久保建英への侮辱…90年代から横行スペイン人種差別 「お前は猿だ!」懲役8か月の有罪判決も【現地発コラム】

久保建英も被害を受けた人種差別がスペインで横行する訳とは?【写真:Getty Images】
久保建英も被害を受けた人種差別がスペインで横行する訳とは?【写真:Getty Images】

1990年代から起きていた社会問題、選手間でも人種差別的な侮辱

 最近、久保建英に対する人種差別問題が取り沙汰されたが、スペインでは以前から、スタジアムでの選手に対する人種差別的な侮辱が度々問題になっている。同国でこの問題がいかに根深いものか触れていきたい。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 フランコ独裁政権下(1939年~1975年)では肌の色に対する偏見が大きく取り上げられる機会がなかった。そのため、スペインサッカー界における人種差別の最初の事例が何であるかを正確に知るのは難しい。

 おそらく、スペインのスタジアムで人種差別が初めて社会問題となったのは、1993年5月のラージョ・バジェカーノのナイジェリア人GKウィルフレッド・アグボナヴバレの一件だ。サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリードサポーターから侮辱を受け、「スペインには人種差別がある」と発言したことが注目された。

 それ以降もこの問題は後を絶たない。FCバルセロナのカメルーン人FWサミュエル・エトーは、サラゴサ戦で猿の擬音で揶揄されたことに対してピッチを去ろうとし、ブラジル人DFダニエウ・アウベスはビジャレアル戦でバナナを投げつけられた(※アウベスは投げつけられたバナナを口にする皮肉で対応)。

 レアル・マドリードのブラジル人DFマルセロはマドリードダービーで猿の鳴き声を真似たチャントを歌われ、「お前は猿だ!」「お前の父親が死ぬことを願う!」といった人種差別を超えた罵声を浴びせられたことがあった。

 ほかにも大きな問題として、エスパニョールのカメルーン人GKカルロス・カメニ、レアル・マドリードのブラジル人DFロベルト・カルロス、アスレティック・ビルバオのスペイン人FWイニャキ・ウィリアムズに対するものなどが挙げられる。

 問題なのは人種差別をしているのが“サポーターだけではない”ということだ。例えばバレンシアのフランス人DFムクタリ・ディアカビはカディス戦でスペイン人DFフアン・カラから、バルセロナのフランス人DFサミュエル・ウムティティはエスパニョールのスペイン人FWセルヒオ・ガルシアから、それぞれピッチ内で人種差別的な侮辱を受けている。試合中は熱くなりやすいという言い訳は通用しない。

 また、マルセロが2010-11シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1戦のクラシコで、バルセロナMFセルヒオ・ブスケツから人種差別発言を受けたとして、クラブはUEFAに訴えを起こした(※ブスケツは聞き間違えだと反論)。最終的に証拠不十分として処分は科さなかったが、世界中で議論が巻き起こっていた。

レアルFWへの人種差別は大問題に発展、久保ら所属のソシエダ選手も標的に

 最近ではレアル・マドリードのブラジル代表FWヴィニシウスを取り巻く問題が記憶に新しい。それまでも散々取り上げられていたが、バレンシアのホーム、メスタージャで2023年5月21日に行われた2022-23シーズンの第35節で起こったものは大問題に発展した。

 人種差別的な侮辱を受けたヴィニシウスがスタンドのサポーターに詰め寄って抗議したことで試合が10分ほど中断。この際、スタジアム中からもヴィニシウスに対する侮辱の大合唱が起こっている様子がSNSで拡散されている。最終的に犯人が特定され、スペインサッカー史上初めて、人種差別行為によりバレンシアサポーター3人に懲役8か月の有罪判決が下される結果となった。

 このような社会問題とまでなったにもかかわらず、今年の1月19日、メスタージャで行われたラ・リーガ第20節で再び忌々しい歴史が繰り返された。

 今度はレアル・ソシエダの選手たちがバレンシアサポーターの標的となり、ベンチスタートだった久保建英は、後半タッチラインでアップしていた際、複数人のバレンシアサポーターから「中国人、目を開けろ」と人種差別発言を受けた。同僚のミケル・オヤルサバルやアンデル・バレネチェアも、「ETAのメンバー!クソ野郎」(※ETAは「バスク祖国と自由」という組織。バスク地方の分離独立を目指してテロ活動を行ってきた過激派。18年に解散発表)などの罵声を浴びせられる出来事が起きている。

 スタジアムでの人種差別に対する処分は以前に比べて重くなっているが、まだ対策は甘く感じられる。そのため、各機関がより力を合わせ、撲滅に向けてさらなる動きを見せる必要があるだろう。

(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)



page 1/1

高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング