降格で決意「こんな顔させてはいけない」 かつてのエースと重なる熱量…“新9番”が目指す選手像【コラム】

J2降格が決まった試合で目に焼き付けたスタンドの光景
昨季の最終節、ジュビロ磐田は他力ながら勝利を条件にわずかなJ1残留の可能性を残していたが、サガン鳥栖に0-3で敗れ降格した。試合後、アウェースタジアムに集まったサポーターの前に整列し挨拶を行なった選手たちの中で、渡邉りょうは1人最後までその場にとどまりスタンドを見つめ続けた。(取材・文=高橋のぶこ)
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「あんなにたくさんのサポーターが来てくれたし、多くの方が残留を信じて応援してくれたと思う。自分はメンバーを外れたけど、絶対に勝って残留を掴み取るという気持ちで帯同していました。もう2度と(サポーターに)こんな顔をさせてはいけないし、日々その顔を思い出して自分のエネルギーにするしかないという気持ちでした。それしかあのときの僕にはできることがなかったので」
敗戦を受けてピッチサイドに居残ったのは、その試合だけではない。
トップで初先発をしたのは8月の鹿島アントラーズ戦。前線での活躍は鮮烈だった。スペースを突く動きで攻撃を活性化させるラン、相手最終ラインへのハードプレスは2-1での勝利の大きな要因となった。
次のFC町田ゼルビア戦は先発を外れたが、以降7試合に先発し夏の磐田移籍後11試合に出場。得点こそ2点だが、随所に持ち味を発揮し、負けた試合のあとは、自身の不甲斐なさをあえてさらけ出すかのようにスタンドの前に立ち続けた。その姿からは、勝利への執着だけではなく、途中加入した選手とは思えないほど強い責任感、チームを思う気持ちがにじみ出ていた。
「鹿島戦は手応えがありました。FWとして記録を残せなかったけど、守備のスイッチを入れたり、しっかり2度追いをするのは自分の特長ですし、チームが変わろうが力になれるのだなと感じることができた。でも、あの試合が自分のハイパフォーマンスではないし、あのプレーをアベレージにしていきたい。常に準備を怠らずメンタルも整えて新しいシーズンに臨みたいと思います」
昨季を踏まえ、加入2年目を見据えて渡邉はそう語る。

「どんなときもファーストディフェンスは自分の役割」
「素早くボールを奪うためには、相手にロングボールを蹴らせてセカンドを回収することも必要だ。前線からプレスを仕掛け、ときには我々のセンターバックが前に出ていくことも要求する」
ジョン・ハッチンソン新監督は今季、ポゼッションをベースにしつつ攻守で“スーパーアグレッシブ”なサッカーを目指すと明言し、体現するためのポイントとしてハイプレス、ハイラインを挙げている。
「どんなときもファーストディフェンスは自分の役割」と自負する渡邉のプレーは新しいそのスタイルに不可欠。今季、新9番のさらなる活躍が期待される理由の1つだ。
攻撃面では裏へのランに特に自信を持つ。昨季の磐田の前線において物足りなかった要素の1つで、渡邉は「ポゼッションサッカーにおいても敵を攻め崩す鍵となる」と捉えている。
「足元で受けてボールを回す中で、前にいる自分がどれだけ相手最終ラインと駆け引きをしてボールをひき出せるか、自分が受けなくても動くことで味方に時間とスペースをいかに多く与えられるか。ワンタッチゴールのチャンスをいかに得るか、そして決められるか。個人的には監督もチームに求めているそこのところにもっとこだわっていきたい」と語る。
「ゴールを脅かす迫力を一番の強みとするFWになりたい」
渡邉は2019年にJ3アスルクラロ沼津に加入。2022年夏にJ2藤枝MYFCに完全移籍するまでは、沼津で一般社会人としての仕事を掛け持ちしていた苦労人でもある。努力が実ったのは2023年のシーズン。開幕戦先発を果たすとゴールを量産。通算13得点を記録して一躍名を挙げた。ちなみにヤマハスタジアムでの磐田戦でも一矢報いる1得点を挙げている。
昨季は左足に怪我を抱え苦しんだ。今季も若干の違和感を覚えながらも、トレーニングには全力で取り組んでいる。練習後は筋トレと入念な身体のケアに時間をかけるため、「子どもを迎えに行ってご飯を食べて一緒に遊んでいるとあっという間に1日が過ぎる」日々。趣味を探す暇もないという。
練習ではトップ下に入ることもあるが、主戦場は1トップ。ジャーメイン良が移籍し、目下マテウス・ペイショットと先発を争っているが、鹿児島キャンプでの清水エスパルス戦(4本の予定だったが落雷のため2本目途中で中止)など練習試合を見る限りでは後塵を拝しているような印象を受ける。だが、渡邉にとってはそれもエネルギー源だ。
「町田戦に出られなかったときも悔しい思いがあった。でも、それがなくなったら選手としては終わり。難しいのは、どこまで感情として表に出すか。チーム競技だから悔しさを飲み込んだ上でサッカーに臨まないといけない。誰かのせいにしたりして外に矢印を向けるのは簡単だけど、自分に矢印を向けることは難しい。でも、難しいほうの道を選べば必ず成長というものが手に入る。それはプロ入りしたときから変わらない自分のスタンスだし、ずっと大切にしていきたい」
無論、今季はゴール量産を目指す。だが、それだけに固執してはいない。
「FWにとって大事なのは、エゴを持ちつつもどれだけ周りのために無駄な動きができるかで、ゴールはそうすることで得られる最後のプレゼントだと思っている」
謙虚さと泥臭さと闘志、悔しさを力に変える熱さ。それらは、かつてのサックスブルーのエース、ゴン中山(中山雅史)に通じるところがある。
「沼津のときはゴンさんが側にいました。一緒にプレーした時間は少ないけどゴンさんのゴンさんたる所以を肌で感じました。うまい選手はいるけど、自分はゴールを脅かす迫力を一番の強みとするFWになりたい」
のびしろを、自分が一番楽しみにしている29歳が目指す選手像は、ゴン中山が体現してみせた、誰よりも、そして何よりも相手DFに“恐怖を与え続けるストライカー”だ。
(高橋のぶこ / Nobuko Takahashi)