名門・静学2軍からトップへ抜擢…「全身で抜く」2年生ドリブラーが見据える“歴代一”
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静岡学園2年生ドリブラーMF神吉俊之介が放つポテンシャル
毎年のようにセンスあふれるドリブラーを輩出する静岡学園。今年のチームにも目を奪われるドリブラーがいる。176センチのサイズと上半身と下半身をうまく連動させた滑らかかつスピーディーなドリブルを見せる17歳のMF神吉俊之介だ。
レフティー独特のボールフィールディングと、上半身が固定されている状態で、下半身を振り子のようにしながら、ボールを巻き取るように運んでいく。間合いを作ってボールを晒し、相手が食いついてきた瞬間に左足でボールを巻き取りながら縦突破を仕掛けたり、巻き取る素振りを見せてから左アウトサイドにボールを乗せて、カットインを仕掛けたりと、まさに変幻自在だ。
神吉にドリブルの哲学を聞いてみると、非常に面白い答えが返ってきた。
「相手の矢印を折るドリブルもそうですが、相手が自分の持つ矢印の方向が分からない、方向を察することをさせないドリブルを意識しています」
彼は試合の流れの中で周りの選手が持つ矢印を見ている。相手がこうプレスをかけてくる、ここを狙っているというのを察して、その逆を行って折るだけではなく、仕掛けるタイミングやボールタッチ、重心移動を極力ギリギリまで隠して、相手が混乱しているうちに瞬間的な判断とスピードを駆使して交わしていく。それを可能にさせているのが、上半身のぶれのなさと、下半身の柔軟性にある。
「中学の時に所属していた神野SCのコーチに『上半身の動きが硬い』と言われて、足もとだけでドリブルするのではなく、上半身と下半身をうまく連動させて、全身で抜くということを意識するようになりました」
静学に入ってからもステップワーク、股関節の可動域、体幹とアジリティーなど工夫をしながらドリブルを磨く日々。徐々に上半身が安定していき、振り子ドリブルが磨かれていくと同時に、ドリブルに入る直前に周りが見えるようになるだけではなく、オンの状態でも間接視野で周囲の状況を捉えられるようになった。
昨年の新チームがスタートした時はセカンドチームに所属。プリンスリーグ東海を主戦場にしていたが、そこで磨き上げたドリブルが猛威を振るった。右サイドから仕掛けられるカットインと縦突破からのチャンスメイクで一気に頭角を現した彼が、トップチームに抜擢されるのは時間の問題だった。
選手権予選前にトップチームに引き上げられると、浜松開誠館との決勝戦ではスタメン出場した。選手権予選後のプレミアWEST第20節の大津(熊本)戦でリーグデビューをスタメンで飾ると、そこからは流れを変える切り札として、プレミア最終節まで2試合連続途中出場。選手権でも1回戦、2回戦と途中出場すると、準々決勝の東福岡(福岡)戦では再びスタメンに抜擢された。
「昨年はすごくいい経験をさせてもらったなかで、自分のドリブルで改善しなければいけない部分も明確に突きつけられました」
「歴代の中で一番静学らしさを出せるチームに」
さらなる進化を誓う大きなきっかけとなったのが選手権の東福岡戦だった。これまでは自分に対して食いついてきてくれるDFが多かったが、東福岡のDFは違った。ボールを持っても間合いを開けてブロックを敷いてきたのだった。
これまでもそのようなチームはあったが、そのシチュエーションでもボールを晒せば食い付いてきてくれた。だが、それでも食い付いてこないどころか、その間に素早い帰陣をされ、駆け引きをしている間にスペースを埋められてしまった。
1人はドリブルで剥がすことはできても、2人目、3人目と寄せてくる相手にチャンスを作り出すことができないまま、ハーフタイムでの交代を告げられた。チームも0-0のままもつれ込んだPK戦の末に敗戦。国立競技場に辿り着くことはできなかった。
「ブロックされた時にもっと強引に行ったり、シンプルに行く判断を早くして味方と連係して潜り込んで行ったりするプレーをもっとしないといけないと感じました」
迎えた新人戦。磐田東との決勝戦で神吉は進化の足跡を早くも見せた。右サイドからのドリブル突破はもちろんのこと、逆サイドにボールがある時はボランチやトップ下の位置まで入ってきて、首を振りながらボールを受ける姿があった。
中央でボールを受けてからのプレーも多彩で、ワンツーから突破を仕掛けたり、パスでゲームを組み立てたり、サイドチェンジをしてからインナーラップを狙ったりと、ピッチの横と縦幅を存分に使いながら要所でドリブルを繰り出していく。
「今年はゴール、アシストを量産してプロ、大学のスカウトの目に止まるような選手になりたいし、作る部分にも関わって、歴代の中で一番静学らしさを出せるチームにしてタイトルを獲りたい。周りに『今年の静学は凄まじい』と思わせたいんです」
ただひたすら突破していくだけではない。チームとしての立ち位置、テンポ、リズムに順応した状態で得意の振り子ドリブルを繰り出していく。プレーの幅をどんどん広げているレフティードリブラーにぜひ注目をしてほしい。
(FOOTBALL ZONE編集部)