遠藤航の「プロ意識が鍵を握る」 リバプール4冠達成へ…地元ファンが絶賛「ほかにいない」【現地発コラム】
![キャプテンマークを巻いた遠藤航【写真:Getty Images】](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2025/02/09113530/20250208_Endo-Wataru-Getty.jpg)
ホームで快勝し決勝進出を決めたトッテナムとのリーグカップ準決勝第2レグ
力の差は歴然としていた。2月6日のリーグカップ準決勝第2レグ、リバプールはトッテナムを寄せつけず2戦合計4-1。ニューカッスルを相手にウェンブリー・スタジアムでタイトル防衛に挑む、3月16日の決勝へと駒を進めた。(取材・文=山中忍)
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立ち上がりから、時間の問題と思われたリバプールの1点目は前半34分。自信と調子を上げている選手の代表例でもあるコーディ・ガクポが、ここ10試合で7得点目となるゴールを決め、アウェーでの第1レグで敵が手にしていたリードを帳消しにした。
後半早々の6分、クオリティの高さを象徴するモハメド・サラーが、自身の今季26ゴール目となるPKを決めた時点で、勝負はついていたと言っても良い。まだ合計スコアは2-1ながら、決勝進出を確信したアンフィールドのホーム観衆が、「ウェンブリーに行くぞ!」と歌い始めてもいた。
トッテナムは、二桁台の故障者、第24節を終えて13敗というリーグでの低迷、そして、2008年のリーグカップ優勝を最後にタイトル獲得のないプレッシャーもあったのだろう。アンジェ・ポステコグルー体制下での原理原則とも言うべき、ハイラインでの積極姿勢まで影を潜め、攻守どちらもままならないチームとなってしまっていた。
今冬の新戦力がピッチに立ってはいた。移籍市場終了間際に加入した、新CBケビン・ダンソ(ランスから期限付き移籍)と、新FWマティス・テル(バイエルン・ミュンヘンから期限付き移籍)も含まれる。しかし、即座のカンフル剤注入とはいかなかった。
対照的に、今冬の市場では静観を決め込んだリバプールは、ローテーションによる主力のコンディション管理も可能な状態だ。トッテナムが脅威を感じさせないままだった後半には、ディオゴ・ジョタ、アレクシス・マック・アリスター、ルイス・ディアスの投入という、攻撃陣のリフレッシュによるゲームマネジメントも実行された。最終ラインの要であるフィルジル・ファン・ダイクが、同35分に自らのヘディングでチーム4点目を決めた7分後、ベンチに下がってお疲れ休みとなる余裕まで見られた。
![リバプールファンからもお墨付き【写真:ロイター】](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2025/02/09114444/20250209_Liveroiil-Fans-Reuters.png)
地元サポーターが語る“遠藤評”
カップ戦準決勝とはいえ、内容的にも結果的にも、プレミアにおける1位と14位の対戦そのものだったと言わざるを得ない。そして、それほど強いリバプールの一員、さらには、その強さの一因として日本代表MF遠藤航もいる。
この日のベンチスタートは、まずは得点が必要だった第2レグで予想されたことではあった。最後まで出番がなかった点も、本職6番の手を煩わすまでもない試合展開となったのだから無理もない。それでも遠藤の必要性は、ピッチに立つ姿を眺める機会が減っている地元サポーターたちにも認識されている。
夜8時開始の試合ということで、まずはリバプール市内中心部のホテルにチェックインした筆者は、近くのカフェバーで喉を潤していた2人組に、現在の遠藤評を尋ねてみた。すると、背中にリバプール賛歌の頭文字「YNWA」とあるグレーのジャージを着た男性は言った。
「シーズンが始まった頃は、1月にはいなくなっているんじゃないかと思えたよ。でも今では、エンドーがいる意味が分かる。チームが優勝を争ううえで、彼にしかできない仕事が大切になると思うから」
年季の入った赤白マフラーを巻いた、もう1人が合いの手を入れた。
「出場時間が3分だろうが、30分だろうが、逃げ切ったり、敵の勢いを抑えたりするためにエンドーの力が役に立つんだ」
アルネ・スロットは、攻撃寄りの選手に6番役を任せたがる。その新監督に、遠藤はどこまで評価されていると思うかと尋ねると、彼はこう続けた。
「CLで、1点リードでドミニク(・ソボスライ)と交代させるつもりだったはずが、1-1にされたあとでもエンドーが投入された試合があっただろう(1月後半のリール戦)? いわゆるデストロイヤーみたいな評価でしかないのだとしたら、あの交代はなくなっていたと思う」
相棒が再び口を開いた。
「パス能力ではライアン(・フラーフェンベルフ)に勝てないけど、エンドーみたいなタックルやボール奪取は、マックA(マック・アリスター)やドミニクにも無理。終了間際に入っていきなりFKをもらうプレーなんて、まさに“クラシック・エンドー”!」
昨年12月、後半44分に投入されたCLでのジローナ戦(1-0)に触れたのだろうが、この「いかにも遠藤」という表現は、褒め言葉としてではなく用いられる場合もある。アウェーゲームを現地メディアのテキスト速報で追っていた際、ベンチを出て間もなくファウルを取られた場面で「クラシック・エンドー」とあった記憶がある。この日も、スタジアムに向かうバスで後部座席の向かいに座った男性ファンに、「いかにも」だと思ったことがあるかを尋ねたところ、「速攻イエロー」と言って笑っていた。
だがこれは、出場時間の長短にかかわらず、常に危険探知のアンテナが働き、自然と体を張ることができる持ち味の裏返しだとも理解できる。事実、このやり取りを聞いていた隣席の男性は、やはり微笑みを浮かべながら、こう参加してくれた。
「本人の責任じゃなく、スロットの好みで出番が減っているエンドーは、“オール・ユー・ニード・イズ・ラブ”。俺は、愛情を示してやりたいね。入った途端にインターセプトを見せられるような選手なんてほかにいない」
バスを降りてメインスタンドへと向かう途中、声を掛けることのできたファン3人にも、遠藤のイメージを訊いてみた。すると、「ウチらの中盤で貴重な強さ」「守備的MFでもCBでもポジショニングがいい」「気の利いたパスを狙うとカットされる」と、2対1で前向きな印象が上回っていた。
![遠藤航のプロ意識はファン・サポーターにも伝わっている【写真:ロイター】](https://www.football-zone.net/wp-content/uploads/2025/02/09113532/20250209_Endo-Wataru-2-REuters.jpg)
出場機会減でも貫く高いプロ意識
筆者が自分で答えるとしたら、「無私のプロ」になるだろうか。選手なら誰でも、出場時間の減少には思うところがあるものだ。それでも遠藤は、「チームのために」を地でいける精神構造もトップクラスときている。
自軍のリーグカップ決勝進出を、ベンチから眺めることになった直後も例外ではなかった。ピッチへと足を進めた遠藤は、まずフル出場でチーム3点目のゴールも決めたソボスライを労いに。終始プレッシングにも精を出したトップ下は、膝に手をついて試合終了の笛を聞いていた。続いてファン・ダイクとCBコンビを組んでいたイブラヒマ・コナテを祝福。最後は、この試合でも中盤中央を任されたフラーフェンベルフと話をしながらトンネルへと姿を消した。
その後、この日は一般席で試合を眺めた筆者が、遠藤に「リバプール、本当に強いね」と声を掛ける機会に恵まれた際、「チーム全体の自信が強まっていますし、(ジョー・)ゴメスも戻ってきたんですよ」と反応してくれた彼の表情も印象的だった。
昨年12月29日のウェストハム戦(5-0)で負った怪我(ハムストリング)で試合から遠ざかっているゴメスの復帰は、今季の起用で「使える」と評価されているCBとしての出場チャンスが減ることを意味するとも考えられる。ところが遠藤自身はというと、リバプール・ファンと変わらず、純粋にチームメイトの復帰を喜んでいた。
こうした遠藤のあり方は、もちろん実際のファンにも理解されている。夜11時過ぎ、会場から戻ってホテルの小さなバーで一息ついていると、若い男性が「モー・サラー! モー・サラー!」と歌いながらやってきた。目が合ってしまった筆者に「エンドーを観にきたのか? 残念だったな」と同情すると、「でもな」と言って続けた。
「複数のタイトルを手に入れるには、プロ意識の高さが鍵を握る。チーム全員の意識がエンドー並みの高さなら、絶対に実現できると思う」
中2日で訪れるアウェーでのFAカップ4回戦では、32歳の誕生日をピッチ上で過ごす遠藤の姿があることだろう。プリマス(2部)という格下相手の一戦という見方はある。だが、当人にすれば、現実目標として国内外4冠を狙えるチームに貢献できる一戦にほかならなない。頼れる代役がいればこそ、例えば、レギュラー抜擢1年目の22歳にして、先のトッテナム戦が今季出場32試合目となっているフラーフェンベルフにも、束の間の休息が与えられ得る。
遠藤自身が、昨年最後の試合でもあったウェストハム戦後に言っていた。「リバプールに来た理由はタイトルを獲ること。間違いなくチーム全員の力が必要だと、みんなも分かっている。その一員として、とにかく自分はやっていく」のだと。
過密日程に拍車が掛かり、国内外でのタイトル争いが本格化するシーズン終盤。強いリバプールの「鍵」を体現する男の本領発揮も重要だ。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。