欧州内移籍で状況激変…日本と類似スタイル→「ほとんど守備」 日本人ドリブラーの苦難【インタビュー】

金子はクロアチア、ベルギーでのプレーを経験
浦和レッズに今季の新戦力としてベルギー1部コルトレイクから加入したMF金子拓郎は、23年夏に北海道コンサドーレ札幌からクロアチア1部の名門ディナモ・ザグレブへ移籍してリーグとリーグカップの二冠を達成したチームで輝いた。それからベルギー移籍をすることになったが、リーグの中での立場の違いはプレーに大きな影響があったという。(取材・文=轡田哲朗/全6回の5回目)
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金子は日本大学4年時の2019年に札幌へ特別指定登録され、公式戦デビューを飾った。翌年に正式加入するとコンスタントな出場機会を掴み、得点力も身に付けていく。そして、23年夏にザグレブへと移籍した。その海外移籍は、日本の中でも難解と評判のミハイロ・ペトロヴィッチ監督によるサッカーから比較的、サッカー界では一般的な戦術への順応という面もあった。
金子もまた「ミシャさんのサッカーは誰が見ても特殊じゃないですか」と笑い、「海外でオーソドックスな4-4-2も3バックも経験しましたけど、そこに適応する力は選手として絶対に必要な力になると思います。それはどのシステムでもできたと思いますけど、札幌でずっとミシャさんの下でやっていたら分からなかった、感じなかった部分だと思うので、そこは良かったと思います」と話すように、少し視野を広げるものにもなったことを明かした。
一方で、ザグレブでのプレーについて「チャンピオンチームなので、ボールを常に支配できるので個人的にはやりやすかったですね。クロアチア代表選手もいるし、上手い選手が多くて、ちょっと日本のスタイルに似ているかなと思いました。ポゼッションして押し込んで、攻撃回数もボールが入る回数も多くてやりやすかった印象です」と話したように、そうした意味であまり戸惑うことはなかったのだという。
ただ、札幌時代のように優位性のあるドリブル突破のスタートは少なくなった。むしろ、少し相手が有利な状況でもボールを預けられて、それを突破することを求められることも増えた。それだけに「まずは、そういう状況の中でもシンプルに負けない。その状況でも仕掛けられるようになるところ。それと、うまく周りを使いながら侵入するところ、ボールを受ける前の動き出しの質はさらに考えながらできるようになったと思います」と、その武器に磨きをかけるような環境にもなった。
ベルギー移籍で立場激変「ほとんど守備という感じのチーム」
ザグレブ時代のチームメートの中では、193センチと長身のクロアチア代表FWブルーノ・ペトコビッチを最も印象に残った選手に挙げた。
「W杯(ワールドカップ)でブラジルからも点を取った選手なんですけど、デカくて強くてうまくて点を取れる。凄いなって思いましたよ。オーラというか、雰囲気がすごいんですよね。人間性も素晴らしくて、周りに文句も言わずチームを引っ張っていく。それが凄かったですね。ミスしても次、次という感じで、『最後に俺が決めればいいんだろ』という感覚なんだと思います。日本人とは文化も違うし環境も違うので、なかなか難しいメンタリティーだと思いますけど、それが良い悪いではなく違うところで、凄いなと思いましたね」
しかし、国内二冠を達成したチームの主力でありながら、金子は1シーズンでザグレブを去りベルギー1部コルトレイクへ完全移籍することになる。「そこはクラブ間の交渉というか、自分の力だけじゃどうしようもない部分もありましたね」というサッカー界の難しい部分も目の当たりにすることになったが、それ以上に影響したのはザグレブとコルトレイクがリーグの中で違う立場のチームだったことだった。
「コルトレイクはリーグの中では下位で、ほとんど守備という感じのチーム。耐えながら、ボールが入った時に行くという。難しい中でやりがいはすごくあったんですけど、あまり勝たせることができなかった悔しさはあります」
札幌やザグレブでは、ボールを受けてからドリブルなりコンビネーションなりで10メートルも前進すればゴール前のチャンスだった。しかし、コルトレイクではそのゴールが50メートル先になってしまう。金子も「いや、本当にそんな感じです」と苦笑いする。
「自陣で取ってちょっとかわすとか、ほとんど守備に走らされる中でたまにポッとボールが入った時にドリブルしないといけない、運ばないといけない難しさがあって。日本からクロアチアに行った時より、クロアチアからベルギーに行った時の方が、チームの違いが大きいと思いますけど、スタイルの違いに難しさはありました。でも、それも面白さではあるんですが」
結果的に欧州でのキャリアは1年半で区切りをつけ、浦和への移籍を決めた。「日本人のほうが連系や真面目さ、勤勉さ、組織でやるみたいなのはすごく感じましたね」という印象も話した金子だが、その1年半の間にはヨーロッパでプレーしてこそ感じるホームとアウェーの違い、「日本では経験できない雰囲気」を味わったのだという。(第6回へ続く)
[プロフィール]
金子拓郎(かねこ・たくろう)/1997年7月30日生まれ、埼玉県出身。前橋育英―日本大学―札幌―ディナモ・ザグレブ(クロアチア/期限付き)―コルトレイク(ベルギー)―浦和。23年には札幌で半年間の在籍ながらJ1ドリブル総数で1位(156回)を記録。ザグレブ時代にUEFAカンファレンスリーグで8試合2得点。25年に地元クラブである浦和に完全移籍し、Jリーグに復帰した。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)