“70秒間停止”の異例PK「中継止まったのかと」 日本のサッカー文化が生む柔軟な発想と実行力【見解】

大きな話題を読んだ札幌大谷のPK【写真:産経新聞社】
大きな話題を読んだ札幌大谷のPK【写真:産経新聞社】

【専門家の目|太田宏介】高校サッカーではPKキックで多種多様な工夫

 日本の高校サッカーで主審の笛が鳴ってから目を閉じて約70秒間停止する“長すぎるPK”が大きな注目を集めた。第103回全国高校サッカー選手権ではさまざまなドラマが生まれたなか、大会に出場経験のある元日本代表DF太田宏介氏がPKの奥深さや高校生ならではの“サッカー文化”について言及している。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

   ◇   ◇   ◇

 第103回となる選手権は、前橋育英(群馬)が2度目の日本一に輝き幕を閉じた。例年PK戦にまでもつれる試合も多々あり、今大会でも多くの話題が。なかでも札幌大谷(北海道)のDF大石蓮斗が1回戦の藤井学園寒川(香川)戦で行った“長すぎるPKキック”は、世界的に見ても極めて稀な例の1つだ。

「最初は中継止まったのかなと思いましたよ」と太田氏も改めてその場面を振り返りつつ、「あれのメリットはあまりないと僕個人は思ってしまいますね」と持論を展開。「キッカーとGKの関係を見た際に、GK有利の空気感を作ってしまいます。あれだけ長いのはちょっと……制限したほうがいい気もします」と、時間をかけた効果があまり得られないのではと考察した。

 また「わざわざルール作る必要はないですが……常識の範囲内が運用上も理想じゃないでしょうか」と太田氏は主張するが、こうしたPK戦はプロの世界ではカップ戦などトーナメントの際に限られる。「プロの世界ではなかなか厳しいんじゃないかな。反則とも言えない難しい事案。でも、あれをやれるメンタルが備わっている点はすごいです。まさに高校生らしいワンシーンでしたね」と、柔軟な発想と実行する精神力を称えていた。

 この試合のPK戦は、選手が一巡しても決着がつかない死闘。後攻だった計28人目のキッカー寒川DF廣畑寛汰のキックがポストを叩き、終了の笛が鳴った。決勝戦となった前橋育英と流通経済大学柏(千葉)の対戦でも、お互いサドンデス方式になるまでもつれるPK戦を繰り広げている。太田氏も「レベルの高いPK戦」を目の当たりにし、大会を通して感激していた。

「シンプルにキッカーとGKのPKという対決の中で、いろんなアイデアがあり、工夫がありました。(高川学園/山口の)コーナーキック(CK)で披露されたトルメンタもそうですよね。何が正解で何が不正解ってのはないと思うのですが、高校生のアイデアというのは、サッカーの奥深さを教えてくれている気がします」

記憶に残るPK職人はディエゴ・オリヴェイラ

 麻布大学附属渕野辺高校(現麻布大学附属高校)の出身で、選手権も経験した太田氏。卒業後プロとなり、幾度となく現役時代にはPK戦も経験した。自身で工夫していた点を聞くと「GKと絶対に目を合わせないようにしていました。蹴る位置も決めていなかったですね」と振り返る。基本的に目線をボールに集中し、間接視野でゴールやGKの立ち位置を見ていたという。

 覚えている限りで「外したことはなかったと思います」と語る太田氏。自信を持ってPKを蹴っていた。今回の選手権では“ど真ん中”に蹴る選手も多数見受けられ「駆け引きの幅が広がってきて、PKが単なる運ではなくなってきているなっていうのは感じます」と日本サッカーの進化も実感している。

 一方、現役生活の中でPK戦のうまさで太田氏が感嘆を漏らしたのがFC東京で昨季までプレーしていたディエゴ・オリヴェイラ氏だ。2024年限りで現役を退いたブラジル人FWは、PK時に独特なステップを見せることで有名。太田氏は「ぴょんと跳ねてから打つんですけど。『GKのタイミングを外すんだ』と本人も意図を話してくれたことがありました。けれど僕たちがやろうとしても、1回跳ぶことでボールをミートするのは結構難しいんです」と当時の会話を、簡単には真似できない芸当だったことを明かしていた。

 PKに限らずCK、フリーキック、スローインなどのセットプレーは日々進化している。太田氏は「高校サッカーは日本ならではの文化です。新たな戦術が生まれてくる可能性も秘めています。これからも楽しみですね」と、笑顔を見せていた。

page1 page2

太田宏介

太田宏介(おおた・こうすけ)/1987年7月23日生まれ。東京都出身。FC町田―麻布大学附属渕野辺高―横浜FC―清水エスパルス―FC東京―フィテッセ(オランダ)―FC東京―名古屋―パース・グローリー(オーストラリア)―町田。Jリーグ通算348試合11得点、日本代表通算7試合0得点。左足から繰り出す高精度のキックで、攻撃的サイドバックとして活躍した。明るいキャラクターと豊富な経験を生かし、引退後は出身地のJクラブ町田のアンバサダーに就任。全国各地で無償のサッカー教室を開校するなど、現在は事業を通しサッカー界への“恩返し”を行っている。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング