一発退場から1週間…ロッカーで激怒「エスパルスの選手じゃない!」 主将を託した意図【インタビュー】
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清水エスパルス北川航也のキャプテン就任背景を秋葉忠宏監督が語った
清水エスパルスの元日本代表FW北川航也は、2024シーズンのJ2でリーグ戦34試合に出場してチーム最多となる12ゴールを記録した。チームの3シーズンぶりとなるJ1昇格に大きく貢献。秋葉忠宏監督がシーズン開幕前にキャプテンに選出したストライカーが、リーダーとして大きく成長した様子を指揮官が振り返った。(取材・文=河合 拓/全8回の7回目)
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北川のキャプテン就任は、外から見れば少なからず驚きだった。クラブの下部組織出身選手であり、日本代表の経験者でもあるという点では、適任だったかもしれない。その一方で2023シーズンは33試合に出場したものの途中出場が多く、ゴール数も「4」にとどまっていた。クラブOBのレジェンドであるFW岡崎慎司氏も背負った23番をつけて臨むシーズンは、クラブ全体のことを考えさせること以上に、自身の本来のプレーを取り戻すことが重要なのではないかとも思われたからだ。
秋葉監督は2023年当時ついて「ある程度、チーム内に序列みたいなものができあがっていて、イジるのがすごく難しかった」と説明。その後、若いときから知る北川にキャプテンを託した思いを話してくれた。
「自分は年代別代表の時から、航也が16、17歳の頃から知っているんです。もう(プレーは)抜群でしたし、『北川航也世代』と言われる世代でしたから。だから、あんなものじゃないでしょというのはわかっていましたし、悔しさもあったと思います。そして何よりも、このクラブをずっと見てきて育った選手、子供としても見てきて、プレーヤーとしても育成からやってきた選手に、どうしてもキャプテンをやってほしい思いがあったんです」
大きな期待を込めて北川にキャプテン就任を頼んだ秋葉監督だったが、「お願いした後、『1回、考えさせてください』『いろんな人に相談させてください』と、3日くらい保留にされました」と苦笑いし、「でも、最後は心地よく『やります』と返事をしてくれたんです」と、北川自身も即答はできなかったと明かした。
出場停止の試合でも…ロッカールームで選手を鼓舞
北川にキャプテン就任を保留された時、秋葉監督は「航也らしいな」と感じるとともに、清水のキャプテンを務める『重み』がわかっているんだなと、あらためて感じていたという。
「即答するより、『本当にいいのか』とか、いろいろなことを考えてくれたんだと思います。それがこのクラブでキャプテンをやることの重みだということを、わかってくれているんだろうと僕は感じ取れたので。偉大なキャプテンの姿をサポーターとしても、育成選手としても、プロになっても先輩の背中を見てきた。そして、いよいよ自分たちが引っ張る代になったというのがあったと思います。本人は、『初めてですし、何もしていません』って言いますが、本当にいろいろなことをしてくれました」
秋葉監督が最も驚いたのは、北川が出場停止だったシーズン終盤のいわき戦のハーフタイムにとった行動だった。前の週の栃木SC戦(1-0)で、北川は相手選手にタックルを受けて倒されると、立ち上がる前に相手選手の顔に蹴りを入れる報復行為で、一発退場となっていた。キャプテンとしてあるまじき行為で退場になったが、チームは10人でリードを守り切り、この試合でJ1昇格を決めた。
3試合の出場停止処分が下された北川は、いわき戦をスタンドから見ていた。0-0で迎えたハーフタイム、チームの戦いぶりに不甲斐なさを感じたのか、北川はスタンドからロッカールームに行くと「ミスをするのは仕方がないけど、なんでボールを追わないんだ! そんなのエスパルスの選手じゃない!」と、プレーしていた選手に誰よりも激怒していたという。
「退場して3試合出場停止になったばかりにもかかわらず、誰よりも怒っていましたから。それは嬉しかったですよね。言われた選手も、同じ選手に言われるのが一番きついと思うんです。指導者が言うのは当たり前ですが、やっている選手、しかも実践していた選手に言われると一番きつい。ハーフタイムにスタンドから降りてきて、一番怒っていた姿は、キャプテンとして印象的な1つのシーンですね。やっぱり環境とか、立場とかが人を育てる、変えるということを実感させてもらえたワンシーンでした」
2024年12月11日には、来シーズンもクラブとの契約を更新。ユース出身の28歳のストライカーが新シーズン、彼にとっては欧州へ渡る2019年途中以来となるJ1の舞台でどのようなプレーを見せ、チームを引っ張っていくかにも注目だ。
[プロフィール]
秋葉忠宏(あきば・ただひろ)/1975年10月13日生まれ、千葉県出身。現役時代は千葉―福岡―C大阪―新潟―徳島―草津―相模原でプレー。相模原では選手兼監督として活躍。13年より群馬の監督、その後は日本代表のアンダー世代でコーチも務め、20年より水戸の指揮を執る。23年から清水のヘッドコーチとなり、同年4月から監督に就任した。熱い言葉で選手、サポーターを鼓舞し、24年5月にはJ2通算100勝を達成。同年、清水のJ2優勝&25シーズンのJ1昇格に導いた。
(河合 拓 / Taku Kawai)