「球よりも速く」日本人FWがアニメ級の衝撃 熾烈争いの日本代表で“切り札”起用も【コラム】

CLバイエルン戦、セルティック前田大然が爆速プレーでアシスト
その昔、人気テレビアニメ「エイトマン」のテーマソングの歌詞の中に、「走れエイトマン、弾よりも速く」というのがあった。弾丸より速く走れるのはエイトマンくらいだろう。人には到底無理である。サッカーボールより速い選手もいない。かつてヨハン・クライフも「ボールより速い選手はいない」と言った。有名な言葉だ。しかし、すべてに当てはまるわけではなさそうだ。
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前田大然は球より速かった。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)プレーオフ第2戦、バイエルン・ミュンヘン対セルティック。セルティックの先制点は前田のパスカットがアシストになっている。
後半17分、セルティックのアダム・イダーのパスはバイエルン右サイドバックのヨシプ・スタニシッチのところへ。スタニシッチはラファエル・ゲレイロへパス。最初にスタニシッチへプレスしていた前田は、方向を変えてそのままボールを追う。そしてなんと、ボールがゲレイロへ届く寸前にスライディングでカットしてしまった。前田がカットしたボールは右側にいたニコラス・ゲリット・キューンへ。キューンはキム・ミンジェのタックルをかわしてシュートを決めた。
スタニシッチからゲレイロへのパスは30メートルくらいだろうか。少しパスが弱かったかもしれないが、あとからボールを追いかけて追いついてしまったのだから信じられないスピードである。
後半アディショナルタイム4分にバイエルンはアルフォンソ・デイビスのゴールで同点、2試合合計3-2でプレーオフを勝ち抜けたが、セルティックは前半に3回の決定機があり、この試合に勝つチャンスは十分あった。
前田はセンターフォワード(CF)で先発。旗手怜央がトップ下に入り、守備時の2トップは日本人のコンビだった。後半15分にイダーが交代出場して、前田は左ウイングにポジションを変える。先制点はその直後だった。
ホームのバイエルンがボールを支配すると予想されるゲームで、前田のトップ起用は理に適っていたと思う。カウンターでの前田の速さはバイエルンにとって脅威だった。バイエルンはダヨ・ウパメカノがキム・ミンジェと左右を入れ替えて前田をマーク。警戒はしていたが、前田の守備にやられるとは思っていなかったかもしれない。
日本代表がバイエルン戦のセルティックのような立場になった場合…
日本代表のCFのポジション争いはより熾烈になってきた。
現状で一番手と目される上田綺世(フェイエノールト)はポストプレーに強く、マークを外す巧みさがあり、シュートにパワーがある。小川航基(NECナイメヘン)は上田のパワーはないが得点感覚に優れ勝負強い。古橋亨梧(スタッド・レンヌ)はクロスボールへの反応の速さが特別だ。そして球より速い前田がいる。
今のところ、この4人がCFの候補だと思うが、上田、小川、古橋がCFに特化したタイプなのに対して前田はウイングやウイングバックの適性もある。4人それぞれ特徴が違っていて絶対的な存在もいないので、試合の性格に応じて使い分けることになるかもしれない。
前田は前線の守備が強烈で、カウンターアタックの切り札になれる。日本代表がバイエルン戦のセルティックのような立場になった場合、前田のCF起用は可能性がありそうだ。
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西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。