J1新監督との“架け橋”に 怪我多きサッカー人生も「もう離脱しない」…爆発的走力で右WB凌駕へ【コラム】

宮市はイングランドでのプレー経験も豊富…32歳が今季右WBに
2022年のJ1タイトル獲得後、23年は2位、24年は9位と下降線を辿っている横浜F・マリノス。昨季はハリー・キューウェル監督就任、23-24年シーズンAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝での大敗、24年7月のジョン・ハッチンソン暫定監督の昇格、夏場以降の超過密日程による停滞展など、数々の苦境に直面し、タイトルに手が届かなかった。
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迎えた2025年。チェルシー時代にジョゼ・モウリーニョ監督(現フェネルバフチェ)、イングランド代表時代のガレス・サウスゲート監督の下でそれぞれ参謀を務めたスティーブ・ホーランド新監督を招聘。これまで長くやってきた4バックから3バックへシフトし、新たなチームを作り上げている真っ最中だ。
日本という未知なる国へ赴いた指揮官はサッカースタイルやレフェリング、環境の違いなどに戸惑うこともあるだろう。もちろん同じタイミングでスポーツダイレクター(SD)に就任した西野努監督のサポートはあるものの、選手側にもストレートに意思疎通できる人材がいれば理想的。その大役を担うのが、英語堪能でイングランドサッカーに精通している宮市亮である。
ご存じの通り、宮市は中京大中京高校卒業直前の2010年に欧州に渡り、イングランド1部アーセナルからレンタルされたオランダ1部フェイエノールトで大ブレイクした快足アタッカーだ。英国では12年1月~14年6月までの丸3年間、ボルトン、ヴィガン、アーセナルの3クラブでプレー。怪我で戦列を離れていたこともあったが、試合に出ていた時期もある。ホーランド監督はちょうどその頃、チェルシーでアシスタントコーチを務めており、同リーグの一員だった宮市の情報を収集したこともあったのではないか。
2021年7月にマリノスに赴いてから、常に英語を操る指揮官の下でプレーしてきた宮市だが、今回のホーランド監督とはより密に意思疎通できる部分も多いはず。そこは彼の大きな強みと言っていい。

「内田篤人さんみたいな攻撃も守備もできる優れたサイドプレーヤーを目指して」
こうした背景もあって、今回の右ウイングバック(WB)へのコンバートをポジティブに受け止められたに違いない。
「右WBはドイツのザンクトパウリ時代に何回かやったことがありますし、プレミアのヴィガン時代にもやりました。これまでのウイングよりも長い距離を走ることになりますけど、それは時間の経過とともに慣れてくると思う。僕のスピードは生かしやすいですし、攻守両面で貢献していけると思う。内田篤人さんみたいな攻撃も守備もできる優れたサイドプレーヤーを目指していきます」と本人はワクワク感を抱きつつ、新たな役割に取り組んでいるという。
今の陣容で、右WBに入るのは、宮市と井上健太の2人だ。井上は1対1のドリブル突破に秀でたアタッカーだが、宮市の方は縦へスピードとチャンスメーク、自らフィニッシュに関与する凄みというストロングがある。それをお互いに使い分けていけば、マリノスの攻撃はより多彩になる。指揮官もそういう狙いを持って宮崎キャンプでトレーニングを積み重ねていたはず。その成果を2月12日の新体制初陣となるAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)上海申花戦で発揮したいところだ。
「開幕までの上げ方? もう離脱しないこと。トレーニングセッションに参加し続けること。そうすればコンディションは自ずと上がっていくと思います」と宮市は偽らざる本音を吐露したが、とにかく怪我だけはしたくないという強い気持ちを持って2025年に挑んでいる。
シーズンフル稼働が重要なミッション
思い返してみれば、マリノス加入後も2022年7月のE-1選手権・韓国戦(豊田)での右膝前十字じん帯断裂で全治8か月という重傷を負い、23年5月に復帰。そのシーズンは徐々に状態を引き上げることができ、18試合出場3ゴールという結果を残した。そして24年は開幕からコンスタントに「ゲームチェンジャー」として途中出場。攻撃陣に活力を与える役割を担ってきたが、9月に右ふくらはぎ肉離れに直面。全治6週間と診断され、シーズンフル稼働が叶わなかった。
今年33歳になるだけに、より怪我のリスクは上がる。それをうまく回避しつつ、自分なりにいいコンディションを保ちながら、シーズン通して戦い抜くことが重要だ。ホーランド監督もそれを何よりも強く望んでいるに違いない。
「年長の宏太君(水沼=ニューカッスル・ユナイテッド・ジェッツ)が移籍したこともあって、僕は今のマリノスでは年齢的に上の方になってきました。自分でも『ベテランになってきたな』というのは感じますし、自分の価値をより示さないといけない。怪我をせず、リーダーシップを発揮しないといけないという自覚もあります。使う使わないは監督が決めることですけど、まだまだ高みを目指せると思っている。そういうスタンスで頑張りたいですね」と宮市はホーランド新体制で年長者らしい風格も示していくという。
WBというハードワークを求められるポジションで戦い抜くのは本当に厳しいことだが、彼の潜在能力とサッカーに対する真摯な姿勢があれば、十分可能なはず。ある意味、この男の稼働率をどれだけ引き上げていけるかが、名門クラブの成否を左右すると言ってもいいだろう。
背番号23が右サイドで疾走し、対戦相手を次々と凌駕していく姿を見られれば、本当に最高のシナリオだ。30代半ばになっても走力、推進力、打開力を大きく伸ばせることを、2025年の宮市には実証してほしいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
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元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。