からないが、欧州でも日本を知らない人は意外と多かった。国名は知っていても韓国と地続きだと思っている人がいたし、知っている日本人を聞いたら、「お前と、ウォン・カーワァイ(映画監督)、ブルース・リー(俳優)」と言われたこともあった(俺以外、全部違うぞ)。

 どの国へ行ってもたいがい中国人はいる。大小の中華街があったりもする。人口も多いし目につくので、欧州やアフリカの人にとっては「中国人」はアジア人とほぼイコールな扱いになっていた。一般的に日本人、韓国人、中国人の区別はつかず、大まかに「中国人」で済ましている感じ。我々が子供の頃、たまに外国人を見かけると「アメリカ人!」と言っていたのと同じだと思う。外国人=アメリカ人という無知である。

 中国人でも日本人でも何人でも、そこに侮蔑的なニュアンスが加わるから侮辱になり差別になる。人種差別感情を持っている人はたぶん今でも少なくない。かつてサッカーのフィールド上はそれこそ差別と侮蔑の言葉が飛び交っていた。
 
 さすがにこれはまずいというわけで、FIFA(国際サッカー連盟)も近年大々的な反差別キャンペーンを行った。それでもなくなりはしない。認識は広まっているのにわざとやるからなおタチが悪い。イタチごっこにはなるが、その都度つぶしていくよりほかにないのだろう。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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