またも降格味わい…屈辱のJ2再出発 41歳ベテランが主張、目標は「優勝だけじゃない」【コラム】
今季J2を戦う磐田、新キャプテン川島永嗣が主張した復活への意識改革
ジョン・ハッチンソン監督が率いるジュビロ磐田は約2週間の鹿児島キャンプを終えて、J2開幕に向けて、チームの仕上げに入っていく。キャンプの終盤、ハッチンソン監督は現役引退した山田大記CRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)を引き継ぐ新キャプテンの選出方法として、独自のプランを明かした。それは選手による投票だ。
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「投票というのは選手に任せたいということから決めました。このクラブ、スタッフとしてもキャプテンというのは選手がそれぞれ思う、自分たちが率いてほしい人、選手が信じるキャプテンを選ぶというところで、選手たちに任せました。結果は私も喜ばしいものです」
そうハッチンソン監督が語るキャプテンに選ばれたのは加入2年目となる41歳のGK川島永嗣だ。昨年13年半ぶりに欧州からJリーグに帰ってきた川島は新天地の磐田で守護神を担ったが、磐田は最終節でJ1残留を逃した。キャンプ中に話を聞くと「J2で優勝するという目標だけじゃなくて、自分たちがまたJ1に戻った時に、どれだけ優勝争いに絡んでいけるか。本当に高いものを自分たちもやっていかなければいけない」と主張していた。
そして、その目標のために大事なこととして「みんな、1人1人の意識が大事だと思いますし、誰かが引っ張るというよりかは、そういう意識が1人1人から出てくるのが一番かなと思います」と語った。川島のキャプテン就任というのはある意味、自然の流れだったかもしれない。ハッチンソン監督もあくまで選手たちが選んだキャプテンであることを前置きしながら「本当に素晴らしい人間性ですし、もちろん明らかにリーダーシップもある選手です」とコメントした。
選手投票の結果はミーティングで山田CROから発表されたが、川島は前キャプテンとも昨年からことあるごとにディスカッションを繰り返して、志を共有してきた。「大記はいろんな選手とコミュニケーションを取ったり、グループがうまく行くように、常に状況を見ていたと思います。僕は横からチャチャ入れるだけでよかったんですけど笑」と振り返る川島は「新しい監督が来て、自分たちは新しいサッカーにトライしている。でもやっぱり、それを受動的に受け取るんじゃなくて、1人1人が生き生きして、特長を出さないと意味がない。そういうものを出していけるグループになっていけたらいい」と決意を語った。
ハイプレスとポゼッションをベースに“魔境”J2に挑む
そのキャプテンを支えるのが、同じく選手投票で選ばれた「リーダーシップ・グループ」だ。選手会長でもある松本昌也をはじめ上原力也、松原后、中村駿の4人で構成されており、若手からベテランまで、チーム全体をまとめる役割を担う。川島は彼らの存在について「まさに“こいつらがやったらいいんじゃないかな”というメンバーだった。そういうメンバーがグループを引っ張っていけたらいいと思いますし、ジュビロの歴史を知ってるメンバーが多い。このクラブを強くしたいという思いが強いと思うので。そういう気持ちで、グループを引っ張っていけたらいい」と信頼を明かした。
その1人である松原は清水エスパルスでプロのキャリアをスタートした経歴を持つが、中学時代を磐田のアカデミーで過ごしており、ベルギーのシント=トロイデンから磐田に加入して4年目となる。J1昇格もJ2降格も経験した松原は「このクラブにタイトルをもたらし、J1で戦ってタイトルに導くモチベーションがありますし、なにより地元の愛するクラブ。個人としてはさらに高みを目指していきたい」と語る。
上原も磐田のアカデミー育ちであり、松本は磐田に在籍して9年目になる。まさに磐田というクラブと苦楽をともにし、最もクラブを知る3人だが、もう1人の中村は毛色が異なる。今月31歳になるMFは昨シーズン、磐田を躍進に導くべくアビスパ福岡から加入したが、前半戦のほとんどを怪我とコンディション不良で棒に振り、後半戦もチームを支えきれなかった悔しさがある。
「ジョン(・ハッチンソン監督)が求めているものは競争しながら、全員で高め合いながら、ジュビロファミリーとして戦っていくこと。シーズンとして難しい立ち位置になる選手もいるだろうけど、そういう選手たちが必要な時も絶対来ると思う。“リーダーシップ・グループ”に選ばれましたけど、全員に声掛けしながら1年間やっていければ」
磐田が目指すのはハイプレスとポゼッションをベースに、支配的に相手陣内で戦うサッカーだ。聞こえはいいが、J2というもしかしたらJ1より難しい“魔境”で、そのスタイルは茨の道かもしれない。だからこそ、いかなる時もブレない一体感が必要になってくる。「自分たちはまた新しいものを築いていかないといけないので。産みの苦しみじゃないですけど、自分たちがそれを理解してやっていけたら」と前を向く川島キャプテン、そして4人の“リーダーシップ・グループ”を中心に、ここから長いシーズンをどう戦って行くのか。昨季にJ1復帰を果たしながら、1年で再びJ2降格を味わうことになった磐田に期待も不安も入り混じるが、楽しみに見守っていきたいところだ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。