36歳ベテランの域も「まだイケる」 背中で示す青黒の10番、”自己満”強調も「いいことかも」【コラム】
![ガンバ大阪のフィールドプレーヤーで最年長の倉田秋【写真:徳原隆元】](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2025/02/13174840/20250213_Kurata-Shu-Tokuhara.jpg)
中盤のポジション争いに挑むフィールドプレーヤー最年長の倉田秋
2025年はリーグタイトル獲得を目指しているガンバ大阪。ダニエル・ポヤトス監督体制2年目の24年にJ1・4位、天皇杯準優勝という結果を残したのだから、チャンスは十分あるはずだ。
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しかしながら、昨季のチームを支えたボランチの要・ダワン(北京国安)と10ゴールをマークした坂本一彩(ウェステルロー)が移籍。最終ラインを統率する中谷進之介も「主力2人が抜かれているので、それは多少痛いなと思います」と本音を吐露していた。
得点力を宇佐美貴史に依存する状況は大きな懸念材料であるが、中盤でチームにダイナミズムを与えていたダワンの穴埋めもやはり喫緊の課題と言っていい。沖縄キャンプを見る限りだと、鈴木徳真を軸にネタ・ラヴィ、美藤倫、ファン・アラーノらが相棒として考えられている様子だが、フィールドプレーヤー最年長の倉田秋もその1人だ。
「僕はバランスを見ながらチームの流れを見られるのが特徴。それをみんなに伝えて、ゲームをコントロールするのが仕事だと思う。あとはダニが言っていた球際の強度やゴール前の精度にこだわってやる必要がある。去年はJ1・4位と天皇杯準優勝という結果を残せましたけど、やっぱりまだまだ足りないものがある。そこにこだわってやりたいですね」。36歳のベテランは持てる経験値を全力で還元していく構えだ。
今季を迎えるにあたり、ポヤトス監督が特に強調していたのが、敵陣でボールを奪う回数増の重要性だという。
「シーズンインの時のミーティングで昨季のデータを出されて、自分たちは自陣で奪った回数は多いけど、相手陣でボールを奪う回数がリーグで少ないほうだというのを指摘されました。だからこそ、今年はより相手陣で奪う回数を増やさないといけないと。そうすれば、自ずと得点シーンやゴールに迫る回数も増えていく。僕も運動量や前へ出ていく力を生かせるようになると思うんで、意識して取り組んでいきたいですね」と彼は改めて力を込めていた。
試合出場数が減少も「全然イケる」
かつて日本代表の指揮官を務めたヴァイッド・ハリルホジッチ監督から「動き続けなければ倉田じゃない」と言われたほどの走力やアグレッシブさで観る者を魅了してきた倉田も30代後半。フィジカル的には下降線を描いてもおかしくない年齢だ。
実際、そういった評価をされているせいか、近年は試合出場数が減少。2024年も25試合出場のうち、先発はわずかに6試合という状況だ。それに伴い、ゴール数も減っていて、日本代表に呼ばれていた頃のような目に見える数字を残せていない。それでも本人は「若い選手に負けるつもりはない」と野心を燃やし続けている。
「自分次第で全然、成長できるし、身体は鍛え続ければ落ちないんで、自分自身に対して厳しくやれば、全然イケると思っています。近年、出場時間が減っているのは、自分自身に課題があるから。ゴールに絡む仕事が少ないのも時間は関係ないし、もっともっとやれる。ホントに自分に厳しくやっていくことだけを考えたいですね」。高みを追い求めていくべく、倉田は自分に矢印を向けている。
そういったポジティブなマインドはガンバの伝統かもしれない。現在トップコーチを務めている明神智和コーチは41歳、遠藤保仁コーチも43歳まで現役を続行。ガンバOBの橋本英郎(解説者)も43歳までプレーヤーを続けていて、「40オーバー」は決して珍しくないのだ。
「自分の場合、『ここまでやる』という目標はないですけど、『満足いくまで』というか、『体がボロボロになるまで』『サッカーできるチームがあればやり続けたい』と思っています。だからこそ、ホントに1日1日が大事になってきますね」と引退の二文字が脳裏に浮かぶことは今のところ一切ない様子。そういう前向きなベテランがいることは、若い選手たちにとってもいい刺激になるだろう。
1月28日の浦和レッズとのトレーニングマッチ後も、倉田は2、3本目に出たメンバーとともに筋トレに励んでいた。
「(山田)康太とか(美藤)倫、(佐々木)翔悟とかもね、俺が『筋トレやる』と言ったら、『一緒にやります』とついてきてくれた。そういう選手たちがいるのは嬉しいですね。僕自身は刺激になりたいという考えは特にないし、ただ“自己満”でやってるだけなんですけど、そういう自分を見て、勝手にアクションを起こしてくれる若手がいるのは、やっぱりいいことかもしれない」と倉田は笑顔を覗かせた。
どんな状況でもベストを尽くすベテランが近くにいれば、若手は絶対に手を抜けないものだ。ガンバには倉田と38歳の守護神・東口順昭という偉大な存在がいる。2人とも最近はベンチにいる機会が多い分、黒子になってチームを支える役割を担っているが、今季は揃ってピッチに立って存在感を示す状況を増やしたいものである。
そのためにも、倉田は熾烈なボランチ争いを制する必要がある。スペイン人のポヤトス監督は守備強度や球際の強さだけでなく、ボールのつなぎに加えビルドアップ、パスセンスなども求めているだけに、その質も向上させていかなければならない。ガンバの育成育ちの彼にはそのベースがあるはず。これまで歩んできたサッカーキャリアの全てを駆使して、2025年は完全復活の年にしたいところ。“青黒の10番”が異彩を放つ姿を多くのサポーターが待ち望んでいる。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
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元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。