ドイツ人指導者がなぜJ2コーチに? J創設前に日本へ…淡路島で飲んだコーヒーがつないだ縁【インタビュー】

徳島でコーチを務めるゲルト・エンゲルス氏【写真:(C) VORTIS】
徳島でコーチを務めるゲルト・エンゲルス氏【写真:(C) VORTIS】

徳島コーチのエンゲルス氏「黒部さんがアドバイザーになったという話を聞いて」

 Jリーグ創設前から日本で指導者として活動し、監督としては横浜フリューゲルスや京都パープルサンガ(当時名称)などを率いたゲルト・エンゲルス氏は、今季J2の徳島ヴォルティスでコーチを務める。流暢な日本語を操り、2000年代前半に浦和レッズの黄金期をコーチとして支えたドイツ人指導者は監督とコーチの違い、そしてコーチに求められるものを、家を建てる職人に例えながら話した。(取材・文=轡田哲朗/全6回の1回目)

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「僕はピッチの上の人だと思います。サッカーをしたい、コーチングをしたい。そういう話があれば、すぐに熱くなりますから。プロの世界に戻りたいと思ったのでね」と、柔和な笑みで話したエンゲルス氏は、今季から徳島のコーチに就任した。チームを率いるのは昨季途中就任からの継続となる増田功作監督で、指導者としての実績はエンゲルス氏の方が豊富だ。少し意外な就任にも見えるが、そこにはこれまで日本での活動で培ってきた縁があったという。

「2024年に徳島からすぐの淡路島にいて、高校生に教えていました(AIE国際高校サッカー部の監督)。ほぼ1年前に今の強化部長の黒部さん(黒部光昭氏)が徳島のアドバイザーになったという話を聞いて、もともと(京都や浦和時代に指導した)選手だったし、近くに来たからコーヒーでも飲みましょうって連絡も取ったんですね。

 僕は指導した選手と、その後もコミュニケーションを取るんですよ。それでいろいろと話をして、淡路島に来てコーヒーを飲んだこともあったから徳島の結果も気にしていて、監督も代わったし見守っていたんです。軽い話は何回かあったし、僕も『いつでもOKだよ』なんていう話もしていましたけど、最終的にはそうなったんですよ」

 黒部氏の現役時代は、まさにエンゲルス氏が監督を務めた京都時代にブレークしたストライカーで、J2で41試合30得点の強烈な数字を残した。天皇杯の優勝にも貢献して日本代表にも選出。移籍先の浦和で、コーチに就任していたエンゲルス氏の指導を再び受けた間柄だった。

監督とコーチの役割の違いとは

 そんなエンゲルス氏は、監督とコーチの役割の違いについては「専門的にはそんなに変わらないと思います。どっちもサッカーのこと、チームのことや戦術のことをよく知らないとうまくいかないと思う。でも当然、監督が最終的に決めるし責任も持ちますから、そこはずいぶん違うところですね」と話す。

 そのなかで、これまでのキャリアでも特にギド・ブッフバルト氏の下で大きな成功を収めたことでも知られるコーチとしての必要な要素や役割について、その秘訣を語った。

「僕が職人だとして、どこかの家で壁に色を付けてほしいと言われて、黄色にしてくれと言われたら黄色にすべきです。でも、アイデアは出すべき。『この方が良い』じゃなくて、『これもあるよ、これもあるよ』と。いろいろなコーチがアイデアを出してディスカッションしてから練習、選手の指導まで持っていくと思う。

 コンセプトを理解して、納得できないとうまくいかない。コーチの立場で、このコンセプトは違う、変えたほうが良いと思うという入り方は良くない。でも、チューニングの部分はいろいろな話ができる。もちろんコンセプト以外にもいろいろある。選手にアドバイスすることや、クオリティアップのこと。シュートやパス、クロス、1対1とか。コンセプトに合う選手も育てるべき。クオリティーに関してはコーチの仕事だなと思います」

 そのうえで「いいチームを作るためには、まず選手や練習のクオリティーが大事ですね。2つ目にチームスピリットがないと、なかなか結果が出ない」と言い切るエンゲルス氏は、その中身についてもこう話した。

「そのスピリットのなかの1つが解決力。今までのキャリアでも、1年や2年やれば、絶対に問題が出る。なくすこともできないし、無視もできないですね。だから、解決することが大事で、その解決力があるスタッフとチームが結果を出す。問題が出るのは当たり前だと思ってほしい。そこで、無視をしないで問題を言葉にしないといけない。そうやってコミュニケーションをとって解決するのが大事。それができると、問題解決もできる。それによって成長して次のステップに進めると思いますね」

「いい影響があったとなるのが個人の目標だね」

 今、徳島でもこうした部分にアプローチしていると話すエンゲルス氏。インタビューは2月5日に行われたが、トレーニングキャンプ終了時点でのチームについて「少しずつ手応えも出てきたし、いろいろなことをキャンプでやりましたよ。最初はフィジカルも多いし、コンセプトの話もすごく大事。みんなで同じ方向性を持たせるのも大事だから、まだ20%か30%だけど予定どおりにきたと思いますね」と話していた。

「まず、チームは今J2だけどJ1の経験がある。皆さんがJ1に行ってほしいし、選手もサポーターもそういう気持ちもあるし、雰囲気を感じる。新体制発表会でもたくさんサポーターが来ていたからね。チームの目的を守って、J1に行きたいね。僕はそのためにサポートするけど、個人的にはチームにポジティブな影響を与えたい。もちろんJ1に行くのはベストだけど、それだけじゃなくても1年後、2年後、この人がコーチにいて良かった、呼んで良かった、いい影響があったとなるのが個人の目標だね」

 2014年と21年にそれぞれ1シーズンをJ1で戦った徳島は、3回目のJ1昇格を目指して今季の戦いに臨む。その先には、いまだに果たせていない複数シーズンのJ1での戦い、定着へと向けた目標も見えてくる。エンゲルス氏は「僕はもう67歳だから長い目で見た話はしない方が良いかもしれないね」と冗談交じりに笑ったが、その経験がどのようなプラスを与えるのかが期待される。

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



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