「今年ダメだったら潔く去る」元日本代表の覚悟 理想はドイツで引退も…プラン変更の理由【コラム】

「覚悟の1年」で原口元気は何を残す…キャリアを賭けた2025年J1への思い
2024年はJ1で13位というまさかの苦境に直面した浦和レッズ。マチェイ・スコルジャ監督体制を継続した今季は何としてもタイトル奪回を果たさなければならない。(取材・文=元川悦子)
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そのために、マテウス・サヴィオや金子拓郎、松本泰志といった実績ある面々を補強。2024年終盤に苦しんだ得点力不足を解消し、開幕から一気に走りたいところだ。
そのけん引役として期待されるのが、フィールドプレーヤー最年長となる原口元気。2009年に17歳で鮮烈デビューを飾った弾丸アタッカーも早いもので33歳。ドイツでの10年間の紆余曲折を経て、復帰した古巣を優勝させるべく、全身全霊を注いでいる。
「いいパフォーマンスを見せるためには、とにかくコンディションが一番。このオフはほとんど毎日、走っていましたね。絞っていたのは走力とキレという2つのテーマ。どちらも改善されていると思うし、沖縄キャンプでも昨年とは全然違う状態だと感じました。
チームとしてもやるべきことがクリアになってきて、パフォーマンスも非常によかったと思うので、あと2週間、しっかり練習して、(2月15日の開幕・ヴィッセル)神戸戦にいい形で入れるように準備したいと思います」
2025シーズンに対するに原口の思いは並々ならぬものがある。というのも、もともと彼は欧州志向が強く、「日本に戻りたい」という考えは持っていなかった。「長谷部(誠=フランクフルト)さんのキャリアが理想」とも語っていたことがある。
できることなら先輩のようにドイツで現役生活を全うし、そのまま指導者に転身するといった道筋を考えていたはずだ。実際、そのためにドイツ語の勉強にも熱心に取り組んでいた。彼の言語レベルはドイツでプレーした日本人選手の中でも特に際立っている。
その人生プランを変えるに至ったのは、やはり「浦和を優勝させる」という目標に大きなやりがいを感じたから。もちろん昨夏の移籍市場で納得いくクラブから思うようにオファーが届かなかったこともあるが、やはり「中学時代から育ててもらったレッズを何とかしたい」という気持ちが誰よりも強かったに違いない。
「(昨年9月の)入団会見の時も言ったけど、『今、何が一番ワクワクするか』を考えた時、この浦和でもう1回プレーすることだなと思ったんですよね。Jリーグ発足からの30数年間で1回(2006年)しか優勝できていないのは少なすぎる。
だからこそ、2025年に必ず2回目を作りたい。自分の情熱を120%燃やせる場所があるっていうのは本当に幸せなことだし、感謝しかない。僕にとっては本当に最後の挑戦になるかもしれない」
このように語っていた原口は、「本当に今年ダメだったら潔く去る」くらいの強い覚悟で挑んでいるのだ。
沖縄キャンプを見る限りだと、左サイドのファーストチョイスはマテウス・サヴィオ。彼と松本、金子で形成する2列目の連動性が非常に高いからだ。とはいえ、スコルジャ監督は原口の能力も買っていて、左サイドでジョーカー的に使う形のみならず、トップ下に置いてサヴィオと共存させることも視野に入れている。
「サヴィオは非常に動きのある選手なので、よく顔を出してくれるし、顔を出した時のクオリティも高い。実戦で彼と一緒にプレーしたときはいいものが出せていたと感じているので、本番もいいものが出せるんじゃないかなと。左サイドで争うこともあるし、共存することもある。僕にとっては彼の存在がいい刺激になっている。浦和に来てくれてよかったなと思っています」
ただ、純粋に左サイド争いという観点で見ると、サヴィオのみならず、怪我からの回復途上にある松尾佑介もいるし、マルチ型の関根貴大もいる。技巧派ドリブラーの本間至恩も出番を窺っていて、非常にハイレベルなポジション争いが繰り広げられることになる。
そこで原口がやらなければいけないのは、かつてのようにダイナミックなアップダウンを繰り返し、攻守両面で貢献しながら、ここ一番でドリブルで敵陣を切り裂いてゴールに突き進んでいくことだ。
スピードは松尾、チャンスメークではサヴィオに分があるかもしれないが、本来の原口には圧倒的なダイナミックさと走力、推進力がある。それを取り戻すまでにかなり時間がかかったが、本人は「今年は必ずやれる」と自信を見せている。
それをピッチ上で実証し、対戦相手をきりきり舞いしてくれれば、浦和のゴール数は自ずと増えていく。そのキーマンになれるように、原口には年齢に関係なく、貪欲に泥臭く走り続けてもらうしかないのだ。
「今年はガンガン仕掛ける? まあ工夫しながらですね(笑)。自分に必要なのはプレーの継続性かな。やっと動けるようになってきたので、いいパスを出して終わりとか、いいドリブルをして終わりとかじゃなくて、もう1つ2つ続けること。サヴィオがよくやるんですけど、それをやることによって、チームとしてのいい流れができると思うので、それをやっていきたいですね」
それがJ1でのコンスタントな活躍、6月に控えるFIFAクラブワールドカップ(W杯=アメリカ)でインパクトを残すことにつながる。ドイツを離れ、日本代表からも遠ざかっている原口にしてみれば、リーベル・プレート、インテル、モンテレイといった世界の名門クラブと対戦できるのは千載一遇のチャンス。ここで2018年ロシアW杯・ベルギー戦(ロストフ)で見せたような一撃をお見舞いできれば、もしかすると欧州再挑戦の道も見えてくるかもしれない。
もちろん、その前に浦和の躍進が最重要命題なのは間違いない。彼はこんな話もしていた。
「今の浦和はJリーグで戦力的に一番充実しているクラブではなくなってしまった。(ヴィッセル)神戸とか町田(ゼルビア)がマネーゲームで勝つことも多い。そうなると、やっぱり選手個人個人が成長していくことが大事になってくる。自分も若い選手、まだまだ伸びそうな選手にアドバイスしたりしていますけど、そこもポイントになってくると思います」
フィールド最年長のベテランはこの日の練習後も本間や二田理央らとともに自主練に励んでいた。自らの経験値を全て還元し、浦和を強豪へと押し上げるという重要なタスクを遂行すべく、2025年の原口は自身のキャリアを賭けて、ギラギラと前進し続けていくことになる。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。