「時間稼ぎ」問題解決へ…海外が厳密ルール Jと欧州で生まれた“6分間の差”「決め事」も必須?【コラム】

まもなくJリーグが開幕を迎える【写真:徳原隆元】
まもなくJリーグが開幕を迎える【写真:徳原隆元】

Jリーグで問題視される「アクチュアル・プレーイングタイム」

 日本サッカー協会審判委員会は2月6日、今シーズン始めての「レフェリーブリーフィング」を開催し、今年の基準などについて説明した。その中で「レフェリー・アプローチ・フォー・シーズン・2025」として「試合の魅力を高めるゲームコントロール」という目標が示される。「ファイナル・デシジョンの判定の精度(向上)」「VARの介入の精度(向上)」とともに挙げられていたのが、「アクチュアル・プレーイングタイム(を延ばす)」という目標だった。

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 2024年、J1リーグのアクチュアル・プレーイングタイムは52分。イングランドは58分で6分間の差がある。わずか「6分」に見えるかもしれない。だが、アクチュアル・プレーイングタイムが短いチームは長いチームと対戦するとき、普段よりもプレーする時間が長くなるため肉体的にも精神的にも疲労が溜まる。極端に言えば、6分の差があるということは、アクチュアル・プレーイングタイムの長いチームは6分間動けなくなった相手を攻めることが出来るということだ。

 Jリーグ統括マネジャーの佐藤隆治氏は、「もちろん選手や、場合によってはチームスタッフとも協力をしてやっていかないと時間が延びない」としつつも、アクチュアル・プレーイングタイムを延ばすためにレフェリーができる例として次の2つを挙げた。

(1)「(両チームの選手を呼んで説明するような)マネジメントのときにダラダラ長い時間かけてしゃべっているのがいいのか」

(2)「VARの介入で、いくら正しかったとしても時間が延びれば延びるほどサッカーの魅力が冷めてしまう」

 確かにこの点はレフェリーがコントロールできるだろう。一方で、チームの協力がなければ決してアクチュアル・プレーイングタイムが延びることはない。報道陣からは「セットプレーにかかる時間が長い」「痛がっている選手が本当に怪我をしているのか不明」という指摘も出た。

MLSでは新たなルールも導入された【写真:ロイター】
MLSでは新たなルールも導入された【写真:ロイター】

アメリカMLSでは新たに時間稼ぎを防ぐためのルールをいくつか導入

 佐藤マネジャーはセットプレーについて「(選手は説明を求めてくるが)、それをすべて無視しなさいと言うつもりはないです」としつつも「やっぱりある程度のところで線引きしないと、いつまでもプレーが再開されない。ここは今年多分変わると思います」と、今年は変化があるとした。

 倒れている選手については、「レフェリーとしては騙しているんでしょうということで一律(に判断するの)はいけない」「やっぱり選手のみなさんにも(アクチュアル・プレーイングタイムを延ばすことに)協力してほしい」と訴える。と言うことは、やはりレフェリーとしては怪我の可能性のある選手を無理矢理プレーさせるわけにはいかず、そこはチームが協力しない限り、ゴロゴロ転がって時間稼ぎをすることは止められないということになる。

 だが、この「時間稼ぎ」の問題についてはもっと切り込んでもいいはずだ。というのも、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)では2024年、時間稼ぎを防ぐためのルールをいくつか導入した。MLSがこのルールを実験的に2022年、2023年にリザーブリーグで試すと、15秒以上倒れている選手は1/4から1/5に減少したという。以下にその内容を示す。

(1)選手交代時
交代してピッチを離れる選手は10秒以内にピッチから出なければ、入ってくる選手が入るときに60秒待たなければいけない(GKは例外)

(2)負傷時
 選手が15秒以上倒れているときは、レフェリーはプレーを停止してその選手をピッチから出すことができる。その場合、選手は入ってくるまでに少なくとも2分間は待たなければいけない(頭部やGKの怪我、重症の場合、カードが出されるような場合などは例外)

MLSのように厳密にしなくても、いくつか案はある

 もっとも、リオネル・メッシは負傷してピッチ外に出たとき、戻るときに待たされたことに対して不満をぶつけていた。確かに相手を痛めつければ、ピッチから少なくとも2分は追い出すことが出来ることになる。被害を受けたチームに対して一定時間人数を減らすペナルティーが科されるということになりかねない。MLSのように厳密にしなくても、日本でも似たようなことを行ってはどうだろうか。

 今、たぶん一番ストレスが溜まるのは、倒れていてしばらくしてドクターが呼ばれ、そこで治療が行われ、選手がそのまま立ち上がってプレーすることではないだろうか。となれば、例えば15秒以上倒れている選手がいたら、すぐにチームのドクターを要請する。そしてチームのドクターが入れば、必ず一度ピッチの外に出なければいけない、ということにするのはどうだろう。

 あるいは、フットサルのように主審が止めた時点で時間をストップし、しっかり「プレーイングタイム」を確保してはどうだろうか。もっともそうすると、イングランドでも58分しかプレーしていないところで90分間プレーすることになり、体力が持たないのは間違いないのだが。

 ともかく、このアクチュアル・プレーイングタイムを延ばすというのなら、各チームの協力という善意だけではなく、いくつかの決め事があってもいい。その決め事は確実に日本サッカーのためになるのだから。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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