J1開幕節で明暗…1試合消化後の「上位争い予想&現況チェック」 鬼木新体制の鹿島が“評価ダウン”【コラム】
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J1開幕節を受け上位有力クラブの現状チェック
2025シーズンのJ1リーグがついに開幕した。33年目を迎えた戦いに「王者」として名を刻むのはどのチームなのか。まだ1試合を終えた段階ながら、監督交代を含めたオフの補強状況に開幕節の試合結果をプラスしながら、優勝戦線に加わってきそうなチームの現状を改めてチェックした。(取材・文=藤江直人)
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昨シーズンは一度だけだった逆転負けを、ホームにサンフレッチェ広島を迎えた2月16日の開幕戦でいきなり喫した直後。FC町田ゼルビアのキャプテン、元日本代表のDF昌子源がこんな言葉を残している。
「この世界では開幕戦は特別ですし、例えば『開幕戦なのでこの勝ちは大きい』と喜ぶチームもあれば、逆に僕たちのように『まだ38分の1が終わっただけので』と気持ちを切り替えようとするチームもある」
この言葉と開幕節の結果を基に、優勝候補に挙げられたチームの状態を改めてチェックする。勝利した8チームのなかで、今後へ大きな弾みをつけた筆頭は広島となるだろう。
昨シーズン2位の広島は、実は相手に先制された試合では6分6敗と未勝利だった。一転して前半に先制された町田戦では、後半に投入された新戦力のMF菅大輝、明治大卒のFW中村草太がゲームチェンジャー役を担い、さらに町田の最終ラインに負傷退場者が相次いだ状況とも相まって2-1の逆転勝利を収めた。
今シーズンの陣容に自信を深めたからか。ミヒャエル・スキッベ監督は試合後にこう語っている。
「昨シーズンと異なり、選手交代によって選手個人の特長を生かした、違う形のサッカーをできるようになった。スタートで出る11人だけでサッカーをするのではなく、新しい風を吹かせられる点が強みだと思っている」
オフにFWゴンサロ・パシエンシアやFWピエロス・ソティリウ、MF松本泰志らが移籍したが、代わりにFWジャーメイン良、MF田中聡、先述の菅や中村らが加入。18歳の逸材、MF中島洋太朗も逞しさを増した。先制しても先制されても強さを発揮できるとなれば、期待は大きく膨らんでくる。
懸念材料を挙げれば、連戦になってもスキッベ監督が先発陣のターンオーバーをほとんど行わない点だろうか。ただ、昨シーズンの夏場から秋口にかけてほぼ同じメンバーを先発させながら、破竹の7連勝を含めて10勝1分と圧倒的な強さを誇った経験があるだけに、DF荒木隼人は心配無用を強調している。
「僕たちは連戦のほうがより力を出せるというか、いい結果を出せているのかなと思うんですよね」
昨季躍進の町田は、負傷者相次ぎ逆転負けのスタートに
新監督の下でキャンプから取り組んできた新たな戦い方が、開幕節での勝利を介して評価を高め、今後への手応えをも深めたと見られるチームとしてセレッソ大阪、川崎フロンターレ、柏レイソルが挙げられる。
例えばオーストラリア出身のアーサー・パパス監督が就任したC大阪。自陣から長短のパスをつなぎ、人数をかけてビルドアップしていく攻撃は、ガンバ大阪と対峙した14日の開幕節の、それも開始わずか7分にFW北野颯太が決めた先制ゴールとなって結実した。今シーズンのJ1リーグ第1号ゴーラーとなった北野が言う。
「自分のゴールよりも、取り組んできた形でしっかりと前へ運べたのが嬉しい。これから対策もされるし、難しい状況もたくさんあるはずだけど、チーム全員で乗り越えていけば優勝も見えてくると思う」
アビスパ福岡時代から実直な性格で知られ、高い求心力でチームをまとめた長谷部茂利監督が就任した川崎と、ボールポゼッションを標榜するリカルド・ロドリゲス監督の柏は、22日の第2節(三協フロンテア柏スタジアム)で対戦する。どちらがさらに勢いをつけ、上位戦線を牽引できるか、という点で注目の一戦となる。
開幕戦で一敗地にまみれたチームはどうなのか。先述したように、町田は前半にDF岡村大八、後半にはDF菊池流帆と3バックを形成していた3人のうち2人が負傷退場。黒田剛監督をして「それまでは制空権を握って戦えていた状況が、怪我での交代によってプランが狂ったという認識です」と言わしめた。
町田の生命線は前線から連動して、激しいプレスをかけていく点にある。相手がプレス回避のロングボールを蹴れば最終ラインで跳ね返し、セカンドボールを拾っていく。跳ね返す力をさらに高めるために、エアバトラーの菊池をヴィッセル神戸から、デュエル勝利数リーグ2位の岡村を北海道コンサドーレ札幌から獲得した。
菊池が真ん中に、岡村が右に入る形は初陣でいきなり崩れたが、原靖フットボールダイレクターが「誰かを貸してほしい、といった問い合わせがある」と明かすほど、町田のセンターバック(CB)陣の層は厚い。昌子が左から真ん中に回り、左に中山雄太、右にはドレシェヴィッチが入るプランBも当然ながら用意されている。
苦手の広島に昨シーズンから3連敗を喫した事実は、もちろん重く受け止める。それでも昌子はこんな言葉を介して、敵地・味の素スタジアムに乗り込む22日のFC東京戦が極めて大事になると力を込めた。
「負けるとどうしても沈みがちになるけど、失点はセットプレーと自分たちのボールロストからのショートカウンターなので。綺麗に崩されたかと言えばそうではないと、ちょっとプラスに考えていこうかな、と」
鬼木監督を新たに迎えた鹿島は、組織力の差が鮮明に
対照的に心配なのは鹿島アントラーズだ。クラブOBで、川崎を率いた8シーズンで実に7個ものタイトルを獲得した鬼木達監督を新たに迎えた注目の初陣で、湘南ベルマーレに0-1と零封負けを喫した。
21ゴールで昨シーズンの得点ランク2位に入ったFWレオ・セアラをC大阪から獲得。パリ五輪代表のMF荒木遼太郎をFC東京からレンタルバックさせ、FW鈴木優磨が孤軍奮闘していた攻撃陣に厚みをもたせた。
そこへ鬼木監督の采配が加わる。9シーズンぶりの国内タイトル獲得への期待は大きく膨らんでいた。しかし、開幕節では2021シーズンから山口智監督に率いられる湘南に、組織力の差を見せつけられた。
川崎時代の実績がプレッシャーにならないのか。開幕前に鬼木監督に聞くとこんな言葉が返ってきた。
「プレッシャーはもちろんある。選手たちが、ファン・サポーターの方々が求めているタイトルを一緒に獲れた時を想像すると、喜びのほうがはるかに大きい。その意味で、成功とか失敗とかも考えていない。やるべきことをやってダメならば仕方がない。結果をしっかりと受け止める代わりに、常に最善の準備だけはしていきたい」
国内無冠が続いた8シーズンも、リーグ戦では5位以内をキープしてきた。地力はある。あとはいかに鬼木監督のイズムを浸透させるか。湘南戦後に「我慢強く戦っていくしかない」と、自らに言い聞かせるように前を向いた鬼木監督の下、上位の背中が見える勝ち点差で食らいついていけるかどうかがカギを握る。
上位勢につかず離れずの戦い方は、史上6チーム目のリーグ戦連覇を天皇杯との2冠で達成した神戸が昨シーズンに実践している。吉田孝行監督は前半戦で数多くの選手を起用して選手層に厚みをもたせながら、辛抱を重ねた末に終盤戦に入って無類の強さを発揮。追走してきた広島と町田を振り切って美酒に酔った。
積み上げてきたものに自信があるからか。オフにMF山口蛍やDF初瀬亮が移籍しても、主立った補強を行わなかった。しかし、開幕前にFW宮代大聖やMF井手口陽介らが怪我で離脱し、浦和レッズと0-0で引き分けた開幕節ではDF酒井高徳、FWジェアン・パトリッキまでもが負傷退場を余儀なくされた。
昨シーズンのMVPを獲得したMF武藤嘉紀は「開幕戦で言えば、負けなかった、というほうが大きい」と、再び我慢の戦いが続くと覚悟している。一方で対戦相手の浦和は、柏から加入したMFマテウス・サヴィオを軸とした2列目が大きな可能性を示しながらも、最終ライン、特にCB陣が手薄な感は依然として拭えない。
現状では広島が一歩リードしている、と言っていい優勝争い。もちろん12月第1週まで続く長丁場の戦いで、主軸の負傷離脱や海外移籍など、不測の事態が起こらないとは限らない。それらを前にして、いかに迅速かつ有効な手段を講じられるか。強化部を含めたチーム力もまた、優勝争いを大きく左右する要素になる。
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藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。