現役引退→「団子屋」に転職 Jスタジアムに出店…異例の転身で二刀流「まったく畑違い」【インタビュー】

かつて福岡などでプレーをした中村北斗(写真左)【写真:Getty Images】
かつて福岡などでプレーをした中村北斗(写真左)【写真:Getty Images】

【元プロサッカー選手の転身録】中村北斗(福岡、FC東京、大宮ほか):引退後に販売業に転身

 スタジアムグルメはサッカー観戦の楽しみの一つ。食べ物がおいしいことで知られる福岡県のベスト電器スタジアムにも多くの屋台が並ぶ。そのひとつに甘味処として人気のキッチンカーがある。長崎に本店持つ「つづみ団子」がその店。その店頭に立って販売を行っているのが中村北斗氏だ。

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 中村氏は国見高校時代には1年生からレギュラーとして全国高校サッカー選手権に3年連続で決勝戦に進出(優勝2回、準優勝1回)。そのすべての試合にフル出場したという戦後唯一の記録を持つ選手で、卒業後はアビスパ福岡で中心選手として活躍したのち、FC東京、大宮でプレー。2015年には福岡に復帰してJ1昇格の立役者となり、2018年から地元のV.ファーレン長崎で2年間を過ごし、16年間にわたるプロサッカー選手としての人生に終わりを告げた。

 現役引退と同時に福岡U-18のコーチ就任が発表されたことで指導者としての道を歩き始めるものと思われたが、その後、販売業に転身。現在はベスト電器スタジアムを中心にJリーグが開催されるスタジアムで「つづみ団子」の販売を行っており、ソフトバンクホークスの本拠地である「みずほPayPayドーム」に出店することもある。その理由を本人は次のように語っている。

「『つづみ団子』は地元長崎の先輩が会長をしている会社で、V・ファーレン長崎の練習場のすぐそばに本店があったんです。もともと団子が好きだというのもあったし、現役時代から販売という仕事にも興味があったので相談に行ったのがきっかけでした」

 売れ行きは好調だそう。引退直後は自分を知って買いに来てくれた人が多かったそうだが、現在は団子そのものを買いに来てくれる人が多く、「あれっ、北斗さんですか?」と言われることが多くなった。「団子は強いですよ」と頬を緩める。

本格的に指導者との二刀流生活へ

 多くの人たちにとって意外な転身に映るが、もちろん、そこには選手時代に培ったマインドが生きている。

「売れなかったらどうしようと毎回プレッシャーの中での販売。だから準備はしっかりやります。成果を出すには準備が必要ですし、準備しなかったら成果は出ません。だから準備がすべてで、それをやり続けること。アスリートは毎日やり続けるということに特化しているので、そこは強みですね」

 そこにはプロとしてやってきたことを繋げたいという想いもある。

「プロとして16年間やってきて良かったと思うのは人との繋がりです。けれど引退してしまうと、お互いに会えなくなるし、自分が引退したのはコロナ禍だったので、自分も含めて十分に感謝を伝えられないままに引退した選手も多いんです。だから、そういう機会を作りたいというのはありますね。販売と言うよりも交流しているという感じ。試合前には『今日は勝ちますかね』とか、勝敗に拘わらず試合が終わった後に立ち寄ってくれて話をしたり、そういうのが地域密着のコミュニケーションなのではないかと思いますね」

 繋いでいきたいのはそれだけではない。サッカー一筋で育って来た一人として、今まで取り組んできたことを無駄にはしたくないし、それを伝えなくてはいけないという責務も強い。2024年からは一般社団法人UNITED FUKUOKAが運営する「HIGASHI F.C.U-15」でコーチとして中学生年代の選手たちの指導に当たっていて、2025年以降はその活動も広げていく予定で、本格的に「つづみ団子」とサッカー指導者の二刀流生活を始める。いずれも根底のあるのはチャレンジ精神だ。

「大事なのはチャレンジするかどうか。現役引退後に指導者の道を進むのは当たり前のように思われているけれど、選手と指導者はまったく別物。指導者になるのもチャレンジなら、まったく畑違いの販売もチャレンジ。チャレンジをしての失敗なら構わないし、その中から見つけられるものがあります。だからどんどんチャレンジすればいいと思っています」

 どんな状況でも恐れることなく前へ仕掛ける。それが現役時代の中村北斗氏のスタイルで、その姿に博多の森球技場(現ベスト電器スタジアム)の観客が湧いた。その姿はこれまでも、そしてこれからも変わらない。

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