18歳なのに…先輩に遠慮なし「前へいきたい」 同僚も驚く才能「改めてビックリした」【コラム】
![ボランチでコンビを組んだ田中聡と中島洋太朗【写真:徳原隆元】](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2025/02/14142615/20250214_TanakaNakajima-Tokuhara.jpg)
広島の田中聡「洋太朗は素晴らしかったし、自分が足を引っ張っていた」
練習ではなく公式戦で、それも王者・ヴィッセル神戸と対峙したFUJIFILM SUPER CUPで共演して、改めて感じるものがある。湘南ベルマーレからサンフレッチェ広島に加入した22歳の田中聡は、ダブルボランチを組んだ18歳の中島洋太朗のきらめくような才能に何度も驚かされながらも、2025シーズンの開幕を前に、優勝候補の一角に名を連ねる広島で成長していく道を改めて見つけている。(取材・文=藤江直人)
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気がつけば“5文字”を口にしていた。新天地・サンフレッチェ広島の一員として臨んだ初陣を振り返っても、収穫や課題を問われても、湘南ベルマーレから加入した田中聡の言葉には「ヨウタロウ」が含まれていた。
それだけ、ともに先発してダブルボランチを組んだ、18歳の中島洋太朗が見せたパフォーマンスに改めて驚かされ、現時点で大きな差をつけられていると素直に認めた。苦笑しながら田中が言う。
「やはりチームの安定感が違いますよね。個々の能力も高いし、例えばトルガイ(・アルスラン)は本当にめちゃくちゃうまい。ディフェンスラインでいえば、今日出ていた3人(佐々木翔、荒木隼斗、塩谷司)は本当に安定感があるし、(後ろにいれば)すごく安心させてくれる選手たちだし、洋太朗もあの若さであのようなパフォーマンスを出せる。改めてビックリしたし、だからこそ自分はまだまだだなと感じました」
湘南時代に何度も広島と対戦した経験から、チームの完成度の高さは分かっていたつもりだった。選手個々のレベルの高さも然り。それでも、さらなる成長を求めて移籍して、初めて分かるものもある。昨シーズンの2冠王者、ヴィッセル神戸を2-0で一蹴した8日のFUJIFILM SUPER CUP後の取材エリア。田中が続けた。
「特に今日の洋太朗は素晴らしかったし、その意味で自分が足を引っ張っていたと思っている。もっといいコンビネーションでやっていかないと優勝は目指せないので、もっともっと貪欲にやっていきたい。今日はちょっと緊張していたというか、ビビっていた部分もあるので、もっとボールにどんどん関わっていきたい」
2024年が終わろうとしていた昨年12月30日。湘南から広島への完全移籍が発表された。クラブを通じて「自分らしさを出し、広島のために戦います」と宣言して臨んだキャンプ。広島を率いて4シーズン目を迎えるミヒャエル・スキッベ監督のもと、田中と中島は何度もダブルボランチを組んできた。
ドイツ出身の59歳の指揮官は、ダブルボランチが横に並ぶ形よりも、縦型になってどちらかが攻撃に絡んでいく形を求める。田中は「状況に合わせて僕が下がるケースもあれば、もちろん洋太朗が下がるときもある。特に決まってはいないんですけど……」としながら、自身が終始下がり気味となった神戸戦を振り返った。
「洋太朗は一人で何でもできるので、自分はボールを奪われた後の守備をまずは意識してやろう、と」
アンカーを主戦場とした湘南時代は、アグレッシブなボール奪取から積極的に攻め上がり、味方の攻撃に厚みをもたせるプレースタイルを得意としてきた。広島からオファーを受けた理由もそこにある。しかし、神戸戦では自身の一丁目一番地にすえるプレーができなかった。だからこそ「自分が足を引っ張った」と反省した。
「今日に関してはボールを奪う回数も少なかったし、攻撃にもなかなか絡んでいけなかった。個人的にはそこがよくなかったというか、正直、ダメなゲームでしたね。自分だけでボールを奪えていたらまた違った展開になっていたはずだし、自分に関してはシュートそのものも少なかった。いろいろな課題を感じました」
キャンプを通じて、初めてコンビを組む中島とお互いのプレースタイルを確かめ合ってきた。
「洋太朗は『前へいきたい』と言っていたし、今日の試合を見ても分かるように、実際にどんどん前に出ていく。そこで自分はなるべく後ろでリスクを管理しながら、守備プラス1の役割をずっと自分に課していました」
先輩選手たちに対して、まったく遠慮せずに「前へいきたい」と自分のストロングポイントをアピールする。威風堂々とした18歳の中島の立ち居振る舞いに、22歳の田中は大きな刺激を受けている。
「洋太朗は4つ下ですけど、海外を含めて、いまは若い選手がどんどん出てきている。自分はもう22歳なので若手じゃないと思っているし、今日のパフォーマンスじゃこれから先、試合にも出られないと」
だからといって下を向いているわけではない。自虐的な言葉を続ける田中の表情はむしろ明るく、口調も弾んでいた。理由は明白。新天地で生き抜いていく道が、あらためて鮮明になったからにほかならない。
「洋太朗を含めてうまい選手がすごく多いなかで、自分は守備の部分でまた違った持ち味がある。そこを出していけばポジション争いにもどんどん食い込んでいけるはずなので、自分の特徴を忘れずにプレーしていきたい。キャンプから結構手応えはあったんですけど、今日の試合を終えて思ったのは、こういうところで本当に実力が出る、というところですね。悔しさもそうですけど、まだまだだなと感じています」
ステップアップを求めた新天地で、自身の現在地を目の当たりにしてさらにモチベーションを高める。田中の場合は中島を触媒として「まだ22歳ではなく、もう22歳なんだ」とプロサッカー選手のキャリアに警鐘を鳴らし、さらに「うまい選手である前に、自分は強い選手でありたい」と存在価値を新たにした。
こうした思いを抱くのも、移籍にもたらされる効果のひとつといっていい。田中が笑顔で続ける。
「監督からは前線へ飛び出していくプレーも求められていますし、自分としてもやはり得点に絡みたい。ダブルボランチなので、フォーメーション的にもアンカーよりは飛び出しやすいと思っているので」
U-20日本代表に招集され、AFC・U-20アジアカップ(中国)に挑んでいる中島は最大4試合、広島を留守にする。日の丸を背負った戦いでさらに成長を遂げ、広島に復帰したときに田中もスケールアップを果たしていたら。中盤の底におけるボール奪取やインターセプト、そして利き足の左足に宿る強烈なミドルシュートに象徴される「プラス1」が加わった広島は、10シーズンぶりのリーグ優勝を狙える存在にまた一歩近づいていく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)
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藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。