日本代表と名門レアル…意外な類似点 拍子抜けのざっくり感と「ありたき姿」の王道【コラム】

日本サッカー協会発表の「Japan's Way」、拍子抜けから一転「これはこれでアリ」
日本サッカー協会は2022年に「Japan’s Way」というデジタル冊子を出している。日本代表から育成、普及と内容は多岐にわたる53ページ。「日本サッカーが世界を制している時にどんなサッカー界なのか? その『ありたき姿』からまとめた」ものがジャパンズ・ウェイであるとのこと。
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日本代表のプレービジョンのまとめとして、次の文章が載っている。
「世界に負けない個の強さを、ハードワークをベースにした組織力と重ね合わせ、世界のトップを目指すこと」
これが発表された当時、ちょっと拍子抜けした覚えがある。世界トップクラスの選手とは何かをポジション別に説明してある。ところが、ではそういう選手を集めてどういうサッカーをやるのかという説明がないのだ。
具体的に戦術がどうなるとかは監督によって違うだろうから、あまり限定的に書くのは意味がないのかもしれないが、まとめの一文のように<個+ハードワーク>はあまりにもざっくりしすぎてないか? 当時はそう思った。ただ、案外これはこれでアリかもしれないと最近思うようになっている。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)プレーオフでマンチェスター・シティvsレアル・マドリードの激突があった。
第1戦の結果は2-3。終盤の連続ゴールでアウェーレアルが勝利した。まだ第2戦が残っているので、どちらが勝ち抜くかは分からない。試合内容も接戦だった。どちらも世界の頂点にいるビッグクラブだが、今季に関してはシティの弱体化が目立っている。弱体化してもまだ強いのだが、これまでのような圧倒的な強さがなくなってきたのだ。
両雄のあり方はある意味、対照的だ。シティは誰もが世界最高と認める監督(グアルディオラ)を招聘し、最先端の緻密な戦術の下に、豊富な資金を使って適材適所の補強。磐石の体制を築いてきた。強力な個に頼るのではなく、やりたいサッカーが明確にあり、そのディテールも決まっている。シティズ・ウェイにジャパンズ・ウェイのようなざっくり感はない。
無理や無駄も多いレアルだが…優れた柔軟性と対応力で長年欧州トップクラス
一方、レアルはその時点での世界最高クラスの選手を獲得するのが大方針。すべてのポジションに最高クラスの個を揃える。その補強戦略はむしろコレクションに近く、現在ならムバッペ、ヴィニシウス、ロドリゴの3トップの最適ポジションが全部左サイドと見事に被っているのだが、そんなことはお構いなし。スーパースターといえども名門クラブではハードワークしなければならないという不文律はあるが、ではどういうサッカーをやるかについては極めてざっくりしている。
レアルに戦術がないわけではない。個が強力なので、むしろ対応力は図抜けていて、即興的な対策で勝てそうにない試合に勝ってしまうことがよくある。ただ、最高のレアルを見ることはあまりない印象で、やや宝の持ち腐れのようにさえ見えることも多い。
このシティとレアルのありようを比べると、どう見ても衰退しそうなのはレアルだろう。ところが、1950年代から強い奴を集めれば強いという方針のレアルはCL最多優勝を誇り、いまだに欧州トップクラブであり続けている。
FCバルセロナのように一定のコンセプトを堅持するがゆえに育成の成果を得られる場合もあり、レアルのやり方だけが正しいわけではない。むしろ強い個を集めてのゴリ押しは、無理や無駄も多そうだ。ただ、戦術的に詰められた隙のないチームほど、その緻密さゆえに突然崩れることもある。その点、戦術を個に依存しているレアルは、チームとしてのピークポイントは高くないが柔軟性はあり、結果的に長く持続している。
レアルズ・ウェイを見ると、ジャパンズ・ウェイはけっこう王道で、何も言っていないようでいて、それがすべてなのかもしれないという気もしてきている。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
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西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。