J1新監督8チーム、開幕節を「5段階査定」 タレント力随一も「時間がかかる」…満点は「思惑通り」【コラム】
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新監督の8チームを5段階で査定
2025年J1が開幕し、2023、24年連覇の王者ヴィッセル神戸が浦和レッズと0-0で引き分け、昨季快進撃を見せた町田ゼルビアも黒星発進を強いられるなど、波乱含みの序盤となっている。
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今季は監督交代が行われたチームが8つもあり、その動向も注目されていたが、前評判が高かった鹿島アントラーズが湘南ベルマーレに0-1で苦杯。逆に苦戦を強いられるのではないかと見られていたアルビレックス新潟やFC東京が勝ち点を確保するなど、やはり予想外の展開と言えるだろう。
そこで、新指揮官に移行した8チームをピックアップ。開幕の戦い方や内容を踏まえ、現時点でのチーム完成度を5点満点で評価した。
■鹿島アントラーズ=★☆☆☆☆(中後雅喜監督→鬼木達監督)
国内7冠の名将・鬼木達監督を招聘し、さらに昨季21得点のレオ・セアラを獲得。7得点の荒木遼太郎もレンタルバックさせ、タレント力ではJ1随一と見られた鹿島。だが、ボール保持を主体とした攻撃的スタイルへの転換はまだまだ模索段階と言っていい。
0-1で敗れた湘南戦も選手たちが迷いながらプレーしている印象で、チャンスらしいチャンスはCK絡みだけ。レオ・セアラと鈴木優磨というリーグ屈指の2トップにボールが行かず、「フラストレーションが溜まる」と鈴木優磨も苦渋の表情を浮かべていた。
「今いる選手たちのキャラクターを見ても、トライしていることにすぐハマるような感じじゃないと思う。自分たちがどれだけ適応できるかという部分も問われてくる」と川崎フロンターレ時代に鬼木監督に師事していた知念慶は語っていたが、確かに鹿島の選手たちは当時の川崎に比べると止める、蹴るに長けているわけではない。鹿島のシフトチェンジは難しいのだ。
開幕直前に取材に応じた中田浩二FDは「時間がかかることは理解している。徐々に完成度を高めていけばいい」と話していたが、鹿島というのは常に結果を求められるチーム。序盤から苦戦が続くと周りが騒がしくならないとも限らない。しばらくは耐える時間が続くかもしれない。
■柏レイソル=★★★☆☆(井原正巳監督→リカルド・ロドリゲス監督)
15日の初戦はアビスパ福岡に1-0で勝利し、まずまずのスタートを切った柏。リカルド・ロドリゲス監督のポゼッションスタイルのサッカーを選手たちが理解し、実践しつつあるのは確かだ。
リカルド監督はつなぎに長けたGK小島亨介、ボランチ原川力、2列目の小泉佳穂といった面々を的確に配置しながら、自分にやりたい形を研ぎ澄ませている。やはり小泉の存在は大きく、彼が中盤を流動的に動いてサポートに入ることで、攻守両面のバランスが取れている。そういうサッカーIQの高い人材を集めたことで、今季の柏は昨季までとは違った集団に変貌しつつあるようだ。
ジョーカー起用されているジエゴ、渡井理己、垣田裕暉らも徳島ヴォルティス時代の秘蔵っ子で、指揮官の戦術や意図をよく理解しているのがアドバンテージ。そういうメンバーが確実に結果を出してくれれば、このまま上位争いを展開することも不可能ではないだろう。
FC東京は攻撃陣の関係性改善の余地あり…“ヤング”フロンターレには期待大
■FC東京=★★☆☆☆(ピーター・クラモフスキー監督→松橋力蔵監督)
15日の開幕戦は横浜FCに1-0で競り勝ったFC東京。だが、松橋力蔵監督のボールをつなぎながら主導権を握るサッカーが確実にできていたかというと、そうとも言い切れない部分がありそうだ。
まず課題と言えるのが、3バックの連係・連動。中央に位置する森重真人はボールをつなげる選手だが、土肥幹太と岡哲平の左右のDFの技術と戦術眼が少し足りない。彼らのところで敵をはがし切れない部分、松橋監督の下でプレー経験のあるボランチ・高宇洋がサポートに入って円滑にボールを運ぼうとしているものの、全体にスムーズさが欠ける嫌いがあるのも確かだ。
2シャドーの仲川輝人、俵積田晃太と1トップのマルセロ・ヒアンの関係性もまだ改善の余地がありそうだ。仲川と俵積田はサイドで局面打開していく方が得意で、インサイドだとストロングが出にくい。むしろ後半途中から出てきた小柏剛と佐藤恵允の方が推進力を前面に出していた印象だった。そういった攻撃陣の組み合わせ含めて、指揮官の中ではまだ模索中なのだろう。ここからどうなっていくかを注視する必要がありそうだ。
■川崎フロンターレ=★★★★★(鬼木達監督→長谷部茂利監督)
長谷部茂利監督体制の初陣だった11日のACLE・浦項スティーラーズ戦に続き、15日の名古屋グランパス戦も4-0で圧勝した川崎。新指揮官はプレシーズン、守備組織構築にかなりの時間を割いたというが、その成果は確実に出ている。強固な守備ブロックで敵にスキを与えないというのは、長谷部体制の川崎のいいところ。SNS上では「アビスパ福岡の上位互換」といった言われ方もされているが、「失点を大幅に減らす」という新指揮官の思惑通りに進んでいると見ていいのではないか。
それに加えて、川崎らしいパスをつなぎながらのコンビネーションも示せている。鬼木体制の時より攻撃がスピーディーかつシンプルになったイメージもあるが、それが結果につながっているのは好材料。
しかも名古屋戦でゴールを奪ったのが、高井幸大、山田新、山内日向汰、宮城天というアカデミー出身の若手というのも、チームの雰囲気を活性化するはずだ。
川崎は今後もACLEとの掛け持ちで過密日程が続くため、予断を許さないが、新たなチームのスタートとしては上々と言っていい。
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新星横浜FM強みは変わらず「絶対的得点源」 新潟は「未知数な部分も少なくない」
■横浜F・マリノス=★★☆☆☆(ジョン・ハッチンソン監督→スティーブ・ホーランド監督)
かつてジョゼ・モウリーニョ監督(現フェネルヴァフチェ)やガレス・サウスゲート監督の下で参謀を務めていたスティーブ・ホーランド監督率いる新体制に移行した横浜。12日の初陣・上海申花戦では3-4-2-1の新布陣がまだスムーズではなく、試合内容的にも苦戦したが、1-0で勝ち切った。
それを踏まえて、ほぼ同じメンバーで戦った15日のアルビレックス新潟戦は1-1のドロー。新戦力のジェイソン・キニョーネス、21歳の成長株であるジャン・クルード、今季は1トップとシャドウを兼務する植中朝日らが可能性を感じさせたものの、まだ新布陣含めて浸透に時間がかかりそうだ。
それでも、横浜はアンデルソン・ロペスやヤン・マテウスという個人でゴールを奪いきることができるタレントがいる。しかも彼らをお膳立てするメンバーも変わっていないため、確実に得点が期待できるのが強みだ。そこはレオ・セアラにボールが行かずに苦しんでいる鹿島との大きな違い。今後ACLEとの連戦が続くため、リスクはあるが、絶対的得点源がいるという意味で、彼らはそこまで大崩れしないのではないか。
■アルビレックス新潟=★★★☆☆(松橋力蔵監督→樹森大介監督)
2024年YBCルヴァンカップ準優勝へと導いた松橋力蔵監督がチームを離れ、Jリーグで指揮を執った経験のない樹森大介監督が就任し、新たな一歩を踏み出した新潟。小島亨介(柏)や長倉幹樹(浦和)、トーマス・デン(横浜FM)といった実績ある選手が外に出たこともあり、今季は厳しいという見方をされていた。
しかしながら、15日の横浜戦を見る限りだと、昨季まで松橋監督が築いたベースを生かしつつ、マイナーチェンジを加えている印象で、チーム作りには継続性が感じられる。
最終ラインのメンバーも基本的に大きな変化はなく、左SB橋本健人の思い切りのいい攻撃参加は大きな武器になっている。彼のクロスから今季チーム初ゴールをマークした太田修介も好調で、今季はチームの得点源になりそうな予感もある。そういった選手個々のよさを生かしつつ、現実的に勝てる方法を見出していくというのが、新指揮官のスタンスなのだろう。
もちろん戦力的に潤沢とは言えないため、ここからどうなっていくか未知数な部分も少なくないが、出足としては悪くない印象だ。
大阪ダービーで衝撃、理想のスタート…金明輝監督の幕開けは?
■セレッソ大阪=★★★★☆(小菊昭雄監督→アーサー・パパス監督)
横浜FM時代にアンジェ・ポステコグルー監督の下で参謀を務めていたアーサー・パパス監督がC大阪をどう変貌させるか注目されていたが、14日の大阪ダービーでは見る者に衝撃を与えた。
プレシーズンのタイ・宮崎キャンプで激しく追い込んだという前評判通り、選手たちの運動量とハードワークが目覚ましく向上。走行距離はガンバの117.384キロを大きく上回る124.714キロを記録。センターラインを形成する田中駿汰と北野颯太が12キロ前後の距離を走るなど、フィジカル的にパワーアップしたのは確かだろう。
強度・インテンシティの部分で上回ったからこそ、ガンバとの打ち合いを制することができた。昨季まで伸び悩みが懸念された北野が2ゴールを奪い、同じく昨季はキャリアの危機に瀕した香川真司も復活弾をゲット。田中に加え、レンタルバックした中島元彦までダメ押し点を奪ったのは、チームの士気を高めるうえで理想的な展開だった。
ただ、セレッソは昨季も好発進を見せたが、途中から失速している。序盤の勢いを止めないためにも、攻守両面の完成度をより引き上げる必要がある。まだ完全にフィットしていないラファエル・ハットン、チアゴ・アンドラーデの外国籍助っ人の動向含め、慎重に見守っていく必要がある。
■アビスパ福岡=★★☆☆☆(長谷部茂利監督→金明輝監督)
金明輝監督率いる初戦ということで、注目された15日のアビスパ福岡対柏。結果的には柏に1点を奪われ、0-1で敗れたものの、前半は福岡の方がよりチャンスを作っていた。
チーム走行距離の120.819キロという数字を見ても分かる通り、指揮官の秘蔵っ子であるボランチの松岡大起や新戦力の見木友哉らがハードワークを見せたのも好材料。戦う意識を前面に押し出すことを求める金明輝監督らしいチームになってきたという印象だ。
ただ、長谷部茂利監督体制だった昨季までの福岡は3バックをベースにしていたため、ゴール前の守備が固かった。今季は4バックになり、CBが2枚ということで、ややそこの不安は見て取れた。田代雅也と上島拓巳で守り切れるという指揮官の判断はあるのだろうが、周囲のカバーリングやサポート含めて、より強固な守備組織を形成していく必要がありそうだ。
そのうえで、誰が点を取るか。そこがチームの最大の課題と言ってもいいかもしれない。その解決策を見出せれば、もう少しチーム状態が上がってくるはず。ウェリントン、ジャハブ・ザヘディの両外国人FWに託されるものは大きいだろう。
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元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。