J3沼から脱出は“困難”? 思惑通りに行かず初陣で課題直面…再建目指す松本山雅の現在地【コラム】

山雅は昨シーズンのJ2昇格プレーオフで悔し涙
2月15日に2025年のJ3が開幕し、今季はJ2から降格してきた鹿児島ユナイテッドFC、栃木SC、ザスパ群馬などを軸に昇格争いが展開されると見られている。昨年12月7日のJ2昇格プレーオフ決勝でカターレ富山にあと一歩のところで追い付かれ、2021年以来のJ2復帰を逃した松本山雅も有力候補の1つだ。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
2023年、24年とチームを率いていた霜田正浩前監督が昨季限りで退任し、今季から早川知伸コーチが指揮官に昇格。昨季群馬の監督を務めた武藤覚コーチ、法政大学で上田綺世らを育てた長山一也コーチらスタッフも増強し、チーム再建に打って出ているのだ。
今季山雅のストロングは、昨季主力の大半が継続して主軸を担っていること。GK大内一生、DF高橋祥平、野々村鷹人、ボランチの山本康裕、安永玲央、アタッカーの村越凱光、安藤翼などはもちろんのこと、移籍濃厚と見られたキャプテン菊井悠介も残留。早川監督としてはベースがある状態からチームを積み上げられるのだ。
ただ、J3の4年目ということで、Jリーグからの分配金が減り、大がかりな人件費は投じられなくなった。新戦力の目玉はジュビロ磐田で長く実績を積み上げてきた小川大貴1人で、名古屋グランパスからパトリックを獲得したツエーゲン金沢のような大がかりな補強は叶わなかった。ある意味、“現状維持”でJ2を狙うという難題に、彼らは取り組まなければならないのだ。
そのチームの真価がまず試されたのが、2月23日の今季初戦・アスルクラロ沼津戦だった。この日も松本から3000人を超える大サポーターが駆け付け、ホームのような雰囲気を作るなか、彼らは序盤から主導権を握った。11月24日の2024年J3最終節の時は沼津に支配され、防戦一方のなか後半ロスタイムに安永のミラクル弾が飛び出し、山雅が勝利するという形だったが、今回は全く逆の様相となった。
前半の山雅は守備のオーガナイズは昨季よりは前進している印象を残した。2024年シーズンは同じ4バックでスタートし、クロス対応に課題を抱え、数多くの失点を喫してきたが、今季はその部分で安定感が出てきた様子。そのうえで、攻撃もポゼッションだけにこだわらず、長いボールも使いながら推進力ある攻めを披露。そのあたりも霜田体制からの変化と言っていい。
後半苦戦した沼津戦「予測が足りなかった」
だが、ボール保持の時間が長くても、なかなかゴールをこじ開けられない。村越や菊井、安藤が前線で惜しいチャンスを迎えながら決め切れず、リスタートもモノにできない。山雅は前半だけで6本のコーナーキック(CK)、8本の直接FKのチャンスを得たが、それも得点にはつながらなかった。
「前半はあれだけ押し込んだなか、セットプレーも取れていたが、ゴールに結びつけられなかった」と指揮官も反省しきりだったが、こういった詰めの甘さが後半の苦境を招くのだ。
案の定、後半はそういう形になった。村越のゴールで先制し、1-0で勝ち切れそうだった終盤、相手の選手交代直後の中盤での混戦から沼津の右サイドバック(SB)一丸大地の縦パスが途中出場の元日本代表FW川又堅碁に通ってしまい、1-1に追い付かれてしまったのだ。
「あの場面はアンラッキーだったという見方もありますけど、もっと自分たちが準備していたらやられなかった。予測が足りなかったと思います」とベテランDF高橋も反省しきりだったが、川又の方は「相手の足が止まっていた」とズバリ指摘した。シーズン初戦の緊張感やフィジカル面の問題があって、そうなってしまったのだろうが、ここから夏場を経て、1年間戦い続けようと思うなら、終盤の体力低下やミスは許されない。その厳しさを彼らは昨年のプレーオフ・カターレ富山戦に続いて痛感させられることになったのだ。
初戦は結局、1-1のドロー。同じく第2節が初陣だった金沢、ギラヴァンツ北九州、ヴァンラーレ八戸が白星発進していることを考えると、勝ち点1というのは十分ではない。
早川監督の求める「失点ゼロ」…タフな集団へ変化が必要
反町康治監督(現清水エスパルスGM)が山雅を初めてJ1に昇格させた2014年に「開幕ダッシュが肝心」と語り、実際に凄まじい勢いで勝ち星を積み重ねたことがあったが、近年の山雅は序盤の足踏み状態が続いていた。今季こそ、11年前のような勢いでスタートしたかったが、その思惑通りには行かなかった。
だからこそ、ここからどうギアを上げていくかが重要になるが、やはり問題は得点力だろう。アタッカー陣が昨季と同じ顔触れということだから、彼らにうまく点を取らせる形を作っていくことが肝要だ。
特に昨季8点の村越、6点の安藤と菊井の二桁越えはマストだろう。昨季13ゴールの浅川隼人が残っているのは朗報だが、彼は今のところジョーカーと位置づけられており、プレータイムが短い。そういう中で昨季同等の数字を残せるかどうか微妙なだけに、やはり先発組の3人のゴール増は必要不可欠と言える。
そのうえで、失点大幅減を実現しなければならない。昨季の山雅の通算失点は45で、J2に昇格したRB大宮アルディージャの32、FC今治の38、富山の36より大幅に多かったのだ。霜田前監督は「1点取られても2点取って勝てばいい」という考え方だったため、自然と数字が多くなってしまったところがあった。が、早川監督は「失点ゼロ」と口癖のように言い続けているようだ。
「守備のやり方を変えて、オーガナイズも変わりましたけど、やっぱり失点ゼロというところにはこだわってやっていきたい。やっぱり失点しない方が勝ち。勝利の確立も上がる。そこは自分たちが突き詰めないといけない部分だし、徹底的にやっていくべきだと思います」と守備リーダーの高橋も語気を強めたが、そういった意思統一がチーム全体に図られているのはいいことだ。
沼津戦のような緊迫したゲームを1-0で勝ち切れるようになれば、自ずと勝ち点3が積み上がっていくはず。そういうタフな集団に変貌できない限り、J3沼から脱出するのは難しい。早川体制初陣の山雅は前向きな方向に進めそうな予感があったが、本当にJ2昇格という結果につなげられるかどうかはここからの戦い方次第。1つ1つのプレー、1つ1つの勝ち点により厳しさを持って取り組んでいってほしいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。