日本代表MFへ現地ファン「なんか物足りない」 “現実直視”のチームで苦しむ今「かなり難しい」【現地発コラム】
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手堅いポイント獲得で序盤戦の遅れを取り戻しつつあるクリスタル・パレス
現実直視モード――今季のクリスタル・パレスと鎌田大地に共通の現状だ。象徴的な一戦が、2月22日のプレミアリーグ第26節フルハム戦だった。
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パレスは、前節を自軍の13位に対して8位で終えていたフルハムを、敵地で無難に下した(2-0)。前半のセットプレーから相手のオウンゴールを誘って先制し、後半にカウンターで追加点を奪って零封勝利を収めている。アウェーでのリーグ戦では、今季13試合目で10回目のポイント獲得となった。
もっとも、そのチームパフォーマンスには、「アウェー仕様」以上に「パレス仕様」という表現が当てはまる。昨季終盤のオリバー・グラスナー体制誕生を境に、ポゼッション路線を歩み始めたかに思われたチームは、ボール支配にはこだわらず、手堅くポイントを奪う戦い方で今季序盤戦での出遅れを取り戻すことになった。
結果としてのリーグ順位は、シーズン折り返し地点の第19節終了時から2つしか上がっていないが、降格圏からの距離は、当時の5ポイント差から16ポイント差へと広がっている。
言わば「パレスらしい」勝利の最新事例となったフルハム戦後、そのチームで移籍1年目を送る鎌田は言った。
「自分のスタイル的にはかなり難しいと思うので、今年(今季)は与えられた役割をしっかりとこなさないと」
実際のところ、より能動的なスタイルへの変化を想像させたチームで主力化が期待された新戦力は、受け身を「良し」とするチームで交代要員の域を出ていない。
現時点で最大の戦力、換言すれば、結果を問われる指揮官が最も活かすべき「個」は、開幕翌月のカップ戦後に鎌田自身も名前を挙げていた、エベレチ・エゼとジャン=フィリップ・マテタにほかならない。基本の3-4-2-1システムで、2シャドーの1枚を務める前者は、マイケル・オリーセが去った(バイエルン・ミュンヘン移籍)今季、より依存度が高まっている。
エゼは、足の怪我で3試合ぶりにスタメンに復帰したフルハム戦でも、マン・オブ・ザ・マッチ級の存在感。VARによる際どいオフサイド判定で無効とされたが、後半10分に後者がネットを揺らしたシーンを、ヒールでの巧妙なラストパスで演出してもいた。
そのマテタは、後半戦突入後の7試合でリーグ戦7得点の1トップ。第26節でのゴールは幻に終わったが、右ウイングバックのダニエル・ムニョスによるチーム2点目は、ドリブルで2人をかわして攻め上がったCFのアシストなくしてはあり得なかった。
10番でも6番でも難しいチーム内の現状
鎌田は、すでに2点差をつけていた後半30分に、エゼと並ぶ2シャドーの右に投入された。長いストライドで加速する、イスマイラ・サールとの交代。セネガル代表MFとはタイプが異なる日本代表MFは、約38分間での計15タッチのなかで、同34分にはアウトサイドを上がるムニョスにつなごうとし、アディショナルタイム6分には、ボレー気味のダイレクトパスも試みたが、いずれも不成功に終わった。当人が言っている。
「ああいう時間帯に10番で入りましたけど、どちらかというと守備の部分を求められている。奪ってからのカウンターは、プレミアだと足が速くないとなかなか行けないと思うし、ラスト20分ぐらいああやってはいても、チームとしてそんなにボールをつなげるわけではないので、基本的には守備をしっかりこなそうっていう感じですかね」
鎌田には、今季序盤戦の時点で「ここでは10番よりも6番のほうがやりやすい」とする発言があった。その感覚は「基本的に変わっていない」と、フルハム戦後に言ってもいる。
ただし中盤中央のポジションも、純粋な守備的MFとしては、この試合でも先発したジェフェルソン・レルマが、CBもこなす能力で上回る。2ボランチの相棒は、やはりスタメンに名を連ねたウィル・ヒューズがレギュラー格。移籍4年目の29歳は、よく試合中にファンがその名を叫んで讃える人気者でもある。
一方の鎌田に関しては、ホームでの前節エバートン戦(1-2)で、ファンの苛立ちが感じ取れた。ヒューズに代わって2ボランチの一角に入ったのは後半41分。1点を追う展開でインパクトを示すには、非常に難しい状況での投入だった。
しかし、サポーターたちには、セルハースト・パークでの今季リーグ戦で2勝のみと“外弁慶”のチームに、業を煮やした部分もあったのだろう。後半アディショナルタイム1分のダイアゴナルパスはタッチラインを割り、終了間際の同7分に横パスを出した鎌田には、メインスタンドの観衆が、「アーッ!」と不満の声を上げていた。
その印象が強烈だったことから、翌週のフルハム戦で「鎌田とヒューズの差」を、アウェーサポーターに尋ねてみた。質問に答えてくれたのは、高校生と思しき3人組。1人は、「どうこう言えるほどカマダの印象がない」とのことだったが、もう1人が「なんか物足りないんだよなぁ」と言うと、残る1人が「“ヒュ?ズ”はさぁ」と、スタンドから讃える時と同じようにイングランド人MFの名前を呼んで、「上手いだけじゃなくて、俺たちのために戦う気迫を感じさせてくれるんだよね」とフォローした。
言われてみれば、ヒューズは、ユース上がりの17歳としてダービー(2部)で注目を浴びた当初から、キラーパスと同じぐらいタックルが好きなMFだった。
「本当にできることをやっていかないとなっていう感じです」
手数をかけずに素早くボールを捌く上手さでは、鎌田に分があるように思える。だが肝心のチーム自体が、グラスナーのチームらしくもある「つなぎ」へと方向性を変え切れずにいる。
自ら、「残り数分で出て(独力で)何かできるタイプでもないし、こういう試合は難しい」と話していたエバートン戦後、持ち味を活かすために監督と個人的に話すことはないのかと訊くと、次のような返答だった。
「そんなに話したりはしてないです。監督自身も多分、やりたいサッカーは多少なりとも(現状とは)違うし、現実的にやらないといけない部分もたくさんあって、それ自体は自分も理解できるので」
同時に、こう言ってもいた。
「去年(昨季)の最後、いいサッカーをしていましたけど、今は現実的なサッカーの仕方もしている。常にボールを握れるチームではないので、守備の部分は感覚的に少し変えたところもあるし、良くなっているなっていう部分も感じている。少なからず学べていると思うし、良い経験だと思ってしっかりやっていくことが大事かなと思います」
ダイナミックなヒューズとは異なるが、守備においても、持ち前の賢明差で敵のパスをカットしたり、攻撃を失速させたりする場面が増えていけば、鎌田の胸で静かに燃える闘争心も多くのファンが認識してくれるに違いない。
続くフルハム戦後には、改めて「勝ち点も取れているし、そこ(今の戦い方)を変える必要はないと思う」とも言っている。
このように、パレス1年目の自分を落ち着いて見つめることができていればこそ、2017年以来となる欧州のリーグで、最もベンチスタートが多いシーズンを経験することになっていても、代表での自分への影響を不安に思うことはないようだ。
「コンディション自体はそんなに悪くはないと思うんです。よくプレミアリーグはハードだと言われますけど、やっぱり試合数は、ここ数シーズンのように、ヨーロッパ(リーグ)やチャンピオンズ(リーグ)に出ているチームでのほうが全然多い。パレスは(対戦相手も多い)ロンドンのチームなので、(長い)移動もあまりなかったり、凄くゆったりしていると感じるぐらい。代表は代表で、サッカーもガラッと変わったりだとかっていうところで、今シーズンは良いプレーができていると思うし、このチームでは、本当にできることをやっていかないとなっていう感じです」
まずは守備面で、チームの最低目標から第1目標となった残留実現への貢献度を高めること。さすれば、グラスナー率いるパレスと鎌田自身に、より攻撃的な本来の姿への道は開かれん。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。