J2戦線で異変…まさかの開幕3連敗 “救世主”が追う常勝軍団キャプテンの系譜「試行錯誤」【コラム】

山形でキャプテンを務める土居の思いを紐解く
開幕から3試合を終えたJ2戦線で異変が起こっている。昨シーズン後半に圧倒的な強さを誇ったモンテディオ山形が、まさかの3連敗スタートを喫したからだ。昇格プレーオフ準決勝で敗れ、幻と消えたJ1復帰へ。名門・鹿島アントラーズから生まれ故郷をホームタウンとする山形へ移籍して2シーズン目で、選手およびスタッフによる投票で新キャプテンに選出されたMF土居聖真は何を思っているのか。
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偶然の一致なのは分かっている。それでも、自らが切り出した例え話とあまりにも酷似している現状に、モンテディオ山形のキャプテン、MF土居聖真は「本当に言った通りになっていますよね」と思わず苦笑した。
今シーズンの開幕を直前に控えた2月8日。山形は選手およびスタッフの投票によって選出された新キャプテンに、昨年7月に鹿島アントラーズから完全移籍で加入した土居が就任すると発表した。
ホームのNDソフトスタジアムにファジアーノ岡山を迎えた、昨シーズンのJ1昇格プレーオフ準決勝で0-3とまさかの完敗を喫し、夢半ばで涙をのんでから2か月あまり。2015年シーズンを最後に遠ざかっているJ1を目指す覚悟と決意を、土居はクラブの公式サイト上で次のように綴っていた。
「険しい登山になると思いますが、苦しみのない栄光はありません。モンテディオファミリーが山頂で最高の景色を見られるよう一緒に頑張りましょう」(原文ママ)
果たして、開幕から3節を終えたJ2リーグで山形は一度も勝てていない。RB大宮アルディージャとの開幕節は土居のゴールで追い付きながら、後半アディショナルタイムに悪夢の決勝点を奪われ、水戸ホーリーホックとの第2節は前半28分に喫した失点を最後まで取り返せず、ジェフ千葉との第3節でも2-3で敗れた。

水戸戦に敗れた際も「どのようなチームでも苦しい時期はある」
キャプテンとしての所信表明の一部が当てはまる滑り出しに、土居はそれでも心配無用を強調する。敵地で水戸に0-1で敗れた直後に、土居はこんな言葉を残している。
「どのようなチームでも、あるいはどのような世界でも苦しい時期はあるし、僕自身も本当にたくさん経験してきました。今現在もそうですけど、こういう状況では選手1人1人がどのように行動して、どのようにして好転させていくのか、といった意思が絶対に必要になってくる。気持ちを切り替えるのは難しいとされるなかで、すでに切り替えている選手たちがチーム内にたくさんいる状況を、僕はすごく頼もしく感じています」
昨シーズンの後半戦で、山形は圧巻の強さを見せ続けた。土居とFWディサロ燦シルヴァーノの加入とともに課題だった得点力不足が解消された結果、クラブ新記録となる9連勝を含めて14試合で12勝1分1敗をマーク。土居らが加わったときの13位から、順位を4位にまで急上昇させてフィニッシュした。
2位でJ1へ自動昇格した横浜FCとの勝ち点差は10ポイント。夏場までに8勝5分11敗と負け越していなければ…。昨シーズンに対する悔恨の思いは、そのまま今シーズンへの期待へと変わっていたはずだった。要はシーズンを通して後半戦のような戦いができれば、長く待ち焦がれていたJ1の舞台へ戻れる、と。
ただ、時間はもう巻き戻せない。土居も「終わった試合は、もうどうしようもない」とこう続けた。
「後ろ向きというか、マイナスの発言や行動よりも、みんなでどうにかして変えてやろう、というなかで団結力といったものも自然と生まれてくると思うので。先輩方もそうしてきたし、本当に苦しいときにこそ立ち居振る舞いといったものを、みんながピッチの上で見せる、というところだけだと思っています」
先輩方とは、鹿島時代にキャプテンを務めたレジェンドたちを指しているにほかならない。
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鹿島時代、背中で見せてくれたキャプテンの姿は土居の記憶に色濃く焼きついている
例えば現時点で鹿島が最後にJ1王者になった2016年シーズン。鹿島はファーストステージを制したものの、セカンドステージでは11位に低迷する。迎えたチャンピオンシップ。気持ちを切り替えた鹿島は準決勝で川崎フロンターレ、決勝ではセカンドステージで圧倒的な強さを誇った浦和レッズを撃破している。
当時のキャプテン、小笠原満男の立ち居振る舞いは今も土居の記憶に色濃く焼きついている。
「(小笠原)満男さんもそうですし、(内田)篤人さんも本当に背中で見せてくれたキャプテンだったので。そうなれれば……とういか、そうなるために僕も日々勉強しながら、やっていければと思っています」
3シーズン目の指揮を執る渡邉晋監督の発案で、キャプテンを互選の形で選ぶ選手およびスタッフ投票は初めて実施された。自身が最多票を獲得したなかで、土居自身はMF髙江麗央とDF西村慧祐に投じた。ともに26歳の2人は土居に次ぐ票を集めて、副キャプテンとして5月に33歳になる土居を支えている。
鹿島時代の2022シーズンに単独で、2023シーズンにはFW鈴木優磨らを含めた4人で共同してキャプテンを務めた土居は、当時の経験から「正直、キャプテンを務めるようなキャラクターではないんですけど……」とここでも苦笑する。それでも、チームメイトたちから寄せられる信頼の証となる腕章を左腕に巻いている。
「みんなが選んでくれた結果だし、1人1人の一票にすごく重みがある。ただ、なんか変にキャプテン、キャプテンと思わないほうがいいのかなと思うし、そのほうがチームのみんなが責任感をもつというか、リーダーシップを発揮する意味でもいいのかな、と。キャプテンだからといって特別に何かをするのかといえばそうでもないし、僕自身も今後の戦いで下を向かずに、引っ張っていくだけだと。そんな感じですね」
決して気負わず、動じず、ピッチの内外で常に自然体を貫く。その積み重ねが、選手1人1人がポジティブな発信を続けるチームになる。思い起こせば2016年シーズンの鹿島も、小笠原さんの背中を見ながら柴崎岳や金崎夢生、西大伍、昌子源、植田直通、永木亮太、遠藤康といった個性あふれる選手たちが躍動していた。
4戦目にして迎える待望のホーム開幕戦を控えている
アカデミーから昇格した鹿島で実に13年半にわたり、Jリーグを代表する常勝軍団でプレーした経験から弾き出されたキャプテン像というべきか。追う立場から、昇格候補の一角として追われる立場へと変わった今シーズン。ライバル勢の包囲網を蹴散らしていく今後の巻き返しへ向けて、土居はこんな言葉も残している。
「昨シーズン以上にいろいろなところで注目されているなかで、まだまだ僕らの良さというか、山形らしさというものを見せられていない。ただ、そのなかでもみんなが試行錯誤を重ねている。切り替えていくだけですね」
小笠原さんたちの真似をしようとは考えていない。ただ、自分を選んでくれたチームメイトたちに、腕章と背中ははっきりと見えるようにしたい。土居が「背番号でサッカーをするわけじゃないので」と苦笑した、昨シーズンから引き続き背負う「88」には否が応でも目立つ意味で、そうした思いも込められているのかもしれない。
昨シーズンの山形は、土居が加入する前に3連敗を2度喫している。3月はいわきFCと0-0で引き分けて、5月にはロアッソ熊本に1-0で勝利してそれぞれ苦境を脱出した。9日の第4節の相手はブラウブリッツ秋田。4戦目にして迎える待望のホーム開幕戦で、流れを変えるきっかけを掴みたい。
(藤江直人 / Fujie Naoto)
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藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。