新天地で「目立たなければ意味がない」 指揮官は“15ゴール”期待…目指すFWとしての再起【インタビュー】

今季から横浜FMに加入した遠野大弥【写真:横浜F・マリノス提供】
今季から横浜FMに加入した遠野大弥【写真:横浜F・マリノス提供】

【横浜F・マリノス編】遠野大弥、移籍リリースに綴られた「このタイミング」の真意

「日本サッカーを共に盛り上げる」を新たなコンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、クラブや選手の魅力を“深掘り”する「ZONE的Jクラブの深層」を掲載。今回は今季、川崎フロンターレから横浜F・マリノスへの移籍に踏み切ったFW遠野大弥にスポットを当てる。サックスブルーからトリコロールへ「このタイミングしかない」。神奈川県内のライバルに新天地を求めた背景には何があり、どのような覚悟を抱いたのか? 名門クラブで新たなスタートを切る男の今に迫った。(取材・文=藤井雅彦)

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――移籍に際しての公式リリースに「自分の目標を考えるにあたり、このタイミングしかないと思い決断しました」という興味深い言葉が綴られていました。まずは遠野選手の目標を伺ってもよろしいでしょうか。

「僕には海外挑戦という目標があります。もちろん自分の活躍次第ではありますが、シティ・フットボール・グループの傘下に属している横浜F・マリノスは海外から注目してもらいやすい環境と考えました」

――海外挑戦はいつ頃から描いていたビジョンなのですか?

「サッカーを始めた幼少期から漠然とイメージをしていましたが、具体的に意識するようになったのはJリーグでプレーするようになってからなので、21歳くらいですかね」

――21歳というと、期限付き移籍先のアビスパ福岡でJ2リーグながら11得点を挙げる活躍を見せた2021年ですね。

「藤枝明誠高校を卒業してからJFLのHonda FCでサッカーを続けることになりましたが、その時は海外挑戦どころかプロになりたいという考えすらなかった。とりあえずHonda FCで主力になることしか考えていませんでした。でも天皇杯や練習試合で結果を出すことで、自分はもっと上へ行けるんじゃないかという欲が出てきて、目線を高く設定するようになりました。

2021年は川崎フロンターレに加入してアビスパ福岡へ期限付き移籍することになり、目に見える結果を残して次の年からJ1の舞台でプレーするチャンスを得ました。フロンターレで活躍して海外へ飛び出していく選手の背中をたくさん見たことで、やるからには自分もその道を辿っていきたいという気持ちが強くなりました」

――川崎フロンターレでの4年間を振り返ると?

「まず、オニさん(鬼木達監督/現鹿島アントラーズ監督)がいなかったら、今の僕はいません。周りもめちゃくちゃ上手くて参考になる選手ばかりで、高いレベルで一緒にプレーできて良かったなと思います。本当に感謝しています」

――2021年にリーグ優勝、23年には天皇杯優勝を経験されました。一方で、個人としてゴール数が伸び悩んでいる現状をどのように受け止めていますか?

「もちろん満足していないですし、明らかに足りません。特に2023年と2024年は1得点しか挙げられていないので、本当に不甲斐ない数字でした。自分はFWとして結果を求めてやっていたので課題と受け止めています」

――2023年夏にも横浜F・マリノスから獲得打診があったとか。

「ありました。ただ、その時はいろいろな事情やタイミングのなかで移籍には至りませんでした。当時からF・マリノスは超攻撃的で魅力的なサッカーを展開していて、自分のプレースタイルに合うと思っていました。ものすごく興味のある話で、光栄でした。ですがフロンターレでやり残したことがありましたし、オニさんから直接の電話をもらって慰留の言葉をもらったのもきっかけで残留しました」

――あれから1年半後に「このタイミング」が訪れたわけですね。

「両チームの監督が代わったことも大きなターニングポイントでした。それともうすぐ26歳になる年齢面も加味して『このタイミングしかない』と思って決断しました」

新天地で「9」を背負う遠野大弥にホーランド監督も大きな期待を寄せる【写真:横浜F・マリノス提供】
新天地で「9」を背負う遠野大弥にホーランド監督も大きな期待を寄せる【写真:横浜F・マリノス提供】

移籍を後押しした新監督の言葉

――移籍加入した身として、認められないといけない立場ですね。

「やりがいがありますし、だからこそ結果に強くこだわっています。手応えはあるので、淡々とやり続けることが周りからの信頼に変わっていくのかなと思います」

――スティーブ・ホーランド監督の印象はいかがでしょうか。

「始動してからの練習グラウンドで『大弥は10点から15点取れる資質を持っている』と言われました。直接の声掛けは自信になりますし、より一層気合いが入ります」

――獲得交渉の際にかけられた言葉も胸に響いたと話していましたね。

「オンラインでしたが『大弥が必要だ』と言われて、本当に必要とされていると感じました。新監督から素直な言葉を聞くのはやはり嬉しいもの。スティーブのためにプレーしたいですし、思い描いているサッカー像を理解して、表現したいです」

――ストライカーナンバーを背負うことになりました。背番号9を付けた経験は?

「高校生ぶりですね。僕は自分をストライカーだと思っていますし、点を取るポジションで生きていくという覚悟があるので背負わせてもらいました。自分らしいプレーを見せて、特徴を存分に出せればと思っています」

――横浜F・マリノスの前線にはブラジル人トリオをはじめ、錚々たるメンバーがいます。厳しいポジション争いは移籍の障害になりませんでしたか?

「全く気になりませんでした。今までの経験で培ってきたものがあるので、自信を持ってやれれば自分の居場所を確立できると信じています。フロンターレでもレベルの高い選手たちと切磋琢磨してきたので、その点に関しては自信を持っています。横浜F・マリノスでもチームメイトと良い関係を築いて、生かし合っていきたい」

――チームメイトとしてプレーしてすごいと感じる選手がいれば教えてください。

「(アンデルソン・)ロペスはシュートが上手い。それだけではなく、周りの味方を使う技術にも長けていますし、柔軟でしなやか。常に良いところにいるなと感じます。味方のシュートのこぼれ球や打ち損じのところにいて押し込むような得点も多いのは偶然ではない。この前の練習で彼の動きに注目していたら、しっかりと狙ってポジションを取っていました。本能やセンスだけでなく、頭で考えていると思います」

――そういった長所は盗んでいきたいですね。

「どんなゴールでも得点は得点。綺麗じゃなくても泥臭くてもゴールとして記録されるわけですから、そういった嗅覚や感覚は見習っていきたいです」

「一番前のポジションでもやれるところを見せたい」

――これまではオフェンスのマルチロールというイメージが強いですが、こうして話しているとストライカー気質を強く感じます。

「フロンターレには素晴らしいタレントがたくさんいたので、左右のサイドハーフやインサイドハーフで出場する機会が多かった。いろいろな経験を通して成長できた部分もありますが、本音を言えば『この場所じゃない』という気持ちもありました。自分としてはファーストトップでプレーしたい気持ちも強かったので、葛藤がありながらも全力でやっていました」

――横浜F・マリノスでもその信念を貫きたいですか?

「ロペス選手が素晴らしいストライカーなのは重々承知していますが、一番前のポジションでもやれるところを見せたいという思いはあります。一度起用してみてほしいですね(笑)」

――目立ちたがり屋?

「サッカーに関しては目立ちたがり屋です。僕は目立つためにサッカーをやっているようなものです。目立たなければ、やっている意味がありません」

――ほかに目立つ方法は?

「サッカーで点を取ること以外で目立てない人間です。昔から根っからのストライカー気質なんです。それがフロンターレでプレーの幅を広げて、いろいろとできるようになったと思います。成長した部分をさらに伸ばして、もともと持っている自分のストロングポイントを発揮したい」

――ゴールパターンが豊富な印象です。

「左右両足でゴールを狙える自信がありますし、ターンからのシュートも好き。ミドルシュートやカットインからのシュートも得意なので、シュートのバリエーションはたくさんあるかなと。あとは周りとの連係やコンビネーションを磨くことで得点への感覚がさらに研ぎ澄まされていくと思います」

――では新シーズン、どんな遠野大弥を見せたいですか?

「周りからの期待があるのは理解しているので、その期待値を超えるような結果を積み重ねたい。横浜F・マリノスはタイトルにふさわしいチームですし、獲れるタイトルはすべて狙います。クラブにタイトルをもたらすような存在になって、個人としてもさらに羽ばたいていきたいです」

[プロフィール]
遠野大弥(とおの・だいや)/1999年3月14日生まれ、静岡県出身。西益津サッカースポーツ少年団(藤枝市立西益津小学校)-藤枝明誠SC(藤枝市立西益津中学校)-藤枝明誠高等学校-Honda FC-川崎フロンターレ-アビスパ福岡-川崎フロンターレ-横浜F・マリノス。FWとして左右両足の強烈なシュートや多彩な得点パターンを持ち味としている。横浜FM移籍初年度となる今季は背番号9を付け、チームのタイトル獲得へ得点量産が期待される。

(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)



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藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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