新生マリノス変革へ…英国人監督が21歳を絶賛「彼は伸びる」 初陣から透けた起用法【コラム】

ACLE上海申花戦で今季初の公式戦に臨んだ横浜FM【写真:Getty Images】
ACLE上海申花戦で今季初の公式戦に臨んだ横浜FM【写真:Getty Images】

ホーランド新監督下で新シーズンへ、新生・横浜FMの選手起用を読み解く

 横浜F・マリノスはイングランド人の新指揮官スティーブ・ホーランド監督の初陣となるACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)の上海申花戦に1-0で勝利した。すでに2試合を残して決勝ラウンド進出は決まっていたが、この勝利で4位位以上が確定し、現在2位のヴィッセル神戸、3位の川崎フロンターレとの日本勢対決は可能性がなくなった。

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 この試合を通して見えたのはホーランド監督の基本的な戦い方と選手の起用法だ。唯一の得点となったヤン・マテウスのゴールは左センターバックの渡邊泰基からの縦パスを起点にした攻撃が一度は相手ディフェンスに防がれたところから、植中朝日のプレスで即時奪回につなげると、左から永戸勝也が折り返したボールをアンデルソン・ロペスがキープしてヒールで流し、ヤン・マテウスが左足でゴール左隅に突き刺した。

「ヤンは本当にタレント性の高い選手の1人です。ゴールを見たと思うんですけど、簡単なゴールではない。彼だから決めたゴールです」とホーランド監督はこの試合のヒーローを褒め称えた。3-4-2-1をベースとした攻撃は構築中で、特に指揮官はいつ縦に速く攻めて、いつ落ち着かせるかというゲームコントロールに大きな課題があることを認めた。

 筆者が攻撃面より目に付いたのはディフェンス面で、5-3-2に形を変えながらの対応だ。その形にした理由について、ホーランド監督は「相手の中盤がダイヤモンドで設定してきました。そこで3-4-3のままにしてしまうと、なかなか難しかった」と語った。つまり攻撃では3-4-2-1、守備では5-3-2にシフトするため、チーム全体に素早い攻守の切り替えが求められる。特に左シャドーの植中に与えられたタスクはハイレベルだった。

 植中には守備の時に中盤の左まで下がり、右MFのヤン・ハオユーをチェックする役割を担った。そのうえで「相手の中盤のダイヤモンドのサイドが、横に流れた時に付いていくことも言っていました」とホーランド監督は語る。植中は「新しいことにチャレンジしている分、自分の中での収穫とか、改善しないといけないポイントが山ほど出てくる。新鮮な気持ちでやれているので楽しい」と語る。

 右シャドーのヤン・マテウスは植中とまた違う守備の役割を担っていた。守備の時にアンデルソン・ロペスと2トップの関係を作って、相手のセンターバックとアンカーのイブラヒム・アマドゥをチェックするという仕事だ。この試合のMOMに輝いたGKの朴一圭は序盤、セットプレーの流れからビッグセーブでチームを救っただけでなく、ハイラインの背後のカバーでも存在感を見せた。一方で得意のビルドアップでは3バックにボランチを絡めたボール回しをうしろから支えたが、関わり方については相手の守備傾向を分析したうえで判断しており、相手が変わればまた役割や関わり方が変わり得ることを教えてくれた。

 この試合からも分かるのはホーランド監督がマリノスに長年根付いている攻撃のマインドそのものは継続しながら、守備も攻撃も対戦相手を分析して、対策を施していくということだ。指揮官は「一番大事なのは我々が、何が得意で何を求めてやるのか。自分たちは何をするのか。そして相手がやろうとするサッカーをどれだけ止めることができるか」と主張しており、自分たちのサッカーを継続すること、同時に相手のやろうとすることをやらせないことがリンクしている必要がある。

ACLE上海申花戦のスタメン11人をJ1開幕戦にぶつける可能性も

 この基本的な考えは2019年のリーグ優勝に導いたアンジェ・ポステコグルーから受け継がれるマリノスのマインドと一致しないところもある。しかし、攻撃でひたすら相手を圧倒するよりも、守備的な対策も含めて相手の強みを出させないことで有利に持っていく戦い方は昨シーズン9位に終わったマリノスが、新たなサイクルを作っていくために重要なファクターであるように思われる。

 そうしたタスクとも関連することだが、ホーランド監督は21歳のジャン・クルードを中盤でスタメン起用した理由について「彼のパフォーマンスは素晴らしいものがありました。もちろん守備のところではもうちょっとここを伸ばして欲しいなというところはありましたけど、あとは技術の部分ですね。そういうところ1つ1つ雑になった部分があったんですけど、そこさえ改善すれば、彼のような選手はボールを奪うところであったりとか、そういうところに関して、本当にMFとしての素質を持っている」と説明した。

「ヨーロッパでもそういう選手をずっと見てきました。ジャンはこれまでなかなか大人のサッカーをしてきてないと思うんですけど、トーゴ代表として出て、いろんなポジションをやっていた。MFとして役割をしっかり理解すれば、もっともっと彼は伸びると思いますし、彼を教えるにあたって、良い生徒だなと思っています」

 クルードについてそう語ったうえで、この試合はレギュレーションの事情で出られなかった特別指定選手の諏訪間幸成に関しては「本当に残念で仕方がなかったですし、彼にとってここに出られたら最高の経験になったと思いますし、いろんな人に見てもらえたと思います」と語り、また現在U-17日本代表の活動に参加している17歳の浅田大翔にも言及して、チーム復帰後の積極的な起用を示唆した。

 一方でホーランド監督は「毎試合、毎試合、10人を替えるかというと、そういうタイプの監督ではないです。自分としてはなるべく11人を崩さず、誰がみても“これがマリノスのチームだ”というものを目指しています」と主張する。指揮官がその時にベストと考えるスタメンはできるだけ継続的に起用していくのが理想であるようだ。過密日程が続けばそれが難しくなることもホーランド監督は理解しているが、ACLEの上海申花戦でスタメンだった11人は現時点でかなり信頼を得ている選手たちと言えるし、ほぼそのままアルビレックス新潟とのJ1開幕戦にぶつける可能性は高い。

 ただし、シャドーの候補である遠野大弥は前所属が川崎フロンターレで、昨年から行われているACLEのリーグステージにマリノスの選手として出ることはできない。1トップの候補でもある植中が左シャドーでチャンスを得たのはそうした事情も働いたと言える。植中は「どうしてもポジションが重なってくる選手なので。こういう時にしっかりとアピールしてというのは思っていた。点を取れれば本当に最高でしたけど。そこができなかったことはもう1回、次、悔しいで終わっては勿体ないので、次に生かしたい」と語る。

 また新外国人のトーマス・デンを負傷で欠くディフェンスラインは上海申花で松原健、ジェイソン・キニョーネス、渡邊泰基の3人がスタメンでフル出場、クリーンシートに貢献したが、新潟戦では指揮官も高く評価する諏訪間を起用できるので、陣容が変わる可能性もある。また2月9日に加入がリリースされたインドネシア代表のDFサンディ・ウォルシュも含めて、激しい競争になっていきそうだ。ホーランド監督は「与えてもらうのを待つのではなく、自分で掴みに行って欲しい」と強調し、練習からの競争を促す。まずは指揮官のリーグ戦デビューとなる新潟戦で、どういったメンバーが送り出されるのか注目だ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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