Jクラブも混乱…“魅力不足”のACL「勝利を無効に」 CL類似も浮かび上がったデメリット【コラム】

山東泰山の大会撤退による影響を受けた神戸【写真:Getty Images】
山東泰山の大会撤退による影響を受けた神戸【写真:Getty Images】

山東泰山(中国)がACLEを途中撤退

 AFCアジアチャンピオンズリーグエリート(ACLE)のリーグステージ最終節直前に、山東泰山(中国)が同大会からの撤退を表明した。その結果、リーグの順位が変わり、それまで3位だったヴィッセル神戸が5位になるという裁定が下された。

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 12チームのうち8チームがホーム&アウェーのラウンド16に進むことができるものの、4位までは第2戦がホームと初戦の結果を挽回しやすくなるため、神戸は山東戦でのせっかくの勝利を無効にされたことで不利な立場になった。

 一義的には山東の突然の撤退は、「深刻な体調不良」という理由があったにしても非常に不可思議で、なぜそんな切羽詰まるまで事態を告知できなかったのかという疑問が残る。

 それと同時に、こんな前代未聞の事態が起きたせいで、余計にこの「アジアチャンピオンズリーグ(ACL)」そのものが、どんな大会なのか分かりづらくなった。そもそもこの大会の今のレギュレーションはファンの関心も生みにくい。

 リーグステージは、東西12チームで構成され、各チームは毎節異なるチームとホームまたはアウェーで対戦する。ただし自国チーム同士の対戦はない。たとえば神戸のリーグステージは次のような対戦相手だった。

第1戦:ブリーラム(タイ/アウェー)
第2戦:山東泰山(中国/ホーム)
第3戦:蔚山(韓国/アウェー)
第4戦:光州FC(韓国/ホーム)
第5戦:セントラルコースト・マリナーズ(豪州/ホーム)
第6戦:浦項(韓国/アウェー)
第7戦:上海海港(中国/ホーム)
第8戦:上海申花(中国/アウェー)

 一戦ごとにホームとアウェーを繰り返し、同じチームと対戦することはないため、アウェーの敗戦をホームで挽回、ということはない。自チームの順位を考えるにはほかの多くの試合結果を待たなければならず、3チームあるいは4チームで構成されていたグループリーグに比べると、とても計算しづらい。

 そのため、試合結果が出た直後に次の試合についてどんな条件が必要なのか考えることが難しいのだ。前日に行われたほかの試合の結果で自分のチームの順位が決まったり、しかもその試合数が複数にわたったりするため、何をどう考えなければいけないか混乱する。

 つまり、変数がこれまでに比べると3倍以上に増えた方程式を解かなければならないため、解が出やすいのか出にくいのかも判断しにくくなっているのだ。これだけでも関心度が減るのではないだろうか。

リーグステージの方式はCL参照も課題「アジアでこれは分かりづらい」

 このリーグステージの方式はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)に倣っている。試合数や人気チーム同士の対戦が増えるというメリットはあるのだろう。また試合数が増えることで実力を持ったチームが次のステージに行きやすくなる点もいい部分だ。ヨーロッパならこの大会方式も分からなくもないが、アジアでこれは分かりづらい。

 相手チームへの関心度はヨーロッパなら高い。レアル・マドリードと戦うなどということになればファンの期待も高まるのは間違いない。そしていろいろな国のリーグの映像が手に入る。相手チームのことはよく知っているうえで対戦を見ることができる。

 だが、日本でアジアの国々のチームのことを知っている人はかなりの少数派だろう。実際に対戦するまで相手チームのことを知ることは少ない。そしてとても面白い相手だと思ったにしても、リーグステージで当たることはない。

 せめてグループリーグで2試合対戦できれば、記憶への残り方も違うはず。今は単に試合数をこなすための相手としてしか見られないのではないだろうか。

 そういう見る側の問題点と同時に、このACLそのものが多くのクラブにとって魅力不足なのでないかと感じざるを得ない。もしも大会がヨーロッパのチャンピオンズリーグなら、体調不良のチームでも出場したいと思うのではないだろうか。

 そもそも、ここまでの戦いでもいくつかのクラブはACLの試合にリーグ戦とは大幅に違うメンバーを起用してきた。露骨にメンバーを変えて、ACL後の試合に備えてきたのだ。ACLに出場することは「栄冠の証」ではあるものの、重要視はされていなかった。

 またACLに出場することが選手キャリアにとって大切なことにはなっていない。ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)チャンピオンズリーグなら、選手のキャリアに何試合出場して何得点したかなどという数字がついて回る。ACLで残した成績を今、誰が気にしているだろう。

AFCは賞金を大幅増額…優勝で1000万ドル(約15億円)

 アジアサッカー連盟(AFC)もACLの発展にためいくつもの策を考えてきた。特に大きなこととしては賞金が大幅増額されたことだ。

 ACLの優勝賞金は2015年が150万ドル(約1億8000万円)、2016年から17年は300万ドル(約3億3000万円)、2018年以降は400万ドル(約4億4000万円)だった。試合数は、たとえば浦和レッズが優勝した2019年で考えるとグループリーグが6試合、ラウンド16から決勝までがすべてホームア&アウェーで8試合の合計14試合。優勝したにしても1試合あたり約3000万円。遠征などの諸経費、選手への勝利ボーナスなどを考えるとクラブの実入りは少ない。

 2024-25年シーズンからは優勝すると1000万ドル(約15億円)、リーグステージに参加しただけでも80万ドル(約1億2000万円)が配られるなど賞金は増えた。だが、それでもそれぞれのチームがしゃかりきに賞金を狙っていないような現状は、まだまだ足りないということを物語っている。もしもACLに出場することが選手のキャリアに栄冠を加え、出場以降の年俸が上がるような権威があればまた違うのだろうが、そんな状態ではない。

 もしも今、アジアのトップクラブを集めて全体のレベルを上げようと思っているとしたら、これでは到底無理というものだ。

 これなら、もっと多くの国のクラブを入れてすべてトーナメントで試合をしたらどうだろうか。そのほうが1試合の重みが増す。アジアのいろいろな国のリーグも活性化できるだろう。そして何より分かりやすい。

 過去、いろいろな大会方式で運営されてきたルヴァンカップは去年からトーナメント形式になった。そしてとても分かりやすく、面白味が増した。小さなスタジアムでの開催が増えて平均観客数は減るかもしれないが、関心が高くなれば次第に動員は増えるだろう。

 とにかく、現行のリーグステージはデメリットが大きい。AFCには再検討を願いたい。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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