宮本会長が語る日本代表アジア“無双”の転機 敗退が「生かせた部分も」…踏み切った新たなトライ【独占インタビュー】

日本サッカー協会の宮本恒靖会長【写真:山口 培】
日本サッカー協会の宮本恒靖会長【写真:山口 培】

宮本会長とともに考える日本サッカーの「未来」

 来年、10年後、100年後……日本サッカーが辿る未来図とは――。トップをひた走る日本サッカー協会(JFA)宮本恒靖会長が「今」と「これから」を語る。新たなコンセプト「日本サッカーの未来を考える」を据える「FOOTBALL ZONE」が独占インタビューで会長の考えに迫った。

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 森保一監督率いる日本代表が躍進を遂げるなど日本サッカーはレベル向上を図る一方で、育成世代の環境整備、Jリーグと女子サッカーの発展、ビジネス化……課題は山積み。Jリーグ創設から30年超、進化をその目で見てきた宮本会長。過去、現在、未来に視点を向け、サッカーを愛するすべての人々とともに設計図を描く。第2回は「日本代表のアジアでの戦い」について。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 あの涙は忘れない。森保一監督率いる日本代表は2024年を13勝1分2敗(53得点10失点)で終えた。史上初の元日に行われたタイ戦からスタートして、アジアカップへ。ただ、昨年喫した「2敗」はアジア杯で刻まれたものだ。グループリーグのイラク戦、準々決勝で対戦したイラン。“史上最強”と呼ばれる現代表がアジアの壁に阻まれた瞬間だった。

「あの大会では、(勝利した)インドネシアやベトナム相手にも苦戦して、アジアで勝つ、アジアの難しさを改めて感じた。選手だけじゃなくて、コーチングスタッフ、日本サッカー全体が感じたと思います。良かったとは言えないけど、(北中米)最終予選の前で生かせた部分もあったかなと思います」

 アジア杯は大陸選手権のため招集に強制力が発生するものの、インターナショナルマッチウィーク(IW)ではないため、欧州各国でリーグ戦は進行する。特に選手のほとんどが海外組となった今では、シーズン中なこともあって選手は自クラブの試合結果も気にしていた。MF久保建英はレアル・ソシエダ離脱を「後ろ髪をひかれるどころじゃない」と表現し、「(ソシエダを)離れるなら優勝してこいよと言ってくれた選手もいた」と、国を代表する選手として複雑な胸中を明かしていた。

「どうしてもIWの期間中に開催されるワールドカップ予選とIW期間外のアジア杯の違いはある。選手のモチベーションも違うと思うし、トップレベルである選手ならではのジレンマ。これは日本が今までの代表チームで抱えた問題ではなかった。たくさん(欧州トップで戦う)選手がいるからこそ出てくる問題で、高いレベルでやっているからこそ出てくる問題。それが浮き彫りになったアジア杯だった」

 アジアで優勝するのは簡単ではなかった。一方で、イランに敗れた後、呆然とする選手の表情は印象的だった。敗戦をただの1敗にするのか、それとも次につなげるのか。その後続いた北中米W杯アジア予選では程よい緊張感が走り、隙のない戦いを徹底した。

「やっぱり2026年のW杯最終予選が始まるという意味で、特に9月からのフェーズはすごく重要だった。重要なタイミングと捉えていて、(1年の)前半(である)3月はDPRコリア、6月はミャンマー、シリアという相手だったけど、最終予選は厳しいものになるということを選手の前で伝える機会があった。カタールW杯予選を経験している選手は、前回の苦しい経験もあって覚悟のもとでスタートした。でも、初戦の中国戦で立ち上がり30分はかたかったけど、後半にかけて畳み掛けるところは、今までの最終予選にはないような手を抜かない隙を見せない戦いが見られた」

森保ジャパンが最終予選で結果を残せた訳

 最終予選は中国戦の7-0大勝からスタートして、6戦無敗。今年3月のホーム・バーレーン戦で8大会連続となるW杯切符獲得に早くも王手をかけた。アジア杯の敗戦を生かすという精神面だけではない。急速に成長を遂げるチームの根本にあるのは森保監督が目指すチーム作りの“やり方”に基づいている。

「これは今の選手間の競争の激しさがベースにある。いつ出ても自分のパフォーマンスを見せなきゃいけないというところ。それがこの代表の結果に繋がっていると思う」

 さらに、今回の最終予選でJFAが取り組んだのがドイツ1部フランクフルトのU-21コーチを務める長谷部誠氏を招聘すること。そしてチャーター機での移動だ。

「長谷部の存在とか、(メンバーに)27人を呼んで4人のバックアップみたいな形でやっているのも、チャーター機の利用も含め現場とのコミュニケーションの中でトライすべきと考えました。チャーター機の利用自体はこれまでにも実績はありましたが、今回の最終予選では効果的に使えていると思います。これまでよりも一日早くメンバーが集合できて、その分戦術的なトレーニングもミーティングも多く設定できるようになった。それはすべて結果につながるという思いで。みんなで考えて1つになれている」

 宮本会長自身もW杯予選を経験し、本大会2大会に出場。日本代表の主将、オーストリアの強豪ザルツブルクでプレー、引退後には監督業などさまざまな立場からサッカー界を見てきた。“選手ファースト”。これは宮本会長だからこそできることでもある。

「選手目線に立つことも、森保さんも必要としていること、森保さん自身の考えもあるので、尊重すること。チャーター機も実際アイデアがあって、メリットと逆に経費がいくらかかるのかを検討して。それはもうメリットの方を取るべきだと。投与に想定していた予算をもちろん超えるけれども、投資として、超えた分は代表チームがパフォーマンスを出してくれることで、回収できるような戦略を策定する。例えば早く予選を突破して本大会の準備に取りかかって良い結果につなげることができれば、超えた分を補填するような経済効果もある。そういうところにつなげよう、と。実際現場の声もプラスの声が多いからそれは良かったかな」

 この決断は欧州からアジアへ過酷な移動を強いられる選手の負担を軽くした。2024年は日本代表にとってトライした1年となった。宮本会長体制2年目となる2025年にも新たなチャレンジに期待したい。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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